コーヒーブレークQ&A 経歴詐称(学歴詐称)がなければ採用?

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Q.

当社就業規則には経歴詐称についての懲戒規定はないのですが、「その他の理由により会社の秩序を著しく乱した者」という規定があります。今回、採用面接時に非常に感じがよく、履歴書も優秀で健康面も問題がないと期待して採用していた当社社員の中に学歴を詐称していることが判明した社員がでてきました。当社としては非常に期待していた社員なだけに残念なのですが、今後の当社の企業秩序の事も考えると、現状のまま在籍させておくことにも問題があると判断しました。当社はこの社員を上記その他懲戒規定により懲戒解雇とすることができますか?

 

A.

ご質問の内容についてはいわゆる「経歴詐称」と言われる問題ですが、いつも通り「経歴詐称」の定義からおさらいしていきましょう。

経歴詐称とは、労働者が企業に採用される際に提出する履歴書や面接等において、学歴・職歴・犯罪歴・病歴などを詐称し、若しくは真実を秘匿することをいい、多くの企業の就業規則において懲戒解雇事由とされています。【Q&A労働法実務シリーズ6 解雇・退職 中町誠・中山慈夫(編) 加茂善仁(著)中央経済社

ここで、使用者の有する懲戒権についてですが、使用者は、自ら事業を経営する者として、あらゆる経営資源を一定の規律の基に秩序付け、事業の安定的発展に資するよう努める責務を有しているといえ、そういった要請に基づき自らの組織の秩序に合わないものを排除する権限を当然に有するのではないかを思われていますが、懲戒解雇は読んで字のごとく企業秩序違反に対する最も重い制裁を意味しています。一般的に使用者の有する解雇の自由に関しては、労働契約関係にその根拠を有していますが、同じ解雇ではあっても懲戒解雇の場合は社会的制裁の意味合いがあるという意味では同様ではありません。懲戒解雇事由に該当した場合は、退職金や賞与の不支給を定めた懲戒規定も数多く存在しますし、なんといっても一番の制裁的意味合いは社会復帰の困難さにあると言っても過言ではないでしょう。本人の正社員としての社会復帰を困難にし、不本意非正規雇用労働者に甘んじて生きていくことを強いられることも珍しくないからです。そういった意味で、労使対等の立場で締結されるべきである労働契約において、使用者のみが当然にそのような社会的制裁色の強い懲戒権を有していると解するのは困難であると説明されています。確かにそのような懲戒解雇の持つ社会的制裁色の強い機能が、労働者に与えるリスク回避的な思考に基づく秩序維持に果たす役割を過小評価できないと思いますが、懲戒権は労働契約に基づき使用者に当然に認められる権利ではなく、労使対等の立場で締結される労働契約上の特別の合意が必要であるとされています。

具体的には就業規則に、制裁の種類と程度を具体的に定めた懲戒既定の存在と、その様な規定の労働者への周知が必要になります。

そして、上記懲戒解雇を含む懲戒の性質から、そのような規定の存在と労働者への周知があれば、それだけで使用者の行使した懲戒権が正当と認められるわけではありません。以前の記事でもお伝えしたように、使用者の懲戒権の行使については、解雇権の乱用の法理によるチェックと同様、懲戒権の乱用がないかの司法による厳しいチェックがあります。従って、懲戒解雇の場合は解雇権濫用の法理プラス懲戒権の乱用の法理の二重のチェックを受けなければなりません。労働契約法には、その第15条で懲戒について、同16条に解雇について、過去の様々な判例から確立されてきたとされるそれぞれの権利濫用法理を労働契約締結に関する民事的ルールとして条文化しています。*1

更に上記解雇と懲戒の権利濫用法理の条文とは別に、労働者と使用者双方に適用される労働契約の原則として契約法では同3条4項においては、それぞれの権利義務についての信義誠実の原則を、同条5項においては、それぞれの労働契約の基づく権利行使に当たっての濫用禁止の規定を定めています。*2

  参考として、労働契約法制定当初に厚生労働省により発出された通達【労働契約法の施行について】(平成20年1月23日 基発第0123004号)による、同15条(懲戒)の内容の説明によると、使用者が労働者を懲戒することができる場合であっても、その懲戒が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には権利濫用に該当するものとして無効となることを明らかにするとともに、権利濫用であるか否かを判断するに当たっては、労働者の行為の性質及び態様その他の事情が考慮されることを規定したものであると説明しています。更に、同15条の懲戒とは、労働基準法89条第9号の「制裁」と同義であり、同条により、当該事業場に懲戒の定めがある場合には、その種類及び程度について就業規則に記載することが義務付けられているものであることと説明されています。

今回の御社の質問の中に、経歴詐称による懲戒を定めた就業規則がないということですから、まずは労働基準法の関係でいえば、御社が就業規則作成が義務付けられている常時使用労働者数10人以上の事業場であれば、経歴詐称による懲戒を定めた就業規則がないまま当該社員を当該学歴詐称を含む経歴詐称を理由に懲戒解雇を行えば、労働基準法89条の就業規則作成義務に違反することになります。一方で、そのような就業規則がない場合であっても、当該労働者との労働契約で「学歴詐称を含む経歴詐称があった場合は、懲戒解雇に処する」という内容を含む労働契約を締結していた場合はどうでしょうか?

残念ながらその場合であっても、労働基準法の有する強行的直立的効力により、当該労働契約は無効となり、その無効となった労働契約は労働基準法の定める基準まで引き上げられますので、やはり、経歴詐称を直接の理由に懲戒解雇はできないということになります。因みに労働契約法12条でも、労働基準法13条と同様、就業規則違反の労働契約の効力についての無効の規定が設けられており、無効となった労働契約の部分については、就業規則に定める基準によるという直立的効力の規定が定められています

 それでは、御社のご質問通り、その他の懲戒の定め「その他の理由により会社の秩序を著しく乱した者」を適用することには問題ないでしょうか?

もし適用できれば、労働基準法89条の違反の問題はクリアできることになります。

その問題を検討するため、懲戒解雇の一般的諸原則について復習も兼ね振り返ってみたいと思います。

上述したように、使用者の有する懲戒権は労働契約の特別の合意に基づき行使される民事上の権利と過去の多くの判例から解されていますが、その社会的制裁色の強さから刑事罰罪刑法定主義*3に類似した諸原則が適用されるとされています。

①明確性・該当性の原則

明確性というのは就業規則等に懲戒の種類と程度を明らかにした規定があるかどうかということであり、該当性というのは、原処分を行った事実が懲戒事由に該当しているかどうかということです。

②相当性の原則

上記①の要件を満たしていても、当該処分が社会通念に照らし相当でなければならないということです。

③不遡及の原則

処分当時に認識していなかった事実をもって、遡って懲戒の理由とすることはできないという原則のことです。

一事不再理の原則(二重罰の禁止)

判決を受け確定した事件に関しては、同じ事件で再び裁判することは許さないとする刑事訴訟法上の原則を懲戒処分に当てはめたもの。

1つの処分対象となった同じ事実をもって、別の懲戒処分の理由とすることはできないという原則のことです。

➄手続保障(弁明の機会)

懲戒処分を行う場合においては、その手続きの際に、弁明の機会を与える必要があるとする原則のことです。

⑥平等主義(不当な動機・目的の有無)

同じ種類・程度の違反を行ったものに対しては、その処分の内容も平等でなければならないという原則のことです。

【お気楽社労士の特定社労士受験ノート 特定社会保険労務士 佐々木昌司(著)住宅新報社

以上の様に、使用者の有する懲戒権には、原則、上記のような厳しい諸原則が適用されることになります。

問題の経歴詐称についてですが、一般的に経歴詐称の事実があってもそれだけで懲戒解雇ができるわけではないとされています。経歴詐称による懲戒解雇が有効とされるためには、重要な経歴の詐称であることが必要とされています。従って、御社の場合も、経歴詐称の事実があったのみでは、懲戒の規定は適用できないことになるため、 御社のその他懲戒の定め「その他の理由により会社の秩序を著しく乱した者」を適用するためには、その経歴詐称により会社の秩序を著しく乱した者である必要があります。(①明確性・該当性の原則)

前述したように懲戒の対象となるような重要な経歴の詐称には、学歴職歴犯罪歴年齢病歴などが代表的な項目とされています。

今回のご質問で問題とされているのは、学歴詐称に関することですが、学歴詐称についてはいわゆる学歴を本人の事実の学歴よりも高く詐称する場合のみならず、低く詐称する場合の問題も含まれます。また、学歴を高く詐称する問題については、高卒を大卒というように実際の学位よりも高い学位を詐称する場合のみならず、学位を詐称していなくても実際の卒業した学校よりもレベルの高い学校を卒業したように詐称することや、実際には中退で卒業していないにもかかわらず、高卒、大卒と卒業したかのように詐称することも含まれるとされています。

さて、その学歴詐称を含む重要な経歴詐称が何故上記の様な厳しい処分の正当な懲戒解雇の対象となりうるのでしょうか?

