職務発明 その2 いくらかかるの?

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前回は、最近街中で見かける信号機や踏切に使われている綺麗な発行パネルに、ノーベル物理学賞を受賞した中村修二教授青色ダイオードが使用されている事に関連して、職務発明の概要をモデル裁判例を交えながら簡単に解説いたしました。

基本的なことをもう一度簡単に整理すると、

職務発明とは、従業者等がした発明であって、その性質上使用者等の業務範囲に属しかつ、その発明をするに至った行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(特許法第35条第1項)のことをいいます。

前回は、お伝えしていませんでしたが、上記以外の発明は、自由発明業務発明として区分されます。 自由発明とは、使用者等の業務範囲に属さない発明のことをいい、使用者等の業務範囲には属するが、職務発明の条件を満たしていないものを業務発明といいます。

従業員が行った職務発明に関しては、使用者に無償の通常実施権が認められていること特許法35条1項)、予め職務発明に関する権利を会社が譲受けられるように勤務規則等に定めておくこと(予約承継)もできること(特許法35条2項反対解釈)、契約、勤務規則そ他 定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利を取得させ 、使用者等に特許権を承継させ、若しく使用者等ため専用実施権を設定した従業員は、「相当の利益」(旧法では「相当の対価」)を受ける権利を有すること(特許法35条4項、旧法同条3項)といった特徴があります。

以上述べたように、その他の規定も含め、職務発明に関しては特許法の35条に規定されています。

上述の「相当の利益」は、改正法以前は「相当の対価」といっていて、その相当の対価をめぐっては、以前から労使間で争いがあっていたこと、勤務規則等に定められた額が支払われていたとしても、これによる対価の額が「相当の対価」に満たない場合には不足分の支払いを請求できるというのが最高裁としての立場であることをモデル裁判例をまじえながら、前回の記事でお伝えしました。

この職務発明に関する特許法35条については、平成27年7月10日職務発明制度の見直しを含む特許法等の一部を改正する法律」平成27年法律第55号)が公布平成28年4月1日に施行されました。実は、今回の改正前にも、同条については、平成16年に改正が行われています。*1

この平成16年改正法のきっかけとなったのは、上記モデル裁判例以降、頻発する職務発明に対する訴訟に対して、使用者側としては、「(契約)、勤務規則その他の定め」で定めた金額を支払っていただけでは、相当の対価としての確定性に乏しいこととなってしまい、企業側の研究開発投資額が未確定(予測可能性が困難)になってしまうため、企業側の研究開発投資意欲をそいでしまうとう問題があり、「相当の対価」については全面的に契約の原則である労使間の私的自治の原則に委ねるべきであるという声が産業界から相次いだためとされています。

 

平成16年改正法以前の昭和34年法時代

旧法(昭和34年法)では、使用者が従業員の同意を得ないまま定めた職務発明規定等 も, 特許法 35 条にいう 「勤務規則その他の定」に該当するとされていたこともあり、

上記モデル裁判例であるオリンパス光学工業事件(平成15年4月22日第三小法廷判決)で、勤務規則等に定められた額が支払われていたとしても、これによる対価の額が「相当の対価」に満たない場合には不足分の支払いを請求できることを最高裁が認める以前の実務の世界では、使用者が一方的に定めた勤務規則による相当の対価を従業員側に支払うだけで済ませてしまうということが、当然のように行われていて、従業員側から不満が多発するとか、勢い訴訟までに発展するということは殆どなかったと言われています。

なぜ急に研究開発職側従業員が、権利意識に目覚めたのか不思議な感じもしますが、使用者側が強い立場ということだけに原因を特定することはできないような気もしますね。兎に角、突然従業者側のインセンティブの低さに伴う、研究開発意欲が問題視されだしたわけです。

以上説明したような使用者側、労働者側双方の研究開発意欲の減退懸念が、特許法35条の労使双方の利害を調整し産業界の研究開発の促進に寄与するという趣旨に反することとなることを防止するために改正が行われました。

35条の条文の内容的には昭和34年法と殆ど変わっているところはないのですが、「相当の対価」について次のような改正が行われています。

まず、その4項で
契約、勤務規則その他の定めにおいて、従業者等が支払を受けることができる 対価について定めた場合には、原則としてその定めたところに基づき決定される対価を「相当の対価」としています。
ただし、従業者等と使用者等との間には、その有する情報の量や質、交渉力における格差が存在することから、対価の決定についてすべてを私的自治に委ねるのは適切ではなく、契約、勤務規則その他の定めにおいて対価について定める場合において、それが「相当の対価」と認められるためには、その対価が決定されて支払われるまでの全過程を総合的に評価して不合理と認められるものであってはならないこととされました。

 

そのことにより、使用者は、上記但し書きの条件を満たすことを前提に、使用者が作成した勤務規則その他の定めで定めた対価を、原則、「相当の対価」とすることが認められたことになります。

では、その但し書きの条件は、「勤務規則その他の定め」にどのような定めをしていれば、満たしたことになるのでしょうか?

残念ながら、法の適用基準に関する関係上、この平成16年改正による訴訟での判断蓄積が殆どない状態であるのが現状のため、現在でも、職務発明の殆どの訴訟が旧法(昭和34年法)の内容で判断されています。

つまり、

対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額及び その発明がされるについて使用者等が貢献した程度考慮して定めなけ ればならない。

という、旧法4項により、判断されているということです。

平成16年改正では、「相当の対価」の正当な評価に関して、その5項において

前項の対価についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項の規定により不合理と認められる場合には、第三項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。

としており、内容の意味としては、

使用者等と従業者等の間の多様な事情を考慮して「相当の対価」の額を算定することが妥当であることから、「相当の対価」の額を算定する際の考慮要素として、改正前の特許法第 35 条第 4 項が規定する「その発明により使用者等が受 けるべき利益の額」と「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」 だけでなく、その他の事情についても広く考慮した上で「相当の対価」が算定さ れることを条文上明確にした。

としています。

因みに、法の適用基準に関しては、平成16年改正法により判断されるのは、平成17年4月1日以降から 平成28年4月1日前に権利承継 された職務発明に対する訴訟ということになります。

現在注目されている訴訟として、野村證券職務発明対価事件(平成26年10月30日東京地裁判決)があります。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/627/084627_hanrei.pdf

 

話は変わりますが、独立行政法人 労働政策研究・研修機構調査データに興味深いデータがあったのでご紹介しておきます。

上述したように、平成16年改正のきっかけとなったのは、職務発明の相当の対価についても、産業の発展に寄与するという法の趣旨に鑑みれば、できるだけ労使の私的自治に委ねるべきだということで、産業界からも強く要望されていたということでした。

しかしながら、同研究機構による調査によれば、職務発明に係る個別の労働契約の締結状況の調査項目において

 対価を決定する基準等の労働契約の締結状況については、「予定なし」が 73.5%ともっとも多い。法改正後も 7 割の企業は個別に労働契約を締結することを想定していないことがわかる。

という結果を伝えていたのです。 何故なんでしょうね。

企業側としては、できるだけ労使納得の状況下を作りたいということで、使用者の一方的立場を押し付けるだけの形となりがちな契約は避けようとしていると考えるべきなのでしょうか?それとも、面倒な契約手続きを踏んでも、司法判断にゆだねられるとあきらめムードからなのでしょうか?

 

今回はここまでとします。次回以降、今回の改正内容についての話に入りたいと思いますが、確定申告手続き等の為、多少お休みさせていただきます。

 

 

 

 

 

 

*1:同年6月4日に法律第79号として公布され、平成17年4月1日から施行

通勤災害に安全配慮義務違反?