まず、そもそも重要な経歴の詐称とはどのようなことを言うのかについてですが、裁判例の中に、懲戒規定の解釈を述べて説明しているものがあるので次に引用します。

次に、前記条項にいう「重要な経歴をいつわり」とは如何なる場合をいうかを考えるに、それは、経歴のうち、使用者の認識の有無が当該労働者の採否に関して決定的な影響を与えるものについての秘匿又は詐称、換言すれば、労働者が真実の経歴を申告ないし回答したならば、社会通念上、使用者において雇用契約を締結しなかったであろうという因果関係の存在が認められる場合をいうものと解するのが相当である。

日本鋼管鶴見造船所事件1977年6月14日横浜地裁判決】

 

労働者が雇用契約の締結に際し、経歴について真実を告知していたならば、使用者は当該雇用契約を締結しなかったであろうと客観的に認められるような場合には、経歴詐称それ自体が、使用者と労働者との信頼関係を破壊するものであるといえることからすると、前記のような場合には、具体的な財産的損害の発生やその蓋然性がなくとも、「重要な経歴をいつわり採用された場合」に該当するというべきである。

【メッセ事件東京地裁平成22年11月10日判決】

従って、経歴詐称の事実があったとしても、上記裁判例で定義されているような状況にないようなケースでの経歴詐称の場合は、重要な経歴の詐称には該当しないということになり、そのような経歴詐称による懲戒解雇処分は、内容的には前述した、懲戒の諸原則である該当性の原則②相当性の原則を満たしていないことになりますので無効と判断されます。

 債務者は、昭和六〇年三月以降は、高卒以上の学歴の者でなければ採用しない方針である旨主張する(〈証拠略〉にも、これに副う部分がある。)。しかし、(証拠略)によれば、右の時点以降も、高卒未満の学歴の者が採用されていることが疎明されるから、債務者において真実この学歴要件を重視していることについては疑問があり(⑥平等主義)、この点は、少なくとも、就業規則五五条三号所定の「重要な経歴」にあたるとすることはできない。

【近藤化学工業事件1994年9月16日大阪地裁決定】

 

前認定のとおり、控訴会社は現場作業員として高校卒以下の学歴の者を採用する方針をとっていたものの募集広告に当って学歴に関する採用条件を明示せず、採用のための面接の際被控訴人に対し学歴について尋ねることなく、また、別途調査するということもなかった。控訴人は二か月間の試用期間を無事に了え、その後の勤務状況も普通で他の従業員よりも劣るということはなく、また、上司や同僚との関係に円滑を欠くということもなく、控訴会社の業務に支障を生じさせるということはなかったのであるから被控訴人の本件学歴詐称により控訴会社の経営秩序をそれだけで排除を相当とするほど乱したとはいえず、本件学歴詐称が経歴詐称に関する前記条項所定の懲戒事由に該当するものとみることはできず、本件主位的解雇の意思表示は、その余の点につき判断を加えるまでもなく、無効というべきである。

【西日本アルミニウム工業事件(1980年1月17日 福岡高裁判決)】

 学歴詐称のケースではなく、年齢詐称のケースですが、重要な経歴の詐称に該当するか否かの判断で問題とされるのは、①該当性の原則や②相当性の原則のみならず、③不遡及の原則が問題とされているものもあります。

使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないものというべきである。これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、本件懲戒解雇は、被上告人が休暇を請求したことやその際の応接態度等を理由としてされたものであって、本件懲戒解雇当時、上告人において、被上告人の年齢詐称の事実を認識していなかったというのであるから、右年齢詐称をもって本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることはできない。

【山口観光事件1996年9月26日最高裁第一小法廷判決】

 以上の様に、経歴詐称に関しては重要な経歴の詐称については懲戒の対象にされているわけですが、多くの裁判例によると、その重要な経歴詐称が懲戒処分の対象となる根拠について、労使の信頼関係を基礎とする労働契約における継続的雇用関係により生ずる労働者の労働契約締結時における信義則上の義務にあるとしています。*4

 ところで、雇用契約は、継続的な契約関係であって、それは労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置くものということができるから、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者の経歴等、その労働力の評価と関係のある事項について必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負っているというべきである就業規則三八条四号もこれを前提とするものと解される。そして、最終学歴は、右(1)の事情のもとでは原告の労働力の評価と関係する事項であることは明らかであり、原告は、これについて真実を申告すべき義務を有していたということができる。

モデル裁判例【炭研精工事件1990年2月27日東京地裁判決

 

雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるといえることからすると、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項や、これに加え、企業秩序の維持に関係する事項について必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うものというべきである。したがって、労働者が前記義務に違反し、「重要な経歴をいつわり採用された場合」、当該労働者を懲戒解雇する旨定めた本件就業規則の規定は合理的であるといえる。

【メッセ事件東京地裁平成22年11月10日・労判1019号13頁】 

 

一般に企業が労働者を採用するにあたって履歴書を提出させ、あるいは採用面接において経歴の説明を求めるのは、労働者の資質、能力、性格等を適性に評価し、当該企業の採用基準に合致するかどうかを判定する資料とするためであるから、かかる経歴についての申告を求めることは企業にとって当然のことといわなければならない。従って、その反面として、企業に採用され、継続的な契約関係に入ろうとする労働者は、当該企業から履歴書の提出を求められ、あるいは採用面接の際に経歴についての質問を受けたときは、これについて真実を告げるべき信義則上の義務があるというべきであり、これを偽り詐称することは右にいう信義則上の義務に違背するものである。

【都島自動車商会事件1987年2月13日大阪地決定】

以上の様に、学歴詐称を含む重要な経歴の詐称については、労働者の信義則上の義務に違背する者であるため、当該労働者を懲戒解雇する旨定めた懲戒規定は合理的であるとされています。

しかしながら一方で、経歴詐称はプロセス審査を重視する労働法の中にあっても、労働契約締結場面での問題であり、経営秩序を侵害するものではないので、懲戒事由たり得ないのではないかという疑問が生じないともいえません。

そのことついて前記 日本鋼管鶴見造船所事件1977年6月14日横浜地裁判決】は次のように説明しています。

そもそも、使用者が労働者を雇用する際に、学歴、職歴等その経歴を申告させるのは、これら労働者の過去の行跡をもって従業員としての適格性の有無を判断し、かつは、採用後の賃金、職種等の労働条件につき、これを正当に評価決定するための資料を得ることにあるから、これに、所謂終身雇用制が一般化して、雇用契約関係は労使双方の相互信頼を基調とする継続的な人間関係にまで及んでいる現状を合わせ考えると、労働者は、雇用されるに際し、その経歴等の申告を求められたときには、使用者に叙上の諸点についての認識を誤らせないよう真実のそれを申告ないし回答すべき信義則上の義務があるものというべきである。したがって、労働者が経歴等を詐称して雇用された場合には、右信義則上の義務に違背しているのみならず、使用者の欺罔された容態のもとにおいて、本来従業員たりえないのに従業員たる地位を取得し、さらには、あるべきものと異なる職種賃金を得て企業内の適正な労務配置、賃金体系等を乱していることになるから、就業規則あるいは労働協約においてかような経歴詐称を懲戒解雇事由として規定することには、それなりの合理的な理由と必要性があるというべきである。

 原告は、経歴詐称は、労働契約成立過程における問題にすぎず、経営秩序を侵害するものではないので、懲戒事由たり得ないと主張するが、上来の説示から明らかなように、右主張は、採ることができない。