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今回は、職務発明の第2回目を予定していましたが、急遽予定を変更して、
昨日2月9日の朝日新聞朝刊第5面に掲載された通勤災害に対する損害賠償請求に関して使用者の安全配慮義務とその義務違反について判例を交えながら考察することにしました。

新聞が伝えている事件の概略は、

深夜勤務後の帰宅中にバイク事故で死亡した会社員の男性(当時24)の遺族が会社に損害賠償を求めた訴訟の和解が8日横浜地裁川崎支部で成立した。会社が遺族に謝罪し、約7600万円を支払う内容。
(中略)
裁判長は和解勧告通勤中の事故にも企業に安全配慮義務があると認めた。
事故の原因は居眠りだったとし、過労状態を認識していた企業側が公共交通機関を使うよう指示するなどして事故を避けるべきだったと指摘

和解金の支払いに加え、就業から次の始業までの休息(11時間)の確保、深夜のタクシー利用を促すーーなど事故後に講じた再発防止策に引き続き取り組むことを和解条件とした。(略) 

という内容です。

ちなみに、御存じとは思いますが、
労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡通勤災害と言います。
通勤によるとは通勤と相当因果関係のある事すなわち、通勤に通常伴う危険が具体化したことが必要とされています。

 

(通勤災害の要件)
①移動が就業に関して(業務に就くためまた業務が終了したため)行われたこと
②その移動
  ア,住居と就業場所との間の往復
  イ,厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業場所への移動
  ウ,赴任先住居と帰省先住居との間の移動
 のいずれかに該当すること
③合理的な経路と方法によること
④移動途中で、合理的な経路の逸脱・中断がないこと
➄業務の性質を有するものではないこと


次の場合には、移動が「就業に関し」に該当するとされていますので、事業者の方は注意が必要です。
 ・事業主の命令で物品を届けに行く場合
 ・参加強制の会社主催行事に参加する場合
 ・事業主の命令による得意先との打ち合わせに参加する場合
 ・電車に乗り遅れて、引き返して会社に遅刻するような移動の場合
 ・会社を早退する場合

  (労災保険給付の手続き 社団法人東京労働基準協会連合会)

 

今回の事故は、仕事終了後の事故ですので、被害者が法令に違反していた等特別な場合を除き当然に通勤災害に該当します。

しかし、事件は帰宅途中にバイクを運転中に居眠りをして電柱にぶつかったということですので、
居眠りして電柱にぶつかるという状態になる確率が通勤に通常伴う危険が具体化したということは困難かもしれません。

今回の新聞報道の事件に関しては、通勤災害の労災認定につていは触れられていませんでしたので詳細は解りかねますが、ただ、被害者遺族の方たちに誤解されたくはないのですが、私が驚いたのは、帰宅途中の通勤災害に使用者の安全配慮義務があるとされていたことでした。

 

安全配慮義務とは、本年1月15日「労働契約上付随義務について」という記事の中で使用者の(信義則上の)付随義務の一つであることについて、列挙させていただきましたが、内容については詳しくお伝えしていなかったので、代表的な労働判例を基に説明させていただこうと思います。

労働契約上の付随義務は、民法1条2項信義誠実の原則(信義則)から導かれる義務であり、その信義則の具体的機能としては、

⑴法律行為の基準となること
⑵社会的接触関係にある者同士の規範関係を具体化する機能を有すること
⑶制定法の規定の存しない部分を補充したり、制定法の形式的適用による不都合を克服したりする機能を有すること

があるとされています。
今回問題となった安全配慮義務は、上記の内の(2)の問題です。
代表的な裁判例によると安全配慮義務について次のような説明をしています。

 

川義事件(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決)

雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解するのが相当である。

 

陸上自衛隊八戸車両整備工場事件(最高裁昭和50年2月25日第三小法廷判決)

(略)・・・けだし、右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであつて、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、・・・(略)

 

安全配慮義務違反は、使用者の義務(債務)違反ですから、正当な理由なく債務の本旨に従った履行をしないときという債務不履行民法415条)の問題として扱われます。
損害賠償責任が問題となるケースとしては、債務不履行責任不法行為責任があるとされていて、債権者はいずれをも任意に主張できるというのが通説的な考え方だとされています。
ただ、不法行為責任については、加害者の故意・過失について債権者側に挙証立証責任があること、債権の消滅時効につき不法行為責任については3年であるのに対して債務不履行については10年であることなど、債務不履行の方が債権者にとって負担が少ない(有利である)といえます。
そういう理由で、労働災害に対する損害賠償請求については、長いこと債務不履行責任構成の構築が期待されていて、それは安全配慮義務の定着により一応実現したとされています。労働判例インデックス 明治大学法科大学院教授 野川 忍著 商事法務)

ただし、この安全配慮義務に関しては、正式な労働契約上の付随義務として認められたわけではない(信義則上の一般的義務)とされています。*1

また、損害には財産的損害精神的損害(慰謝料)の2種類があるとされていて、不法行為責任については、財産以外の損害についての賠償について明文規定がありますが、債務不履行責任にはそのような明文規定がありません。ですから、不法行為の構成を取ると当然に、財産的損害の他に慰謝料の請求ができることになります。

以上のような分類は、債務不履行においても共通のものと考えられていますが、債務不履行責任構成の場合は、安全配慮義務違反に基づく損害賠償などのケースを除いては、特別事情があるとき以外は原則的には慰謝料は認められないとされています。

「労働関係ADRに必要な民法を学ぶ」(日本法令:弁護士 山中健児著)

したがって、今回の事件のケースは、安全配慮義務違反に対する損害賠償請求事案ですので、慰謝料請求が認められることになります。

更に、被害者(債権者)に故意・過失がある場合の過失相殺に関する考え方ですが、債務不履行構成をとると、裁判所は、債権者に故意・過失がある場合必ず斟酌しなければならない民法418条)のにたいして、不法行為使用者責任を含む)の場合は、過失の斟酌が任意的であり、斟酌した結果として責任を否定することができない民法722条2項)という違いがあるとされています。

その過失相殺につき、損害賠償の根拠を使用者責任構成で判断した判例でありますが、今回の事件の判断にも影響を与えた可能性があると思われる判例があり、次のように述べているので注意が必要です。

 

電通事件(最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決)

(付随的義務と監督選任責任の過失について*2

「使用者は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うとされ、労働者が恒常的に著しく長時間業務に従事しその健康状態が悪化していることを認識しながら負担軽減措置をとらなかったことにつき過失があるとされた。」労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。

 

(過失相殺について)

身体に対する加害行為を原因とする被害者の損害賠償請求において、裁判所は、加害者の賠償すべき額を決定するに当たり、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、損害の発生または拡大にに寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度で斟酌することができる
・・・・この趣旨は、労働者の業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求においても、基本的に同様に解すべきものである。しかしながら、・・・・・ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限りその性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生または拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきものということができる。
しかも、使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行うものは、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができるのである。

従って、労働者の性格が前期の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因として斟酌することはできないというべきである。

 

ということで、労働者側の事情を過失相殺において斟酌することに慎重な姿勢も、その後の実務に大きな影響を与えているとされています。

労働判例インデックス 明治大学法科大学院教授 野川 忍著 商事法務)

 

労働安全衛生法労働契約法その他法令や公序良俗に違反するような業務命令は当然その必要性自体が否定されます
例えば、労働安全衛生法は、業務命令に深い関わりを持つ配置について、
その第62条で中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者についてその心身の条件に応じた適正な配置を、第65条の3では、労働者の健康に配慮した労働者の従事する作業の適切な管理についてそれぞれ努力規定を置いています。
その他にも労働安全衛生法が事業者に講ずべきとしている措置に反する業務命令は発することができません。