 最後に、学歴詐称の問題ではないのですが、犯罪歴に関する詐称の問題で、

履歴書の賞罰欄にいう「罰」とは一般に確定した有罪判決(いわゆる「前科」)を意味するから、使用者から格別の言及がない限り同欄に起訴猶予事案等の犯罪歴(いわゆる「前歴」)まで記載すべき事由はないと解される。

【マルヤマタクシー事件1985年9月19日仙台地裁判決】

とされていますので、併せ注意が必要です。

以上今回は、経歴詐称の中の学歴詐称の相談を想定して、懲戒の諸原則を含め説明させていただきました。経歴詐称による懲戒処分も懲戒である以上、刑罰に関する罪刑法定主義に類似する諸原則が適用されると解されています。従って、懲戒規定にその種類と程度を詳細に規定していることを満たしているだけでなく、懲戒手続に関しても、懲戒の対象となった行為と処分の内容とが均衡のとれたものであること等客観的相当性が求められますので、今回の記事が経営者の皆様のそういった再認識に何らかのお役に立てたなら幸いに思います。

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【参考文献】
・【Q&A労働法実務シリーズ6 解雇・退職 中町誠・中山慈夫(編) 加茂善仁(著)中央経済社
・【法律用語がわかる辞典 尾崎哲夫(著)自由国民社
・【お気楽社労士の特定社労士受験ノート 特定社会保険労務士 佐々木昌司(著)住宅新報社

【参考資料】

学歴詐称Wikipedia

独立行政法人労働政策研究・研修機構サイト  雇用関係紛争判例

〈(61)【服務規律・懲戒制度等】経歴詐称〉

 

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*1:【労働契約法】(懲戒)第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。(解雇)第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

*2:【労働契約法】(労働契約の原則)第三条 1〜3項(略): 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

*3:罪刑法定主義一定の行為を犯罪としこれに刑罰を科すためには、あらかじめ法の規定がなければならないという考え方をいいます。その趣旨は、国家機関による恣意的な刑事罰の行使を防ぎ国民の自由を保障することにあります。「法律なければ犯罪なく、法律なければ刑罰なし」という標語で示されることも多く、近代刑法の基本原則の一つです。罪刑法定主義は、次のような内容を伴います。①慣習刑法の排除 ②絶対的不定期刑の禁止 ③類推解釈の禁止 ④遡及処罰の禁止 ➄明確性の原則 ⑥実体的適正 【法律用語がわかる辞典 尾崎哲夫(著)自由国民社】より

*4:【信義則違反を理由になし得るものではないとする判例・・・そして使用者の保持する懲戒解雇権を右の如く解すれば、懲戒解雇に値する重大な経歴詐称もしくは不正入社とは、使用者をして労働力の評価ひいてはその組織づけを著しく誤らしめる事実を意味し、且つそれは企業組織に対する危険を排除するため認められるものであって労働契約締結上の信義則違反を理由としてなし得るものではないこと明らかである。富士通信機製造事件1963年6月12日 横浜地裁決定〉

緊急報告!注目の労働契約法20条初の最高裁判決

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2018年5月3日 (定年後再雇用(その2)何歳まで働く?)というタイトル記事の中で触れた、使用者側の提示する労働条件の相違が、労働契約法20条に違反するか否かの問題で、いずれも上告中であり、労働契約法第20条についての初の最高裁判決ということで、その判断の行方が注目されていた2件の運送会社の事件である、Ⓐ 長澤運輸事件(東京高判平成 28 年 11 月2日判決)Ⓑハマキョウレックス事件(大阪高平成28年7月26日判決)最高裁判決が6月1日に下されました。両事件はどちらも本年4月20日(Ⓐ)4月23日(Ⓑ)に最高裁での口頭弁論を終えており、同日付の本年6月1日に判決言い渡しが確定していました。

話の内容に入る前に、同記事の中で不適切な表現があったとの指摘を受けましたので、お詫びと訂正内容をお伝えして本題に入りたいと思います。

(訂正箇所)

トヨタ自動車事件の高裁判決が出されたのが、前述したハマキョウレックス事件高裁判決(大阪高平成28年7月26日判決)の2か月後というタイミングであったため、現場が混乱したといわれています。定年前後で職務内容が同一であれば、労働条件を相違させすぎても駄目、使用者が賃金節約や雇用調整の弾力性を図るために職務の内容を変更しすぎるのも駄目という様な碁石を置かれたような結論の事を言っているようです。

という部分ですが、正確には、ハマキョウレックス事件は正社員と契約社員の労働条件の相違が労働契約法20条に違反しないかどうかが争われている事件であり、定年後再雇用の定年前後の労働条件の差異が問題とされている長澤運輸事件とは違い、継続雇用の問題として扱われているわけではありません。同じ運送業のしかも労働契約法20条に違反しているかどうかが争われているため、よく対比して語られていますが、継続雇用の記事の中で扱っていたため多大な誤解を招いているという指摘です。

それと、現場が混乱しているという表現のところはそのハマキョウレックス事件とトヨタ事件との対比で語られているわけではなく、長澤運輸事件とトヨタ事件での対比として語られている内容です。以上のような不適切な表現があったことにより、まさに現場を混乱させてしまったことをこの場をお借りしてお詫びさせていただきたいとおもいます。

さて、本題についてですが、

記事の中で、近年相次いでいるのが、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止を定めた労働契約法第20条に関する判決で、多くのケースで基本給格差を容認する一方、諸手当では厳格な判断が下されているということを2018年4月10日付、労働新聞の電子版記事を引用して説明させていただきました。

労働契約法第20条は、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。という内容の条文です。

高年法は、企業の実情に応じた柔軟な措置を想定しているとされてはいますが、法の趣旨に反したり、公序良俗や他の労働関係法令に違反するような労働条件を許容するものではありません。上記二つの事件共に、①の内容が同様であるにもかかわらず、再雇用後の労働条件が相違することは、労働契約法20条の趣旨に反し違法であるということで争われていました。

ここで、2018年5月3日 (定年後再雇用(その2)何歳まで働く?)の記事のまとめを振り返っておきたいと思います。

⑴ 高年齢者雇用安定法が求めているのは、継続雇用制度の導入であるり、
事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではない。

⑵ 事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、高年齢者雇用安定法違反となるものではない。

⑶ 高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであれば、雇用に関するルールの範囲内で、フルタイム、パートタイムなどの労働時間、賃金、待遇などに関し、事業主と労働者間で継続雇用後の労働条件について決めることができる。

⑷ 期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

⑸ その他の事情として考慮すべきことについて、上記①及び②を提示するほかに特段の制限を設けていないから、労働条件の相違が不合理であるか否かについては、上記①及び②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきものと解される。

労働協約は労働者に有利な条項と不利な条項が一体として規定されることが多く一般論としては、労働協約は労働者に不利な事項についても規範的効力を有するといわざるを得ないが、賃金や退職金などの重要な労働条件についての不利益については一部労働者のみに被る不利益性の程度や内容次第では、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないと判断される場合がある。
(但し、労組と協約締結や協議と尽くしていることが望ましい事は言うまでもない。)

⑺ 社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては,当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ない。

⑻ 改正高年法の定める継続雇用制度を採用するにあたり,再雇用との文言を用いているが,その運用の適否を検討するにあたっては,上記の改正高年法の趣旨に従い,あくまで継続雇用の実質を有しているか否かという観点から考察すべきものであると判断されている。

⑼ 使用者の提示した継続雇用後の労働条件が無効となった場合でも、法自体から直ちに従前の労働条件での雇用契約が成立したと解されないこともあるが、民事的責任(債務不履行不法行為に基づく損害賠償責任)は生じうる。

上記Ⓐ長澤運輸事件に関しては、1審判決では、考慮要素①②が同一である以上、賃金額に差を設けることは、その相違の程度にかかわらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り不合理であるとの評価を免れないと判断したのに対して、高裁判決では本件相違は、上記①②③に照らして不合理なものとはいえず、労働契約法 20 条に違反するとは認められないと判断しています。
更に、定年前と同一の職務に従事させながら、賃金額を 20~24%程度切り下げたことが社会的相当性を欠くとはいえず、労働契約法または公序(民法 90 条)に反し違法であるとは認められないとして、労働者側の主位的請求も予備的請求のいずれも理由がないという結論となっていました。

長澤運輸の高裁判決に関しては、後述のⒷハマキョウレックス事件の高裁判決とは異なり、賃金構成の各項目について、具体的中身を検討しながら不合理性を判断をしていませんが、そのことについて同高裁判決では、定年前後で上記①②が変わらないまま一定程度賃金が減額されることは一般的であり社会的に容認されていることのほか、正社員の「能率給」に対応する嘱託社員の「歩合給」につき上記「能率給」より支給割合を高くしていること、無事故手当を正社員より増額して支払ったことがあること、老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について調整給を支払ったことがあることなど、正社員との賃金の差額を縮める努力をしたことに照らすと、個別の諸手当の支給の趣旨を考慮しても、不合理であるとは認められないというような説明をしています。

前述した労働新聞の最近の労働契約法20条をめぐる裁判例の傾向からすると、その意味をどうとらえるか、同高裁判決が、定年前と同一の職務に従事させながら、賃金額を 20~24%程度切り下げたことが社会的相当性を欠くとはいえず・・と述べ、更に、(賃金構成の各項目について不合理性を判断せよとの被控訴人らの主張について)のところでは、定年前後で上記①②が変わらないまま一定程度賃金が減額されることは一般的であり社会的に容認されている・・・と述べていることからすると、定年前と同一の職務に従事させながら、賃金額を 20~24%程度切り下げたことに社会的相当性があるかどうかという観点に主眼があり、その社会的相当性について(正社員との賃金の差額を縮める努力)という表現を用い、企業側の労働者側への賃金減額という労働条件の不利益変更の代償措置的な考えに基づき全体評価しているように読めます。

個人的には、労働契約法20条に違反するかどうかということを控訴人が問うていることに関して、特に長澤運輸事件に関しては、考慮要素①②が同様であるにもかかわらず、賃金額を 20~24%程度切り下げたことに対して、労働契約法20条に違反ではない(合法である)ことの理由付けとして、我国における定年再雇用後の労働条件の社会的相当性を当てはめているようにも読めます。

その様に考えるならば、上記高裁判決は、我国における65歳までの安定した雇用の確保措置を講ずることにより全員参加型社会を実現するという国家政策課題があり、社会的に強く要請されているために企業の実情に応じた柔軟な措置を想定した高年齢者雇用安定法の趣旨を労働契約法20条に優先させたような結論ということができるかもしれません。

勿論、同高裁判決は控訴人の定年再雇用後の労働契約形態が有期雇用契約であるため、本件の有期労働契約には、労働契約法 20 条の規定が適用されることになると認定していますから、 考慮要素の①②が同様であるという前提からすると、個別具体的に踏み込んだ検討をした場合に明らかに契約法20条に反する内容である場合は、違法の判断が優先されていたと思いたいものですが、高年法の趣旨を総論と例えるなら「総論賛成各論反対」という程の不合理性はないというような判断の表現の仕方のようにも読め、個人的には、同高裁判決が「本件相違は、上記①②③に照らして不合理なものとはいえず、労働契約法 20 条に違反するとは認められない」という判断表現を使用しているだけに何となくすっきりしない感が残るのも事実です。

さて、以上を踏まえ同事件の一昨日の最高裁判断如何ということですが・・・・

まず、労働契約法20条の条文(期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては)との文言から、正社員と非正社員との待遇の差について定めた条文だと言えます。

しかしながら、上述したように長澤運輸事件は、もともとがハマキョウレックス事件の様な正社員と非正社員との待遇差を問題としているわけではなく、定年後再雇用の定年前後の労働条件の差異が問題とされている事案であり、そのような定年再雇用後の労働条件の相違が、労働契約法 20 条の「期間の定めがあることにより」生じたも のであるといえるかも争点とされていました。

昨日2018年6月2日付け、朝日新聞2面の記事によれば、最高裁判決は定年後に再雇用された非正社員に、雇用期間の定めの有無で労働条件に不合理な格差をつけることを禁じる労働契約法20条が適用されると認定したことを伝えています。

更に、昨日早朝ヤフーニュースによると、同高裁判決とは違い、契約用20条の不合理性の判断について、賃金項目の各項目を個別に判断すべきとの判断について次のように伝えています。

非正規格差に関する最高裁の初判断をどう読むか~日本型雇用の終わりの始まり~(倉重公太朗) - 個人 - Yahoo!ニュース

使用者は,雇用及び人事に関する経営判断の観点から,労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して,労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができる。また,労働者の賃金に関する労働条件の在り方については,基本的には,団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということもできる

と判断し、労契法20条の「その他の事情」として、定年後再雇用という点も考慮すべきとしました

 その上で、定年後再雇用の特殊性については

使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また,定年退職後に再雇用される有期契約労働者は,定年退職するまでの間,無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている

として、定年前正社員との違いを述べた上で

有期契約労働者と無期契約労働者との賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,当該賃金項目の趣旨により,その考慮すべき事情や考慮の仕方も異なり得るというべきである。

として、各項目を個別に判断すべきとしました

上記ヤフーニュースの伝える内容の意味について、前述の同日付朝日新聞では次のように説明しています。

判決は、再雇用者については、定年までに正社員として賃金を受け取ってきた/通常は長期間雇用することが予定されていない/一定の要件を満たせば年金を受け取れる・・といった点に着目。こうした点を③の「その他の事情」として考慮すべきだと判断した。そのうえで、嘱託社員と正社員の具体的な賃金格差などを検討し、賃金格差の大半については「不合理とはいえない」と判断した。

定年再雇用後の有期労働契約に関しては労働契約法20条の考慮要素③の「その他の事情」として考慮され不合理性が判断されるとはいっても、定年再雇用という特殊事情のみをもって正社員との労働条件の相違の不合理性が否定されると安易に考えるべきでないと考えます。

上記引用した最高裁の考えの中で、

有期契約労働者と無期契約労働者との賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,当該賃金項目の趣旨により,その考慮すべき事情や考慮の仕方も異なり得るというべきであると述べていることには留意が必要です。

結論としては、「従業員に出勤を奨励する趣旨で支給されるもの」として精勤手当のみが労働者に認められています。

 

次にⒷハマキョウレックス事件の方ですが、こちらの事件に関しては、以前の記事でもほとんど内容的に触れていませんでしたので、最高裁の結論をお伝えする前に概要だけ説明させていただくと、

同1審判決(大津地彦根支判平成27年9月16日)

労契法20条の「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が、それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味する。

被告におけるこれら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等を考察すれば、少なくとも無事故手当作業手当給食手当住宅手当皆勤手当及び家族手当一時金の支給定期昇給並びに退職金の支給に関する正社員と契約社員との労働契約条件の相違は、被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえないから、労働契約法20条に反しない。しかし、通勤手当については、通勤手当が交通費の実費の補填であることからすると、公序良俗に反するとまではいえないが、被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものであり(被告は、正社員の場合は配置転換により長距離通勤が予定されていると主張するが,そうだとしても,正社員の下限の金額が,契約社員の上限の金額を上回っていることの説明にはならないはずである)、労働契約法20条の『不合理と認められるもの』に当たる。労働契約法20条に反する労働契約の条件は同条により無効となるが、同法12条のような特別の定めがないのに、無効とされた労働契約の条件が無期契約労働者の労働条件によって自動的に代替されることになるとの効果を同法20条の解釈によって導くことは困難であるから・・労働契約の条件が同条に違反する場合については,別途会社が不法行為責任を負う場合があるにとどまる。

 

高裁判決(大阪高平成28年7月26日)

正社員のドライバーの業務内容と契約社員のドライバーの業務内容は大きな相違があるとは認められない。
しかし、正社員と契約社員との間には、職務遂行能力の評価や教育訓練等を通じた人材の育成等による等級・役職への格付け等を踏まえた広域移動や人材登用の可能性といった人材活用の仕組みの有無に基づく相違が存する。
したがって、「不合理と認められるもの」に当たるか否かについて判断するに当たっては、労働契約法20条所定の考慮事情を踏まえて、個々の労働条件ごとに慎重に検討しなければならない。無事故手当作業手当給食手当通勤手当については、契約社員に対して同手当を支給しないことは、期間の定めがあることを理由とする相違というほかなく、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たる。住宅手当皆勤手当については、契約社員には同手当を支給しない扱いをすることが、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たると認めることまではできない。