繰り返しになりますが、
労働安全衛生法上の措置努力義務に限らず、使用者には信義則上の一般的義務として、就業に関し労働者の心身を危険にさらさないようにする安全配慮義務を負っています。
その安全配慮義務が、平成20年3月から施行された労働契約の民事的基本ルールを定めた労働契約法の中に、労働者の安全への配慮として第5条に規定されています。

その他労働契約法の中には、労働契約の原則を定めた第3条の中で、第3項に労働契約の締結・変更場面において労働者及び使用者双方に仕事と生活の調和への配慮を求め、第4項では、労使双方に、権利と義務の履行に対する信義誠実義務を求め、更に、第5項で、労使双方に対する権利濫用禁止を規定しています。
従って、事業主が業務命令を発する場合には、そういった定めをきちんと遵守する必要があります。

 

(参考)

労働安全衛生法 第七章 健康の保持増進のための措置(第六十四条-第七十一条)

<抜粋>

(作業の管理)
第六十五条の三

事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない。

(面接指導等)
第六十六条の八 

事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。)を行わなければならない。

第2項から第5項(略)

第六十六条の九 

事業者は、前条第一項の規定により面接指導を行う労働者以外の労働者であつて健康への配慮が必要なものについては、厚生労働省令で定めるところにより、必要な措置を講ずるように努めなければならない。

心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第六十六条の十 

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。第2項~第9項(略)

 

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(健康の保持増進のための指針の公表等)
第七十条の二

厚生労働大臣は、第六十九条第一項の事業者が講ずべき健康の保持増進のための措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。

http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/kouji/K151130K0010.pdf

厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導等を行うことができる。

 

*1:労働契約上の付随義務とされた場合、安全配慮義務が認められるためには労働契約関係の成立が必要条件となる

*2:この事件では、安全配慮義務ではなく、労働者の健康維持に留意する義務を採用している

職務発明 その1 発明は下町が有利?

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車を運転していると最近では当り前のように目にするようになった、青色ダイオード素材を利用した信号機。反射が無くていつもきれいな信号機ができたなぁと思いながら信号待ちしたりしています。 グーグルで調べてみると、発光ダイオードを信号機に使用した場合、

  • 電球を交換する必要がない(フィラメントが切れない)
  • 朝日や夕日が当たっていても認識しやすい
  • 消費電力が少ない

という特徴があり、初期費用がかかるけれど、今後大いに普及していくだろうと書いてありました。

少年のような心を持った経営者の方達、特にモノづくりに魅惑されている経営者の方達なら誰が発明したかご存知ですよね。

現在カルフォルニアサンタバーバラで教授をされている、中村修二さんで当時からノーベル賞に最も近い男」と言われていたにもかかわらず、その後なかなか受賞できずにいたのですが、2014年赤崎勇天野浩の両氏と共にノーベル物理学賞を受賞した人物です。

本人は本(「バカになれる男」が勝つ!)の中で、子育てには、田舎の方がよいのではという恩師のアドバイスが本人の子育て方針への思いの後押しとなり、当時内定が決まっていたカリスマ経営者の稲森氏のあの京セラを辞退して、中小企業に入社を決めたと書いてありました。本の中で当時を振り返り、全ての出来事はつながっていると解釈していて、京セラにいっていたら青色ダイオードの発見もなかったかもしれないと語っています。

社会人になる当時すでに結婚していて子供がいたことが決め手となったと書いてありましたが、なおさら大企業を選びそうですよね。

しかし、日本では、素晴らしい発明は下町の工場から生まれると昔からよく言われていることから思えば、日本の底力を信じたくなったりしています。

上述したような、中村氏のように会社に勤める従業者が会社の仕事として研究・開発した結果完成した発明を職務発明といい、特許法では、職務発明を行った従業者が、使用者に特許を受ける権利譲渡した場合は、使用者に対して、「相当の利益」を請求する権利を認めています。特許法の改正前は、上述の「相当の利益」は「相当の対価」といっていて、その相当の対価をめぐっては、以前から労使間で争いがありました。

*1

中には、上述の中村さんの青色ダイオードの事に関しては、当時の最高額となった職務発明の相当の対価の判決内容で話題になったため(本人請求通りの200億円が認められた。)そちらの方で覚えていた方もいらっしゃるかもしれません。実際私も、マスコミの労働事件の報道がきっかけで、中村さんという方が世界的に物凄い発明をしたということを知りました。

 

職務発明のモデル裁判例であるオリンパス光学工業事件(平成15年4月22日第三小法廷判決)は、旧特許法35条によれば、会社は、職務発明にかかる特許権等の受け継ぎについて勤務規則などに定めて、対価を支払うこと、その額や支払時期を定めることるも妨げられることがない(同条2項の反対解釈)が、 職務発明の承継に対する相当の対価について、勤務規則等に定められた額が支払われていたとしても、これによる対価の額が「相当の対価」に満たない場合には不足分の支払いを請求できることを最高裁として初めて示した判決であり、最近増大する職務発明に関する訴訟の嚆矢(こうし)となった判例として注目されています。 

事件の概要を簡単に説明すると、

光学機械製造会社に勤務していた従業員が、CD装置に必要なピックアップ装置を発明し、当該勤務会社の発明考案取扱規定に定められていた補償金合計21万1千円を支払われたが、会社が特許を受ける権利を譲り受けたことにより得た利益は多額であるとして、2億円の対価を請求した事案です。一審二審共に従業者側の主張を一部認めた形で相当の対価は250万円であるとされたため、会社側が上告しましたが、最高裁で棄却されました。

皆さん不思議に思ったことありませんか?

私は、現在の士業の仕事を始める以前は、法律知識に関しては自分の属する業界の知識としてほんの僅かしか知りませんでした。

ですから、会社従業員といえども、特許権というのは当然のように発明者が持っていて、会社から特許料しこたまもらっているんだろうと勝手に理解していたのです。

では、何故職務発明の場合、発明者は皆さんが思ったような多額の報酬を得ていない(得ていなかった)のでしょうか?

ひょっとして職務発明の場合、特許を受ける権利は発明者にはないからでしょうか?

そんな事はありません。

産業上利用することができる発明をした者は、特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明等一部の場合を除き、その発明について特許を受けることができる。(特許法29条1項)

としていて、会社従業員が職務上発明 を行った場合でも、特許を受ける権利は従業員個人に原始的に帰属します。

ですから、従業者等がこれを使用者等に承継させずに、自ら特許権を取得したり、特許を受ける権利を他の者に承継させることにより、発明の内容によっては多額の対価を得ることも、この規定の存在だけだと理屈上では可能となってしまうわけです。

発明について特許を受けた者(特許権者)は、その発明された物を他者を排除して独占的に生産したり使用したりすること(独占的実施)ができ、(特許法第68条)他の人は、原則としてその特許された発明(特許発明)を実施することはできないからです。

しかしそれだと、研究開発投資に多額の資金を投入してきた企業としてはたまったもんじゃありませんよね。

そこでそのような事態を避けるために、法35条1項は、従業員が行った発明が職務発明である場合で、その職務発明につき特許を受けたときや、職務発明について権利を承継した者が特許を受けたときは、通常実施権(特許を実施する権利)を有するとしているのです。この実施権については、無償であり、特許権者に対価を支払う必要はありません。

勿論、使用者側に無償の実施権があるからと言っても、職務発明をした従業員が特許を受ける権利を使用者に承継しないということも考えられます。

そして、通常実施権というのは、文字通り通常の実施権であり、専用実施権ではありませんから、企業側にとってあまりメリットがなく、グローバル競争に勝ち残っていくためにも使用者は、その特許について独占的に利用する必要があります。