労働契約法20条に違反する労働条件の定めは無効というべきであり、同条に違反する労働条件の定めを設けた労働契約を締結した場合は、民法709条の不法行為が成立する場合がありうる。

しかし、労働契約法は、同法20条に違反した場合の効果として、同法12条や労働基準法13条に相当する規定を設けていないこと、労働契約法20条により無効と判断された有期契約労働者の労働条件をどのように補充するかについては、労使間の個別的あるいは集団的な交渉に委ねられるべきものであることからすれば、裁判所が、明文の規定がないまま、労働条件を補充することは、できる限り控えるべきである。
したがって、関係する就業規則労働協約、労働契約等の規定の合理的な解釈の結果、有期労働契約者に対して、無期契約労働者の労働条件を定めた就業規則労働協約、労働契約等の規定を適用し得る場合はともかく、そうでない場合には、不法行為による損害賠償責任が生じ得るにとどまる。(以上、「弁護士オフィシャルWEBサイト 竹村 淳」より)

 以上のように、同事件においては1審判決では、契約法20条の不合理性の判断について、同条の各要素を考察し、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味するとして、通勤手当のみの支給不支給の相違を不合理と判断していたのに対し、同高裁判決においては、同条の考慮要素の①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度は同様でありながらも、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲に相違があるため、「不合理と認められるもの」に当たるか否かについて判断するに当たっては、労働契約法20条所定の考慮事情を踏まえて、個々の労働条件ごとに慎重に検討しなければならないとし、無事故手当作業手当給食手当通勤手当4つの手当てについて、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に該当するとしていました。

 同事件の最高裁判決についてですが、先述した早朝ヤフーニュースによると次のように伝えています。

労契法20条は、職務の内容等が異なる場合であっても,その違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることを求める規定であるところ,両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。

(略)

 【ハマキョウレックス事件の結論】 

今回の最高裁は、上記4つの手当については結論を維持しつつ、皆勤手当について、その支給の趣旨は運送業務を円滑に進めるために実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する点にあるとし、トラック運転という職務内容が異ならない以上は、出勤を確保する必要性については差異が生ずるものではないとして、皆勤手当を支給しないのは不合理としました。

 朝日新聞の朝刊では、正社員と非正社員の待遇の差はどのような場合に「不合理」となるのかについての最高裁の判断について次のようなことを説明しています。

1日の最高裁判決は「賃金の総額を比較するだけでなく、手当など項目の趣旨を個別に考慮すべきだ」との判断を示した。場合によっては、別の賃金項目の有無や内容も考慮して、正社員と非正社員との間の差について判断すべきだ、という立場だ。

【以上のように、6月1日付の二つの運送会社の労働契約法20条違反をめぐっての最高裁判断は、労働者にとって定年後の労働契約ということでは同一であっても、結果として、高年法の定める定年再雇用であるか、通常の嘱託の再雇用であるかによって明暗が分かれた結果となった形です。上告側からすれば、高裁判決から一歩前進した結果となったとはいえ、以上のような定年後の働き方としては同一内容であるにもかかわらず結論が二分したことに対して憤りをあらわにしていると同新聞記事では伝えています。】

(上記下線部分が、不適切な表現となっています。緊急報告ということで急いでの執筆で、筆者の確認不足からくるエラーとなってしまいました。新聞記事の内容としても、同じような働き方で結論が二分したことに対して、上告人が憤りを示しているというような表現になっていました。あくまでハマキョウレックスは正社員と契約社員間の労働条件の相違が問題となっているケースであり、定年後嘱託の労働条件ではありません。ご迷惑をおかけした関係者の方々にこの場を借りてお詫びさせていただきます。

 

 

最高裁は、契約法20条に違反していると判断され無効とされた労働条件についてですが、同条には直律効がなく、損害賠償請求が認められるのみであるという高裁と同様の判断を示したと伝えらえれています。(上述ヤフーニュースより)

従って、形式的には将来に向かっての労働条件についての労使対等の立場による合意の原則が実現できるのであれば、(違法性が阻却される限りにおいては)相違する手当に代わる何か経済上の利益を提示等することにより比較対象労働者と同一でない労働条件で雇用を継続させることができるということになるのでしょうが、裁判にまでなって争われた労働条件についてそのような合意を労働者から取り付けることは困難だと思います。

では企業側としては、どのような労働条件の相違ならば不合理と判断されないのかということになりますが、そのことにも関連する内容のことについて同朝日新聞の朝刊記事が次のような内容の事を説明しています。

非正社員の待遇改善を図る同一労働同一賃金は、政府が今国会に提出した働き方改革関連法案の柱の一つだ。労働契約法の改正案などが含まれており、今国会で成立すれば、大企業は2020年4月、中小企業は21年4月に適用される。非正社員と正社員の待遇差が不合理かどうか判断する際の基準を明確化した点が、大きな特徴だ。改正法の成立後に、どういう待遇差が不合理になるか、手当ごとになどに具体的に示すガイドライン(指針)が策定されることになる。政府が16年12月に公表した指針案では、「将来の役割や期待が異なる」といった抽象的な理由では、待遇格差を設ける根拠にならないとの考え方を示した。

更に、大企業の中には既に、働き方改革法案の動きを見据え、正社員と非正社員の手当ての格差を見直す明るい動きがある一方で、政府が想定する正社員の水準まで非正社員の待遇を引き上げることとは逆の動きも出てきていることを伝えています。

私たちの生活に影響を与えている給与項目の中に、終身雇用の申し子ともいえる生活関連手当というものがあります。家族手当、住宅手当、食事手当、地域手当、単身赴任手当、寒冷地手当、通勤手当などが該当しますが、特別な事情で生活費負担が大きくなるものについて、雇用確保の視点から優遇しようという趣旨のものです。この生活関連手当の多くは、成果主義時代の中で縮小・廃止傾向で進んでいるとされています。

また、今回の二つの最高裁事件の中でも問題とされていた精勤手当や皆勤手当てについては、業績奨励手当関連の種類に属し、この手当に関しても最近縮小傾向にあるとされています。これら諸手当、特に生活関連手当は、近年縮小・廃止の方向で給与制度改革を行っている企業が多くなってきているということであり、その諸手当の主な削減方法としては、①単純に削減・廃止 ②基本給に組み入れる ③賞与に組み入れる等の方法があるとされています。【賃金・給与制度の教科書 (株)日本能率協会コンサルティング 高原暢恭(著)労務行政出版より】 

 

前回の社会保障費の記事の中でも書いたように、現在の我が国の労働市場は売り手市場が続いており、特に中小企業ではどの様に自社に有用な人材を獲得・定着させていくかは極めて重要な課題となっています。従って、長澤運輸事件の高裁判決でも述べていた通り、法により義務化された定年再雇用後の労働条件に関しては、企業経営上や人事上の施策として正規雇用の人件費よりもコストを節約しようという意識が働きやすいとも言えますが、それでも中小の場合は大手のように資金が潤沢ではないのが通常ですので、売り手市場で新卒者獲得競争が激しさを増している昨今においては、育児や介護と仕事の両立支援が整備されていることをしっかりとアピールできることや、自社での仕事が社会でどのような貢献役割を果たしているのか、仕事を通じてどのような資格技術を身に着けていくことができるのかといった具体的魅力的なキャリアパスをしめせることも有能な人材を確保するための有効な手段となると思われますので長年自社で活躍してくれた有能な高齢継続労働者が活躍できる場としての環境づくりの中での実現が望まれているといえるでしょう。一方で、企業は昨今の急激な情報化やグローバル化の流れの中で自社の存続をかけ、様々なイノベーションを模索することが必要不可欠であり、自社の人件費を適正に管理することも使用者の重要な使命であり責務といえます。

従って、前述した有能な高齢継続労働者が活躍できる場としての環境づくりと自社に適正な人件費管理を両立できるような給与制度改定が今後の大きな課題になると思われますので、今国会で成立を目指している労働契約法の改正案の中の(指針)については、そのような両立に資する内容を期待して今回の記事を終えたいと思います。

 

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社会保障費 「かねカネ金」の世の中どう生きる?

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 「190兆円」

さて、上の金額は何の数字かお分かりでしょうか?

実は、日本の2040年度の社会保障費の推計だそです。

2018年5月22日(火)朝日新聞朝刊によると、65歳以上の高齢者数がほぼピークを迎える2040年に社会保障給付費は188兆2千億~190兆円となるとの推計を政府が21日の経済財政諮問会議で公表したとのことで、40年度の推計を出したのは今回が初めてだということです。同年には高齢化率が35.3%となり、高齢者の医療や介護、年金に係る費用が増えるためで、今年度(18年度)の1.6倍となるとのことです。

一方で、社会保障費の主たる負担者である生産年齢人口は大幅な減少が予想されており、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、15~64歳は7562万人(60%)から5978万人(54%)になるとしています。

高齢者入りする団塊ジュニア世代(71年~74年)とバブル世代、団塊世代の多さを反映し、高齢者数は3920万人とほぼピークに達するそうです。私はいわゆるバブル世代ですが、世代間・世代内の公平な給付と負担のあり方が問われているなかにあって、この上記3世代は愛煙家が特に多いので、タバコを吸う私としては、40年度にはタバコ1箱の値段がいったいいくらになっているのか非常に気がかりです。

 同新聞によると、深刻なのは費用の問題だけでなく、介護・医療の担い手となる人材不足も懸念されています。15~64歳40年までに1584万人減少する見込みであるのに対し、介護や医療の分野に必要な人材数は事務職員も含むと今より242万人増加するとしており、介護現場に限っても、厚生労働省が21日に発表した需給推計によれば、25年度時点約34万人が不足するそうです。

現状でも、特別養護老人ホームにおいて、入居待ちの状態であり病床が空いている状況にあるにもかかわらず常勤職員が不足しているため入居させられない状態が続いている施設があることを伝えています。

 ここで少し、介護保険施設に関しておさらいをすると、介護保険施設とは介護保険サービスで利用できる公的な施設のことをいい、介護老人福祉施設特別養護老人ホーム)②介護老人保健施設老健)③介護療養型医療施設(療養病床)3種類がありますが、なかでも①介護老人福祉施設特別養護老人ホーム)は、入所費用が少なくて済むことから、もっとも人気がある施設で、そのため、何年間も入所を待つケースも珍しくないとされています。(安心介護のサイトページより)https://ansinkaigo.jp/knowledge/245

介護老人福祉施設 - Wikipediaより抜粋】

介護老人福祉施設(かいごろうじんふくししせつ)とは、介護保険法に基づいて介護保険が適⽤される介護サービスを⼿掛ける施設である。これら の施設は⽼⼈福祉法第 11 条に基づく市町村によ る入所措置の対象施設となっており、その⽂脈では特別養護老人ホーム(通称:特養)と呼ばれる。基本的に、要介護 3 から 5 のいずれかの要介護認定を受けている⼈が対象となる。これら施設⼊所者の 97.2% は認知症を持っており、さらに 61.7% は寝たきり状態である。平均在所⽇数は1405.1⽇であった(2013年)。 慢性的に供給不⾜となっており、2014年では⼊所申込者(待機者)は52.4万⼈、うち要介護4-5は 8.7万⼈であった。

 上記のように、特別養護老人ホームに関しては、新聞やテレビの特集でも入所待ちがよく話題になりますが、今のままでは、40年度には更に拍車がかかる勢いということが懸念されます。場合によっては、現在の入所条件がさらに厳しくなることも考えておいた方がよいかもしれませんね。或いは入所に篩いをかけるため費用アップなんていうことになれば、普通のサラリーマンが定年退職後の終焉の住処についても、時代の流れとともに現在の核家族化が見直されていくかもしれません。そうなれば、少子化の影響も手伝って子供が1〜2人の世帯が多い現在においては、介護の負担を配偶者である妻ばかりに負わせることもできないでしょう*1から、介護をしながら仕事を続けていくことが今以上に困難になってくることも予想されます。以上の様な特養への入居待ちの状態や介護職員の不足の問題、更に、費用負担の問題について国としてはどのような対策を考えているのでしょうか?その中の費用負担増に関してですが、新聞記事の中で次のようなことを伝えています。

負担増の議論が実質的に封印されている中、厚労省対策として打ち出すのは、健康上問題なく日常生活を過ごせる健康寿命延伸だ。平均寿命との差を縮められれば医療や介護を必要とする期間が短くなるとの算段からだ。現在の健康寿命男性72.14歳女性74.79歳で、厚労省は40年度までにそれぞれ3歳延ばすことを目指す。

さて、記事の中で記者が、どれだけ社会保障給付費の抑制に役立つか未知数と述べているような疑問を呈したくなるような結果が出ている政府の統計があります。

 平成29年版高齢社会白書内閣府は、健康寿命について次のように述べています。

健康寿命が延びているが、平均寿命に比べて延びが小さい)

日常生活に制限のない期間(健康寿命)は、平成25(2013)年時点で男性が71.19年、女性が74.21年となっており、それぞれ13(2001)年と比べて延びている。しかし、13(2001)年から25(2013)年までの健康寿命の延び(男性1.79年、女性1.56年)は、同期間における平均寿命の延び(男性2.14年、女性1.68年)と比べて小さい(図1-2-3-3)。

 å³1ï¼2ï¼3ï¼3ãå¥åº·å¯¿å½ã¨å¹³å寿å½ã®æ¨ç§»

 以上のように、平成13(2001)年〜平成25(2013)年までの12年間の健康寿命の延び(男性1.79年、女性1.56年)からすると、単純計算では今後20年で3歳延ばせることになるのでしょうが、平均寿命の伸びを伴っていることを見逃してはいけないでしょう。何か特別な対策でもあるのかと問題提起したくなってしまいます。

更に、平成29年度版の同白書には見出しがなかったため、平成28年度版を引用していますが、認知症については次のようなショッキングなことが述べられていました。

(平成37(2025)年には65歳以上の認知症患者数が約700万人に増加)

65歳以上の高齢者の認知症患者数と有病率の将来推計についてみると、平成24(2012)年は認知症患者数462万人と、65歳以上の高齢者の7人に1人(有病率15.0%)であったが、37(2025)年には約700万人、5人に1人になると見込まれている(図1-2-3-3)(平成29年版高齢社会白書も同内容)

 å³1ï¼2ï¼3ï¼3ã65歳以ä¸ã®èªç¥çæ£èæ°ã¨æççã®å°æ¥æ¨è¨

 5人に1人ですよ!言葉は悪いですが、下手すると日本は「ぼけ老人」ばかりになってしまうということですよ。少子化の現在においてそのような状態になってしまった時に、誰が面倒見てくれるのでしょうね。

「お金!」*2と答えた方は、銀行と良い付き合いができます。(笑)

 さて、ではそのお金についての意識はどうなっているのでしょうか?