そこで、現行法においても、法35条2項の反対解釈として、職務発明に限り、あらかじめ従業者の職務発明に関する権利を会社が譲り受けられるように勤務規則等により決めておくこと(予約承継)もできるとされているのです。

*2

実務上は「譲渡証書」という書面を差し入れてもらう予約承継の方法がとられることが多いようです。

従業者は、職務発明に関して特許を受ける権利や特許権を会社に譲渡したときは、会社から職務発明の社内貢献に応じた「相当の利益」旧法では「相当の対価」」)を受ける権利を有します。「法35条4項(旧同条3項)」

そこで、「相当の対価」(前述事件当時)とは、どのように判断されるのかが問題になってくるわけですが、前述の職務発明のモデル裁判例であるオリンパス光学工業事件当時の旧法(昭和34年法)35条4項では、

前項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額及び その発明がされるについて使用者等が貢献した程度考慮して定めなければならない。

とされていました。

 柳澤 旭教授の文献

「労働法と知的財産法との交錯日亜化学工業事件 ( 青色発光LED 特許権 )判決 ( 東京地裁平成 14年 9 月19日判決 , 東京地裁平成 16年 1 月30日 判決)を契機として 一 のなかに、中山信宏著 『 発明者権の研究』 (1987年, 東京大学出版会

の引用を用いて

わが国特許法35条の沿革をみるに , 職務発明については , 別段の定めがない限り, 使用者に発明に関する権利が帰属するとされ , 労働者は何らの報償請求権がないとされていて , 現行法とは全く逆の立場であったが、その後の改正を経て現行の規定となったものである。 このことは,労働者の発明が ,当時の労使関係 , 雇用関係のなかで事実上 ,使用者の優位のもとに処理されていたことを物語る 。

ということが書いてありました。

使用者が従業員の同意を得ないまま定めた職務発明規定等 も, 特許法35 条にいう 「勤務規則その他の定」に該当するとされていました。

以前の記事でも書いたように、使用者と労働者とでは、労働契約関係の中では圧倒的に使用者側の方が強い立場にあります。従って、上記最高裁判決がなされるまでは、

(場合によっては、上記判決以降でさえ、)使用者が勤務規則等に定めることのできる相当の対価の額は、労働者側にとって低く設定されていたということが上記文献の中の特許法35条の沿革からも覗えますよね。

上記引用した文献はさらに、相当の対価の額について ,

これまでの 裁判例にみるかぎり,会社規定に基づく報償額が低すぎるとされて , より高額の支払いが命じられている。

ということを指摘しています。

使用者が 従業員の同意を得ないまま定めた職務発明規定等 も, 特許法 35 条 に い う 「勤務規則その他の定」に該当する ことの問題について、同事件の控訴審判決(東京高裁平成13年5月22日判決)は、

使用者等は職務発明等に係る特許権等の承継等に関しては同項(特許法35条2項)の「勤務規則その他の定め」により、一方的に定めることができるものの、「相当の対価」の額についてまでこれにより一方的に定めることはできないものと解するのが相当である。これは、特許法35条の文言及び構文上明らかであり「相当の対価」の具体的額を当該権利に関する義務者である使用者等が一方的に定め得るとすれば法律上、むしろ異常な状態というべきである。(中略)特許法35条3項、4項は強行規定であるから、上記定めがこうれらに反することができないことは明らかである。従って・・・・・・従業者等は、上記定めに基づき使用者等が算出した額に拘束されることなく、同項による「相当な対価」を使用者等に請求することができるものと解するのが相当である。

としています。

 以上説明してきたように、日本の特許法の過去の沿革からして日本独特の雇用慣行が、会社従業員が職務発明をしても皆さんが想像していた様には多額の報酬が出ていなかったことに多少なりとも影響していたのは確かだと思います。

しかし、上記最高裁判例をきっかけに、労働者の職務発明に対する「相当の対価」が、高額化して認容されだしたこともあり、使用者側は、勤務規則等に定めた額を支払っていても訴訟を起こされるリスクの予見可能性が判断できず、産業界から、労使間の私的自治をもっと尊重できるような法35条の改正要望が高まり、そのような要望にできるだけこたえられる様な形で平成16年、平成27年と法35条の改正が行われています。

今回の記事は以上で終了です。次回は、最新の改正内容について簡単に説明したいと思います。

 

*1:平成27年7月10日に職務発明制度の見直しを含む特許法等の一部を改正する法律」平成27年法律第55号)が公布、平成28年4月1日に施行された。

*2:勤務規則等には ,労働契約労働協約就業規則その他 , 使用者の定める職務発明規定が含まれ る 。

ブログの名前を変えました。(お知らせ)

今回は、記事ではありませんが、ブログ名変更のお知らせです。

私が、ブログ初心者ということもあり、登録時に自動で表記されるブログ名(sr10worklifeの日記)をそのまま使っていたため

今回、当初からテーマとしたかった「人と組織の活かし方の研究 労務カフェ」にブログ名を変更させていただきました。

関連するテーマをできるだけ多くお届けできるよう研鑽していく所存ですので

今後ともよろしくお願いいたします。

90%の高精度で判定できる適性検査 メンタルトレンドって何

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どんなに優秀な人材をそろえている企業でも経営者にとって人に関する悩みというのは、つきませんよね。せっかくお金をかけて育てた大切な人材が突然辞めてしまったりとか、リーダー的存在で悩みなんかないような元気だった社員が、突然ノイローゼになってしまったりとか、間違いないと思って採用してみた人が、色々組織内で問題を起こしてしまったりとかです。

当然、前回までの記事でお伝えしたような突然の自殺とかは最悪です。

そういった適正傾向を採用時や、現在、現場で戦力として活躍中の社員への定期的な診断で事前に把握できて、問題を未然に防ぐ事ができたらいいと思いませんか?

しかも、もの凄く高い確率で。

読者の皆さんは、多くの会社が採用時に行っている適性検査で、なんで採否の目安なんかがわかるのだろう?と不思議に思ったことありませんか?

私は、いつも思ってました。

あんなペーパーアンケートの様なもので何がわかるのかって!

実は、その答えは、結果に表れる波形のパターンにあったんです。

もの凄い膨大なデータをもとに、問題視される人の傾向というのは、結果の波形に一定のパターンがあるということが解っているのだそうです。

この人は、パワハラ系とか・・・

さて、私達は現在、こころの不調・からだの不調・トラブル傾向を90%の高精度で判定できる適性検査メンタルトレンドのキャンペーンを行っています。

新たに雇うスタッフや現在就業中のスタッフのメンタルトレンドを把握し、皆様企業のの職場風土に適した人材の選別や人材流出の未然防止策にお役立ち致します。

人材の社外流出を防止するには、例えどんなに業務が忙しくても離職要因を客観的に分析し、自社に適した施策を導入する必要があるのです。

ですから、“適正的中率90%の驚異の数字”は、とても重要な指標なのです。

しかし、どう把握すればいいのか?とお思いですよね。

今回の提案ツールで簡単に把握できるんです。

答えは、結果に表れる波形のパターンの中にあります。

診断結果の波形パターンとともに、適正傾向を色別に視覚化できるようにもなっています。

詳細については、興味を持たれて資料請求していただいた事企業様に説明資料をお渡しいたします。

 

ご利用中のお客様から驚きの声も

(ある小売業者さんの声)

当初、既存の社員全員に実施したらメンタル悪化の社員が6名おり、その内5名が3カ月以内に退職したので驚きました。それからは採用時に欠かさず実施するように選考の中に組み込んで利用するようにしています。