同白書による意識調査によると、次のような結果となっています。

介護が必要になった場合の費用負担について、内閣府の調査で60歳以上の人に尋ねたところ、「特に用意しなくても年金等の収入でまかなうことができると思う」42.3%、「貯蓄だけでは足りないが、自宅などの不動産を担保にお金を借りてまかなうことになると思う」が7.7%、「資産の売却等でまかなうことになると思う」が7.4%、「子どもからの経済的な援助を受けることになると思う」9.9%「その場合に必要なだけの貯蓄は用意していると思う」20.3%となっている(図1-2-3-9)。

 å³1ï¼2ï¼3ï¼9ãä»è­·ãå¿è¦ã«ãªã£ãå ´åã®è²»ç¨è² æã«é¢ããæè­

 予想通り、年金と預金で賄えると思っている人が大多数ですね。特に年金を頼りにしている人が多いということもわかります。そのように考えると、年金の悪口を言う人たちもいますが、今後我が国での老後の生活において年金の果たす役割はますます重要になってくるものと思われます。(銀行員であった一昔前であれば、将来のための預金を呼びかけ、良い仕事をした仕事帰りに美味しい生ビールでも飲みに行きたくなるような話です。)

5人に1人となると、もはや他人事ではないような気もしていますが、認知症になった時に若いときから貯蓄に励んできた資産や在宅介護の希望などの本人の意向はどう担保したらよいでしょう。大半の方は、妻と子供の家族をお持ちでしょうから元気なうちから「自分が呆けた場合はこうしてほしい」とお話ししていると思いますが、現在は任意後見制度*3を利用している人が増えてきていると言われていますので、元気なうちにそういった制度でいざという時の備えをしておくのも一考に値すると思います。ただし、任意後見人の事務内容は、任意後見契約に定められた内容によって決まりますが、代理権付与の対象となる事務である以上法律行為に限られ介護サービスなどの事実行為は含まれないこととされていますので、そのことは頭に入れておくべきでしょう。

【図解による 民法のしくみ 改訂5版 弁護士 神田将(著)自由国民社

従来より、要介護の高齢者のほぼ半数は認知症の影響が認められるにもかかわらず、認知症高齢者へのケアはいまだ発展途上で、ケアの標準化、方法論の確立がなされていないのが現状で 、 介護サービスに関しては、利用者に対て介護サービス事業者を選択するために必要な情報が十分に提供されておら ず、また、提供さ れるサービスに関する苦情が増加していたという事情があり、介護サービスに従事する者の質の向上人材の育成を図る必要があり 、劣悪、悪質な事業者は介護サービス市場から排除されなければならないという課題があり、そういった 以上のような課題に対応するために介護制度の改正が行われてきているとされています。 (KINZAIファイナンシャルプラン 2005 年6月号コラム:社会保険労務士 井戸美枝)

以上のような課題に対して、現場サイドの状況と人手不足に対する国の施策について、上述の新聞記事では次のように伝えています。

現場からは「今でも外国の人材に頼らざるを得ない」との声が上がる。政府は移民政策をとらない姿勢を崩していないが、一方で在留資格*4として新たに「介護」を加え、外国人技能実習生の対象分野に「介護」を設けるなど、実質的に外国人を現場の担い手とする施策に本腰を入れ始めている

 

東洋大の高野龍昭(高齢者福祉)准教授の話

生産年齢人口が大幅に減る2040年には、負担の大半を若年層に依存する現行制度では全く立ち行かなくなる。医療や介護の担い手不足も避けられない。高齢者の活用だけでは足りず、外国人労働者の受け入れを正面から議論することが必要だ。処遇や質の確保など制度は注意深く作らないといけないが、今の政府の動きは遅すぎる。また、特に介護はロボット情報通信技術を積極的に活用し、少ない人手で多くの高齢者に対応できるようにしなければならない。 家事・買い物支援などはボランティアや一般企業のサービスを活用し、専門職は認知症など高度な技能が求められる仕事に集中していかざるを得ない。

前述した白書によれば、施設定員数も介護要員も増加傾向を示していますが、依然として介護職員は不足しており、有効求人倍率は全産業に比べ高水準を示していおり、平成28年(2016年)の介護分野の有効求人倍率3.02倍となっていて全産業の有効求人倍率(1.36倍)の約2.2倍になっているということです。従って、現状で施設定員数だけをじゃんじゃん増やしても介護要員が追い付かない状況なので有効な対策となりえないということです。

 今後将来的に医療技術は進歩していくことでしょう。一説によればクローン技術の医療への応用は物凄い可能性を秘めているそうです。若い健康な時に自分の細胞を保存しておき、その若い細胞により自分に適合する臓器のクローンを作れば、拒否反応は全く出ずに、疲弊した臓器を若返らすことも夢ではないそうです。そうなると、人の寿命は150年くらいまで伸びるかもしれませんよね。(西鋭夫のフーバーレポート【ダイレクトアカデミー】より)

その時前述した「お金」がものをいうのでしょうか?

それとも今後「お金」というのはあまり意味のない存在になっていくのでしょうか?

将来「お金」の意味がどのようなものになっていくかはさておき、現在は「お金」が我々の生存にとって貴重な意味を持っていることに違いはありません。「お金」がかかる話をしすぎると少子化が進んでしまいそうな罪悪感にとらわれてしまうのも、子育てには「お金」がかかるからであり、我々はその「お金」の節約による高齢期における少子化のツケを払わされていると考えると何とも皮肉な話であるように思えてなりません。白書によれば、「治る見込みがない病気になった場合、最期はどこで迎えたいか」について、「自宅」54.6%で最も多く、次いで「病院などの医療施設」27.7%となっているという結果が伝えられているにもかかわらず・・・前述のお金に関する同白書の意識調査では、「子どもからの経済的な援助を受けることになると思う」がたった?10%たらずということです。

私の以前の恩師の信条は、「人間は裏切っても金は裏切らない」でした、。(笑)

我々は社会で生きていて確かにそのような場面に出くわしたりすることがありますが、結局は最後に頼りになるのは人間だと思いたいものです。

それでも長生きすればするほど高齢化していくと信頼できる人間達は少しづつ自分の周囲から減っていき最後は「お金」だけが頼りになるという状況は理解できない訳ではないのですが・・・

しかし、人間よりもお金で買ったアンドロイドの方が、よっぽど人間味あふれていたりすることを想像する高齢者をみると、その人間味を作り出しロボットに入力作業を行ったのは誰なんでしょうね!と聞きたい気持ちになります。

 「さて、あなたは自分を助けてくれる人たちを裏切らないために、何をしますか? 」

皆さんにいってるのではありません。私はたまに上記のような質問をされることがあります。「何を望んでるんでしょう? マンション? 高級車?  エルメスのバック? どれもお金がないとできないですね(笑顔)

殆どの社会人の人達が、自分を含め、自分の家族を幸せにするために懸命に働いているでしょう。家族との団らんや少しでも家族に良い生活をさせたいという思いです。或いは、家族には「お金に対して惨めな思いだけはさせたくない」という思いです。

話を介護に戻すと、

厚生労働省平成26年版 労働経済の分析」によれば、家族の介護・看護を理由とする離職者は、55~64歳層を中心とする比較的高齢の層が多くなっており、離職期間が2年以上の割合が高くなっているそうです。同白書は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「仕事と介護の両立支援に関する調査」 (2012年度厚生労働省委託事業)の調査に結果に基づき、40歳台及び50歳台が介護等を機に仕事を辞めた場合、経済面に加えて、精神面や肉体面でも負担が増したと回答する割合が高くなっていることを伝えており、介護離職経験者にかんしては、転職経験者も未就業者も介護を理由に離職した理由について時間的制約が高い割合を示しています。以上の様な介護就業者の負担を職場での仕事と介護の両立支援に関する取組によって軽減させていくことは今後の高齢化社会において、介護者を家族に抱える労働者の継続就業を考えていくうえで避けて通ることのできない重要な課題となってきています。*5

さらに、同白書は、総務省統計局「平成24年就業構造基本調査」により介護をしている有業者のうち、就業休止希望者(「この仕事を今後も続けますか」との質問に「仕事をすっかりやめてしまいたい」と回 答した者)が有業者全体に占める割合は6.2%となっており、この割合は介護をしていない有業者(3.9%)よりも高くなっているものの、介護休業制度等を利用することにより、男女ともにその割合は低下していること*6、在職者が仕事と介護の両立のために必要と考える勤務先による支援(複数回答)として、「出社・退社時刻を自分の都合で変えられる仕組み」「残業をなくす/減らす仕組み」など、労働時間の面での支援ニーズが高くなっていることを伝えています。

以上の内容からすると、売り手市場で新卒者獲得競争が激しさを増している昨今においては、大手はもとより中小企業においては特に、育児や介護と仕事の両立支援が整備されていることをしっかりとアピールできることも、自社にとって有能な人材を確保するための有効なアトラクトとなると思われます。

そんな中にあり、「団塊の世代」が60歳台後半に入り、公的年金の支給開始年齢が引き上げられている中で、 企業の高年齢者雇用確保措置の導入は進展しているとされています。*7

高齢者の継続就業に関する意識の動向に関して、「生涯現役」を希望しているという興味深いことが書いてありました。

なぜ、生涯現役なのでしょうね。「お金」でしょうか?