ここで誤解がないように、何故、「私達がキャンペーンを行っている」というように

当事務所ではなく「私達」という言葉を用いたかというと、

当事務所は、社会保険労務士の事務所として普及のお手伝いをさせていただいている立場だからです。

そこで、この驚異の適性検査ツールの開発に関わった方の声を紹介させて戴きたいと思います。

1.メンタルトレンドの開発経緯

もともと、メンタルトレンドは前進がTPI(MMPI)という
60~70年前に作成された精神病理テストです。
私が前職の会社に在籍していたころに、顧問のカウンセラー(?)がTPIを利用しており、それがきっかけで私も利用するようになりました。今から7~8年前の話です。

このTPI・MMPI、解法がほぼ存在しておらず、精神科の研究者が
事例研究で取り上げていくくらいです。私も手探りでした。

そのうち、TPIの結果で相当な異常値が出た仲の良かった同僚が自殺する、というショッキングな出来事が起こりました。
カウンセラーも私も、「何かはわからないけれどもこれはヤバい」
ということで経営陣に警鐘を鳴らしていましたが、
経験不足のため、自殺とは思いもよらなかったのです。

私の中で、何か弔い合戦がしたい、と思うようになりました。
働く人たちが虐げられるのはおかしい、働く人がイキイキできる
世の中にしたい、というのが私の起業の原点です。

ただ、いきなり心理テスト、ましてやメンタル系で勝負する、
といっても誰も相手をしてくれませんでした。
なので、人事コンサルタントとして活動していくことにしました。
これが2014年11月の話です。


2.メンタルトレンドの開発

経営者は従業員が何を考えているのかを知りたい、どのくらいの
モチベーションで働いているのかも知りたい、という欲求があります。
もちろん、採用時もそうです。

逆に、従業員側も感覚としてはこれが当たり前、という感じなので
自分を客観的に見たらどうなのか、知りたい人が多いです。
同じ働くのであれば誰もが活躍したい、貢献したい、定着したい、
トラブルは避けたい。そう思います。

やはり、人の内面を見える化する、というニーズはありました。
そこで人事コンサルの傍ら、地道にTPIの被験者数を増やしていき、
そこそこノウハウが溜まってきたところでシステム開発に乗り出しまた。

メンタルトレンドは、2016年4月から仕様を打合せ、8月から実運用を
開始し、2017年4月から正式に有料化しました。

それまでの間、私とシステム開発を担当いただいた、通称「ボス」、そしてここにはいないですが、PGの方との三人四脚?でシステムを構築してきました。

メンタルトレンドの名称については賛否いろいろありますが、
神様からのお告げにより決まりました(笑)
(中略)

現在もバージョンアップを進めている最中で、同時進行で
企業開拓が進んでおり、大手も参画し始めています。

 

メンタルトレンドはNNPI,TPIに着想を得て現代版に開発された性格検査

  1943年アメリカミネソタ大学病院で開発されたMMPI(ミネソタ多面人格目録)は、正常群精神疾患を持つ病床群とで繰り返しテストされ信頼性・妥当性が確認された由緒ある臨床用の適性検査です。130以上の言語に翻訳され90か国以上で採用されています。

ちなみに、TPIは東京大学多面人格目録の事です。

メンタルトレンドでわかる3つのこと

 メンタルトレンドは、主に3つのことが見えてきます。
一つ目は、心身の健康状態とトラブル(パワハラ)傾向。
二つ目は、受検者のパーソナリティ。
三つめは、適職傾向です。

以上が今回企業の経営者ゃ人事関係者の方に知っていただきたかったメンタルトレンドの概要になります。

興味を持たれて、もっと詳しい内容を知りたい適性検査の導入を検討していけど、できるだけ多くの資料から検討したいとお考えの経営者、人事担当者の方は、是非、資料請求をして内容を確認してみてください。

https://jhrsa.sakura.ne.jp/contact/?m=reform

をクリックすると、社団法人 日本人事技能協会の「お問い合わせ」フォームがでてきますので、問い合わせ内容欄に、「ブログ記事のメンタルトレンド資料請求」と書いていただき、その他必要事項を入力していただければ、請求完了です。

 

 

 

精神障害の労災認定について その3  悪用厳禁!「君ならできるよ」

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前回は、精神障害が労災認定される(対象疾病に業務起因性が認められる)ための3つの要件について説明しました。

精神障害が労災認定されるための1番目の要件は、対象疾病を発病していることが必要であることは前回説明した通りですが、精神疾患の性質上、その発病の有無等の判断に当たっては、対象疾病の発病の有無発病の時期及び疾患名について明確な医学的判断がある ことが必要であるとされています。

 その発病の有無等の判断における 対象疾病の発病の有無発病時期及び疾患名は、「ICD-10 精神および 行動の障害 臨床記述と診断ガイドラインに基づき、主治医の意見書や診療録等の関係資料、請求人や関係者からの聴取内 容、その他の情報から得られた認定事実により、医学的に判断されるとされています。

 

今回の記事は、認定基準の2番目の要件を客観的に評価するための指標として用いられる認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」を中心に説明していきたいと思います。

 

労災認定が認められるための2番目の要件は、「対象疾病の発病前おおむね6カ月間の間に業務による強い心理的負荷が認められること」です。

対象疾病の発病の原因となった心理的負荷を「強」、 「中」、「弱」の三段階に区分した上述の別表1「業務による心理的負荷評価表」指標にその心理的負荷の程度を客観的に判断していくことになるのですが、ここでは、「強」と判断されなければなりません。

別表1については、どんな内容で構成されているのかというと、

心理的負荷を伴う業務上の出来事を、特別な出来事特別な出来事以外の出来事に分けて検討する視点で作成されています。

従って、別表1には

A.極度に心理的負荷が強い認められる出来事極度の長時間労働の2つの類型化ごとにその具体的判断基準を記載した「特別な出来事」の表

 B.上記特別の出来事以外の具体的出来事心理的負荷の程度を客観的に評価するための表

C.特別な出来事以外の出来事の心理的負荷の程度を総合評価する際に、その総合評価を強める要素を考慮するための要素を記載した総合評価における共通事項の欄

考慮要素は

     ㋐出来事後の状況の評価に共通の視点と

     ㋑恒常的長時間労働が認められる場合の総合評価の視点   

  に分けて記載されている

以上のように別表1は、上記A,B,Cの欄の大きく3つで構成されています。

 

以上の指標を使い、対象疾病発病前おおむね6カ月の間に起こった出来事を当てはめたり、或いは、総合評価の考慮要素による考慮をしていき、心理的負荷の「強」「中」「弱」の評価を行っていくということになります。

その様に評価していき、心理的負荷の総合評価が「強」と認められると認定基準の2番目の要件を満たしたものとされるのです。

手順としては、まず、対象疾病発病前おおむね6カ月の間に起こった出来事が、上記Aの特別の出来事に該当していないかを検討し、表の極度に心理的負荷が強い認められる出来事極度の長時間労働に該当していれば、それだけで心理的負荷は「強」と判断されます。

言葉に極度とついているということは、相当酷いということです。

日本人は根性がありますからね。相当酷いとはどんな状態だろうとつい思ってしまうのですが、認定基準の考えでいけば、同種の労働者が、心理的負荷が「強」になるのは、当たり前な出来事ということになるんでしょうね。

極度な出来事の例では、業務上に関連して、自分や他人の生命を危険にさらすような重大な怪我をした(負わせた)経験などが挙げられています。

極度の労働時間では、1カ月当たり160時間を超える時間外労働(ここでの時間外労働とは、1週間当たり40時間を超える労働をいっています)、1カ月に満たない期間に関しては、それと同程度の時間外労働(例では3週間におおむね120時間以上)を行った場合とあります。1日平均にならすと毎日7時間~8時間を超える時間外労働ということになりますよ。

夕方6時終了の会社だと最低でも毎日夜中の1時2時までの残業が必要ということです。 同種の労働者とはどんな人を基準にしてるんでしょうね。

まともに残業代払われたら、給料はいくらになるのかなぁと思ってしまいましたけど、単純計算すれば毎月給与の2倍以上はもらえる計算になります。

いずれも、極度の出来事ですので、該当する人は少ない(?)かもしれません。

そこで、その特別の出来事がない場合の評価が重要になってくるわけですが、それが次の手順以降の評価になってきます。

ここでは、上記のBとCの表を使用することになります。

上記に記載したB(本ブログ記事上の記号で別表で表示されている記号ではない)の表は、次のような内容の構成となっています

 (表B)

1.出来事の類型欄:業務上起こりうる様々な出来事を、類型化してまとめたもの

2.具体的出来事とその出来事の平均的心理的負荷の強度上記1で類型化された項目に属する具体的出来事の例とその出来事の平均的心理的負荷を強度の強い順番にⅢ、Ⅱ、Ⅰという形で表している。

3.心理的負荷の総合評価の視点および心理的負荷を「強」「中」「弱」と判断するための具体例:事実関係が上記2の具体例に合致しない場合に、「総合評価における共通 事項」(ブログ上の表C)とともに用い、具体例も参考としつつ個々の事案ごとに総合評価するための視点とその視点に基づいた強度別の具体例を記載した欄

 

評価の手順としては、

発病前おおむね6か月の間に認められた業務による出来事が、上記表B-2の 「具体的出来事」のどれに該当するかを判断します。ただし、実際の出来事 が上記表B-2の「具体的出来事」に合致しない場合には、どの「具体的出来事」 に近いかを類推して評価することになります。

出来事が、表の「具体的出来事」や「出来事後の状況」に合致している場合は、表には具体的出来事の平均的心理的負荷を強度の強い順番にⅢ、Ⅱ、Ⅰという形で表しているのでその強度で評価します。

事実関係が具体例に合致しない場合には、「具体的出来事」ごとに示 している心理的負荷の総合評価の視点」(表B-3)及び「総合評価における共通 事項」(表C)に基づき、具体例も参考としつつ個々の事案ごとに評価することになります。

病発病前6カ月の間に起こった心理的負荷のかかる出来事というのは一つとは限らないですよね。そこで、出来事が複数ある場合の全体評価の考え方が認定基準では定められています。

 ⑶出来事が複数ある場合の全体評価の考え方としては、①複数の出来事が関連して生じた場合と②関連しない複数の出来事が生じた場合に分けて検討する必要があります。

①複数の出来事が関連して生じた場合

 原則、最初の出来事を「具体的出来事」とし て表Bに当てはめ、関連して生じた各出来事は出来事後の状況と見做す方法により、全体を1つの出来事とし て評価します。

②関連しない複数の出来事が生じた場合

 主としてそれらの出来事の数、各出来事の内容(心理的負荷 の強弱)、各出来事の時間的な近接の程度を元に、その全体的な心理的 負荷を評価します。 

具体的には

 複数の出来事の中に心理的負荷の程度「強」が1つでもあれば他の出来事が「中」や「弱」であっても全体評価は「強」となります。

 複数の出来事の中に心理的負荷の程度「中」が2つ以上ある場合は、他の出来事が「弱」であっても全体評価は、「強」か「中」となります。

「中」が1つしかない同様のケースでは、全体評価は「中」となります。

注意していただきたいのが次です。

「弱」はいくら集まっても、全体評価は「弱」のままです。

最後の「弱」がいくら積重なっても「弱」のままというのは、”塵も積もれば山となる”

と思っていたのでほんの少しショックを受けました。

しかし、精神的苦痛を伴うような「弱」の出来事が積み重なる場合を考えると、苛めとかセクハラ・パワハラが繰り返されることが懸念されますが、そのことについては認定基準でも出来事の評価の留意事項の中で、次のように述べています。

 いじめやセクシュアルハラスメントのように、出来事が繰り返されるもの については、発病の6か月よりも前にそれが開始されている場合でも、発病 前6か月以内の期間にも継続しているときは、開始時からのすべての行為を 評価の対象とすること。 

 私なり個人的見解として、上記留意事項を検討してみるに、例えば、対象疾病の発病前おおむね6カ月の間に、心理的負荷「弱」の苛め、「弱」のセクハラ、「弱」パワハラが生じていたとしても、関連しない複数の「弱」の出来事が集まっただけですので、認定基準通りの評価をすると全体評価は「弱」にしかならないことになります。しかし例に挙げたこれらの行為の性質上、場合によっては、それらは一連の行為の流れの中で行われる可能性は大いにあり得ると思います。従って、6カ月より前より遡ってそれらの行為がいくつか点在している場合には、それらの行為の開始時からのすべての行為を評価の対象とするとしていると考えてよいと思います。

以上のように、特別の出来事特別の出来事以外の出来事でそれぞれの出来事について総合評価を行い、 いずれかの出来事が「強」の評価となる場合は、業務による心理的負荷を 「強」と判断することになります。

但し、対象疾病の発病前おおむね6カ月の間の業務による心理的負荷の程度が「強」と判断されても、つまり出来事自体が認定基準の2番目の要件を満たしたとしても対象疾病の発病の原因となっていなければ、労災認定されません。

明らかに業務以外の心理 的負荷や個体側要因によって発病したと認められる場合には、業務起因性が否定 されることになります。

参考までに、最高裁も次のような立場をとっています

業務と業務に関連のない基礎疾患が協働して当該疾病が発症した場合において、業務起因性が肯定されるには、業務に内在ないし通常随伴する危険が当該疾病の発症に相対的に有力な原因となったと認められることが必要であって、単に業務が当該疾病の誘引ないしきっかけに過ぎないと認めれる場合は、業務起因性は認められないと解するのが相当である。

そこで、次の手順として、

業務以外の心理的負荷及び個体側要因の判断を行うことにより認定基準の3番目の要件である「業務以外の心理的負荷及び個体側要因に より対象疾病を発病したとは認められないこと」の基準を満たすかの検討に入ることになります。

2番目の要件評価の際には別表1の指標を用いましたが、

この3番目の要件評価には「業務以外心理的負荷評価表という別表2の指標を用い次に掲げた基準を満たすかを検討していくということになります。

   ① 業務以外の心理的負荷及び個体側要因が認められない

 ② 業務以外の心理的負荷又は個体側要因は認められるものの、業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない

 

別表2「業務以外の心理的負荷評価表」にはどんな内容が記載されているかというと、対象疾病の発病前おおむね6カ月の間の業務以外の出来事の具体例とその出来事ごとの平均的な心理的負荷の程度を強度の強い順番に「Ⅲ」、「Ⅱ」又は「Ⅰ」に区分しただけの別表1を簡素化したような表になっています。

3番目の要件を満たすためには上記①、②のいずれかを満たす必要があるわけですが、

対象疾病発病前おおむね6カ月間に

ア.出来事が確認できなかった場合は、上記①に該当するものと取り扱う。

イ.強度が「Ⅱ」又は「Ⅰ」の出来事しか認められない場合は、原則として 上記②に該当するものと取り扱う。

ウ. 「Ⅲ」に該当する業務以外の出来事のうち心理的負荷が特に強いものが ある場合 や、「Ⅲ」に該当する業務以外の出来事が複数ある場合等につい ては、それらの内容等を詳細に調査の上、それが発病の原因であると判断 することの医学的な妥当性を慎重に検討して、上記②に該当するか否かを 判断する。

 とされています。

つまり業務以外の心理的負荷や個体側要因の評価の際に問題となるのは、強度「Ⅲ」の場合であることが原則になります。強度「Ⅲ」となる出来事の例として、別表2

・自分の出来事として、離婚や別居、重病や重傷
・家族や親族にかかわる出来事として、家族の死亡、重病、重傷や親族の犯罪等不道徳
・金銭関係の出来事として、多額の財産損失や出費
・事件・事故・災害体験として、天災、火災、犯罪に巻き込まれた

ことなどが例示されています。

先ほども説明した通り、出来事自体が認定基準の2番目の要件を満たしたとしても、対象疾病の発病の原因となっていなければ、労災認定されません。

そのためには、上記②の

「業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できないこと」という要件を満たす必要があります。

認定基準では

業務による強い心理的負荷が認められる事案であっても、個体側要因によって発 病したことが医学的に見て明らかな場合としては、えば、就業年齢前の若 年期から精神障害の発病と寛解を繰り返しており、請求に係る精神障害がそ の一連の病態である場合や、重度のアルコール依存状況がある場合等がある。

とされています。

以上説明したような手順で、評価していき上記①、②の要件を満たすと、「強」と評価された対象疾病発病前おおむね6カ月の間に生じた業務による心理的負荷に業務起因性が認められ労災認定されることになります。

認定基準の3つの要件の流れをまとめると、

1番目の要件は対象疾病を発病しているということが必要です。

次に2番目の要件、
対象疾病の発病前おおむね6カ月間の間に業務による強い心理的負荷が認められることが必要です。
その心理的負荷の程度の判断には、認定基準の別添の(別表1)「業務による心理的負荷評価表」を指標として、その強度を「強」、 「中」、「弱」の三段階に区分することにより行われることになります。
当然、強い心理的負荷が要件なので、ここで、「強」と判断されなければなりません。そして、その「強」と判断された心理的負荷により発病した疾病が、次の、3番目の要件である「業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認め られないこと」という要件を満たすと、その精神障害に業務起因性が認められる、つまり労災認定されるということになります。

通常は、今まとめた流れになるのですが、問題は、既往症のある者の精神障害が悪化した場合の取扱いです。

何故問題なのかというと、通常の流れで行けば、業務以外の心理的負荷や個体側要因が対象疾病の発病の原因でなければ、上記の通り、心理的負荷が「強」であればよいわけです。しかし、既往の精神障害が悪化したと認めらようとした場合は、そういう訳にはいかないわけです。

認定基準によると

悪化の前に強い 心理的負荷となる業務による出来事が認められることをもって直ちにそれが 当該悪化の原因であるとまで判断することはできず原則としてその悪化につ いて業務起因性は認められない。ただし、別表1の「特別な出来事」に該当する出来事があり、その後おおむ ね6か月以内に対象疾病が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認め られる場合については、その「特別な出来事」による心理的負荷が悪化の原因 であると推認し、悪化した部分について、労働基準法施行規則別表第1の2第 9号に該当する業務上の疾病として取り扱う。

とされているからです。つまり、強度「強」より強い心理的負荷である「特別の出来事」がないと業務起因性が認められないということになります。

今回のテーマの基礎となっている事件についても、新聞ではそのことに対して問題提起されていました。新聞の伝える事実関係によると、被害者の男性は、

上司の叱責もあり2010年6月ごろ(事件は、同年8月20日)心の病の適応障害を発症していたと認定したが、適応障害を患う前の負荷のレベル「中」と判断、同年7月以降の人事部による面談を「退職強要」にあたると指摘し、この際の心理的負荷レベル「強」と判断され、どちらも認定基準を満たさないとされた。 

ということです。

今回の事件の被害者の場合、適応障害を患う前の心理的負荷は、上司の叱責で、別表1の心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例に合致し、その強度は「中」となりますので、認定要件の2番目の要件を満たせません。

いや、ちょっと待って!!

「貴方は前回の記事で、業務による心理的負荷によって精神障害を発病した人が自殺を図った場合、原則、労災認定されると書いていたでしょう」

と思われたかもしれませんよね。

正式には、認定基準では自殺について次のように記載されています。

業務によりICD-10のF0からF4に分類される精神障害を発病したと 認められる者が自殺を図った場合には、精神障害によって正常の認識、行為選 択能力が著しく阻害され、あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著 しく阻害されている状態に陥ったものと推定し、業務起因性を認める。

しかし、残念ながら、被害者の患ったとされる適応障害については、

ICD10コード:F43-11(重度ストレスへの反応及び適応障害 )に分類されているので、認定基準の自殺の対象疾病には含まれないのです。

つまり、その後、退職勧奨があったとしても、その退職勧奨の心理的負荷が現行基準で「強」である以上は、その出来事の心理的負荷により、対象疾病が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認め られる場合には該当せず、労災認定されないということです。

今回の事件は、自殺事案なので、専門部会意見による判断事案となります。

主治医の意見に加え、地方労災医員協議会精神障害等 専門部会に協議して合議による意見を求め、その意見に基づき認定要件を満たすか否かを判断する事案ということです。

 

(Q&A)

.当社では、長時間労働がよく行われているのですが、うつ病になってしまったら、その長労働時間だけでは労災認定されないのですか?

.労働時間に関しては、基準で3つに場合分けされています。ア. 極度の長時間労働による評価  イ .長時間労働の「出来事」としての評価  ウ. 恒常的長時間労働が認められる場合の総合評価 です。今回の記事でもお伝えした通り、に該当する、つまり

極度の時間外労働の場合(発病直前1カ月おおむね160時間超発病直前3週間おおむね120時間以上)は、その出来事だけで「強」となります。

の場合ですが、長時間労働そのものを出来事としてとらえることはしますが、対象は、発病前1カ月から3カ月前の長時間労働で、別表1の項目16(1カ月に80時間以上の時間外労働を行った)で評価します。本件ブログ上は、表Bの項目16のいうことです。

「強」となるのは、(発病直前2カ月連続おおむね120時間超発病直前3カ月連続おおむね100時間以上)の時間外労働があった場合です。

の場合は、長時間労働自体を出来事とはとらえずに、心理的負荷の強度を修正する要素としています。

「強」となる例としては出来事の前後に恒常的な長時間労働月100時間程度の時間外労働)があった場合とされています。

 

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以上で、今回のテーマ精神障害の労災認定についてを終了いたします。

参考までに

厚生労働省 みんなのメンタルヘルス総合サイト適応障害を調べてみました。

適応障害自体については、それほど深刻な心の病ではなくストレスとなる状況や出来事がはっきりしているので、その原因から離れると、症状は次第に改善するそうです。

 ICD-10の診断ガイドラインを見ると、「発症は通常生活の変化やストレス性の出来事が生じて1カ月以内であり、ストレスが終結してから6カ月以上症状が持続することはない」とされています。

 しかし、うつ病となるとそうはいかないことがあります。環境が変わっても気分は晴れず、持続的に憂うつ気分は続き、何も楽しめなくなります。これが適応障害うつ病の違いです。持続的な憂うつ気分、興味・関心の喪失や食欲が低下したり、不眠などが2週間以上続く場合は、うつ病と診断される可能性が高いでしょう。

 しかし適応障害と診断されても、5年後には40%以上の人がうつ病などの診断名に変更されています。つまり、適応障害は実はその後の重篤な病気の前段階の可能性もあるといえます。

 皆さん、できるだけ仕事はやりがいを持って楽しくやりましょう。

 ダンケネディのブログにおもしろい記事がありました。

https://direct-connect.jp/knowledges/472

 

精神障害の労災認定について その2

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前回までは、2018年1月15日付の朝日新聞朝刊に掲載されていた、大手企業に勤務していた33歳の男性の自殺が労災認定されなかった事件に関連して使用者の退職勧奨の権利と精神障害の労災認定についての内容説明の前段階の話を2回にわたってお届けしました。

 

簡単に精神障害という疾病の考え方というのをおさらいしておきましょう。

 精神障害についても労災認定、つまり業務災害と認められるためには、業務起因性が必要なのですが、当該疾病の性質上、この業務起因性の判断が非常に難しいとされているということを前回までにお話ししました。

*1

対象疾病の発病に至る原因の考え方については、「ストレ ス-脆弱性理論」に依拠しているとされているからです。

 環境由来の心理的負荷(ストレス)と、 個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという考え方のようです。

精神的強弱の個人差については、皆さん職場等で

 「あいつは打たれ強いから平気な顔をしているし、反省しているかわからない」

とか、逆に

 「あいつは直ぐ落ち込む(傷つきやすい、或いは直ぐキレる)から、注意が必要だ」というようなことを言ったり、聞いたりした経験がないでしょうか?

外的負荷要因(ストレス)の大小については、

 「あいつが塞ぎ込むくらい落ち込むなんて、よっぽど酷い失敗をしたんだな」

とかです。

環境由来の心理的負荷(ストレス)に対する個人の精神的強弱の個人差によって破たんが生じるかどうかの違いがあるし、それだけではなく、逆に環境由来の心理的負荷(ストレス)の程度によっては、精神的強弱のいずれの者に破たんが生じるかわからないという関係のことを言っていると簡単に理解してよいと思います。

ということなので、

前述の業務起因性の評価に関しては、精神障害を発病した労働者がその出来事及 び出来事後の状況が持続する程度を主観的にどう受け止めたかで判断するわけにはいかない ということになるのです。

そこで厚生労働省は、平成11年9月14日に心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」において、心理的負荷を客観的に評価する手法を公表し、その指針に基づいて、業務上の判断を行っていました。(新たな認定基準の作成に伴い廃止。)

現在の心理的負荷による精神障害の労災請求事案の業務上外の判断については、

心理的負荷による精神障害の認定基準」(H23.12.26 基発1226 第 1 号 )

により行われていますが、その基準の中では、

 強い心理的負荷とは、(中略)同種 の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価されるものであり、 「同種の労働者」とは職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似す る者をいう。  

とされています。

 さて、ところどころ話を事件に戻しながら、この認定基準の内容を説明していくこととします。事件についてショッキングだったことは、心の病が原因で労働者が自らの命を絶ったことですが、認定基準では、この心の病に基づく自殺については、

業務により対象疾病(ICD-10のF0からF4)に分類される精神障害を発病したと 認められる者が自殺を図った場合には、精神障害によって正常の認識、行為選 択能力が著しく阻害され、あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著 しく阻害されている状態に陥ったものと推定し、業務起因性を認める

となっています。ということは、事件の被害者である男性も、業務により対象疾病(ICD-10のF0からF4)に分類される精神障害を発病したという認定基準の要件を満たすことができれば業務起因性が認められ、労災認定されたということになります。

*2

では、どういう基準を満たせば精神障害が労災認定されるのかについて、話が前後してしまいましたが、早速認定基準の中身に入っていきましょう。

まずは、認定要件 についてですが、

業務上の疾病と認定される(労働基準法施行規則別 表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱う)ためには、次のすべての要件も満たす対象疾病である必要があります。 

 .対象疾病を発病していること。

.対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認 められること。

3. 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。 また、要件を満たす対象疾病に併発した疾病については、対象疾病に付随する疾病として認められるか否かを個別に判断し、これが認められる場合には当該対 象疾病と一体のものとして、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する 業務上の疾病として取り扱う。

 *3

ここで、上述の精神障害の発病に至る原因の考え方についての「ストレ ス-脆弱性理論」が関係してくることになります。

どういうことかというと

労働者災害補償保険法の性質上、客観的な判断がなされる必要があることから

心理的負荷による精神障害の業務起因性を判断する要件としては、

対象疾病の発病の有無発病の時期及び疾患名について明確な医学的判断があること

に加え、当該対象疾病の発病の前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められることを求めているということです。

 

要件の1番目の対象疾病というのは、

国際疾病分類 第10回修正版(以下「ICD-10」という。)第Ⅴ章「精神および行動の障 害」に分類される精神障害であって、器質性のもの及び有害物質に起因するもの を除く。 対象疾病のうち業務に関連して発病する可能性のある精神障害は、主としてI CD-10のF2からF4に分類される精神障害である。 なお、器質性の精神障害及び有害物質に起因する精神障害(ICD-10のF 0及びF1に分類されるもの)については、頭部外傷、脳血管障害、中枢神経変性疾患等の器質性脳疾患に付随する疾病や化学物質による疾病等として認めら れるか否かを個別に判断する。 また、いわゆる心身症は、本認定基準における精神障害には含まれない。

本当は、上記の難解な引用は避けようかと思いましたが、赤ゴシック体器質性の精神障害という項目が除かれることとされていることになっていたため引用しました。

コトバンクによれば、

器質性とは、症状や疾患が臓器・組織の形態的異常にもとづいて生じている状態とされ器質性精神障害とは、症状や疾患が臓器・組織の形態的異常にもとづいて生じている状態。脳そのものの器質的病変により、または脳以外の身体疾患のために、脳が二次的に障害を受けて何らかの精神障害を起こすことがあり、それを器質性精神障害という。身体疾患に基づく精神障害を症状性精神障害として分けることもある。器質性精神障害の症状の現れ方として主な症状は、認知症(にんちしょう)意識障害で、(中略) 意識障害とは、昏睡(こんすい)と呼ばれる、どんな強い刺激を与えても深く眠ったままで目を覚まさない重度のものから、一見意識清明なように見えるものの、注意力が散漫で、放っておくとぼんやりとして、うとうとするような軽度のレベルまでいろいろな段階がある。 このとき、幻覚(比較的幻視(げんし)が多い)や妄想が生じたり、言動や行動がまとまらず興奮することもしばしばみられ、意識障害ではなく、その他の何らかの精神障害と誤って判断されることもあるので、注意が必要

とされていたからです。

何の関係があるのと思われるかもしれませんが、実は、事件の被害者の男性というのが、6歳の時に脳腫瘍が見つかり左半身に障害を残した経験があると記事に記されていたからです。それは、後述する認定基準の業務以外の心理的負荷及び個体側要因の判断 において何らかの影響を与えた可能性もあるということです。

とにかく、1番目の要件対象疾病を発病しているということが必要です。

そして、その次に2番目の要件

その対象疾病の発病前おおむね6カ月間の間に業務による強い心理的負荷が認められることが必要です。

その心理的負荷の程度の判断には、認定基準の別添の(別表1)「業務による心理的負荷評価表」指標として、その強度を「強」、 「中」、「弱」の三段階に区分することにより行われることになります。

当然、強い心理的負荷が要件ですので、ここでは、「強」と判断されなければなりません。そして、その「強」と判断された心理的負荷により発病した疾病が、

次の、3番目の要件

業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認め られないことという要件を満たすと、その精神障害業務起因性が認められる、つまり労災認定されるということになります。

次回は、2番目の要件判断の指標となる「業務による心理的負荷評価表」について見ていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

*1:業務起因性:業務に内在する危険有害性が現実化したと経験則上認められること

*2:※ちなみに、労災認定基準では「覚悟の自殺は認定しない」としているので、自殺をすれば家族に労災補償が下りると勘違いして自殺する労働者がいないことを願う。

*3:※、労規則別表第1の2第9号には「人の生命に関わる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれらに付随する疾病」が掲げられている。