勿論経済的理由も入っていましたが、「お金」回答する割合は、2000年代に年齢階級計では5割程度で推移しているものの、高齢になるほど低下する傾向にあるそうです。一方、「生きがいをみつけるために働く」回答する割合は、 年齢階級計では2割前後で推移しているが、65~69歳及び70歳以上ではほぼ3割台で推移しているそうです。

「最後の逃げ切り世代」と言われる団塊の世代の意識はどうでしょうか?

猛烈社員の仕事・しごと・シゴトのイメージの強い世代ですが・・・

内閣府団塊の世代の意識に関する調査」(2012年)により、団塊の世代が働く理由(三つまで回答)をみると、60歳時点、調査時点ともに「生活費を得るため」が最も多いが、現在仕事をしている理由としては、このほかに「生活費の不足を補うため」「健康維持のため」「将来に備えて蓄えを増やすため」「自由に使えるお金が欲しいため」「生きがいがほしいため」などの多様な回答の割合が高い。団塊の世代は、働き続けるメリットとしてこのようなものを意識していると考えられる。(略)

団塊の世代が働くうえで重視していることをみると、「体力的に無理なく続けられる仕事」「自分のペースで進められる仕事」に次いで「自分の能力を発揮できること」があげられている。高齢者が自分のペースで仕事を 進められるなど、体力的に無理なく続けられ、能力や経験を発揮できるような就労環境を整備 することがますます重要となっている。*8

一方で、若年層の就業意識に関してはどうでしょうか?

企業生き残り10年の時代なんで言われて久しい昨今、今から社会に出ていく若者たちに関しては、老後を迎えるまでの長期社会人生活の中にあって我が国においても1度や2度の転職・企業再編は考えておかなければならない時代になってきたのかもしれません。

そんな中にあって、仕事を変わっても通用する技術や専門知識を身に着けておきたいと志向する人たちも増えてきていると言われています。企業を選ぶ際の基準も仕事を通じて自分のスキルや技術を高められるという項目が顕著になってきていると言われていますよね。今回とりあげた「労働経済の分析」(労働経済白書)でも、専門的知識や技術の持った人の不本意正規雇用からの正規雇用への成功率の高さが示されていました。

平成29年度の「労働経済の分析」AIの雇用に与える影響について書かれていました。AIの活用により今後産業界での様々なイノベーションが期待されており、その考えられる役割・機能の中には「不足している労働力を補完する」というものも挙げられていました。AIの進展は、人の雇用を代替するものとしてネガティブに語られることが多いという理由から、経済産業省の新産業構造ビジョン中間整理の中で行われた「産業構造・就業構造試算」による分析結果を伝えています。

その分析結果によると、我が国の2030年における労働力人口、就業者、製造業の就業者、非製造業の就業者の増減状況について、就業者は約161万人減少しているものの、働き手の数を示す労働力人口はそれ以上に減少しており、単純に試算すると、2030年までにAIの進展を含めた第四次産業革命に対応したとしても失業者は増加せずむしろ約64万人労働力が不足する状況にあることが分かるとしています。特に自動化などにより AIの利用が進む製造業と比較して、人の対応が求められ、AIの利用だけでは対応できないサー ビス業を中心に就業者が増加することが示唆されるとしており、増加する職種の中にホームヘルパー、介護職員があげられています。*9

これらの職種について、スキル別の職業分類も用いつつ、「技術が必要な職種」「人間的な付加価値を求められる職種」「その他、定型的業務が中心の職種等」に分けてその傾向を確認すると、今後増加が予想される「技術が必要な職種」「人間的な付加価値を求められる職種」適応できる能力を労働者は今後身につけていくことが求められるとしています。

今回は、朝日新聞で取り上げられていた社会保障費の今後の増加見込みの記事をきっかけとして、「仕事」と「お金」の関係をまじえながら、私達国民のディーセントワーク(人間らしく仕事をする)の可能性に必要となる情報の一部を探ってみました。

最後に、平成26年度版「労働経済の分析」の「むすび」を引用して今回のテーマを終わりたいと思います。

【企業パフォーマンスの向上と中核的人材の育成に向けた人材マネジメントの課題】

人材マネジメントの目的は、長期的な企業の競争力を維持・強化していくために、人員配置・教育訓練等の雇用管理、就業条件管理や報酬管理を通じて、人材の働く意欲を喚起し、その能力を最大限発揮させることにあるそのためにも、人材を適材適所で活用し、職場内外での教育訓練によって人的資本の蓄積を図り、労働者の働く意欲を引き出すマネジメントの仕組みが重要である。

さらに、経営戦略を理解し、具体的な計画を策定、行動に移すことができ、また自らが職業生涯を通じて獲得してきた知識・経験・スキルを後進に伝えることができる、企業成長の要となる中核的人材の育成に向けた、戦略的なキャリア設計が企業には求められる。

労働者の就労意欲が高い企業の特徴として、正規雇用労働者・非正規雇用労働者を問わず、 広範な雇用管理に取り組むとともに、人材育成に対しても積極的に取り組んでいることが分かった。こうした企業においては、労働者の定着率や労働生産性、さらに売上高経常利益率も高い傾向にある。さらに、企業の要となる人材として管理職層に着目すると、仕事を通じた経験が管理職層に必要とされる能力を高めていくプロセスが確認された。

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*1:主に家族(とりわけ女性)が介護者となっており、「老老介護」も相当数存在:要介護者等からみた主な介護者の続柄をみると、6割以上が同居している人が主な介護者となっている。その主な内訳をみると、配偶者が26.2%、子が21.8%、子の配偶者が11.2%となっている。また、性別については、男性が31.3%、女性が68.7%と女性が多くなっている要介護者等と同居している主な介護者の年齢についてみると、男性では69.0%、女性では68.5%が60歳以上であり、いわゆる老老介護のケースも相当数存在していることがわかる。介護や看護の理由により離職する人は女性が多い:家族の介護や看護を理由とした離職者数は平成23(2011)年10月から24(2012)年9月の1年間で101.1千人であった。とりわけ、女性の離職者数は81.2千人で、全体の80.3%を占めている【平成29年版高齢社会白書内閣府)】

*2:医療・介護の保険料推計(平均値)【朝日新聞より】:医療保険の分野:協会けんぽ)2018年度10.0%から40年度11.5〜11.8%健康保険組合同9.2から同10.9〜11.2%国民健康保険同7400円から同8200円〜8400円後期高齢者医療制度同5800円から同8000円〜8200円 介護保険の分野:(65歳以上)同5900円から9200円(40歳〜64歳:協会けんぽ、組合)同1.52〜1.57%から同2.6%(40歳〜64歳:国民健康保険同2800円から同4400円

*3:任意後見契約とは、委任者が受任者に対して、精神上の障害により事理弁識能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部または一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約で任意後見登記が必要であり、「任意後見監督人」が選任されたときから効力が生ずる定めのあるものを言い、この契約は公正証書によることが必要な要式契約とされている。また、その場合の事理弁識能力は、少なくとも補助の要件に該当する程度と解されている。【図解による 民法のしくみ 改訂5版 弁護士 神田将(著)自由国民社

*4:在留資格の取得とは,日本国籍の離脱や出生その他の事由により入管法出入国管理及び難民認定法)に定める上陸の手続を経ることなく我が国に在留することとなる外国人が,その事由が生じた日から引き続き60日を超えて我が国に在留しようとする場合に必要とされる在留の許可です。在留資格の種類により、国内で活動できる範囲や在留期間に相違があり、例えば、観光目的の短期滞在の在留資格収入を伴う音楽,美術,文学その他の芸術上の活動なども行うことはできません。60日を超えて在留しようとする場合には,当該事由の生じた日から30日以内に在留資格の取得を申請しなければなりません。

*5:厚生労働省平成24年度雇用均等基本調査」によると、介護休業制度の規定があ る事業所割合は、育児休業制度と同様に一貫して上昇しており、事業所規模5人以上では 65.6%、30人以上では89.5%となった。また、介護のための勤務時間短縮等の措置の導入状況をみると、短時間勤務制度(53.9%)、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(29.2%)、介護の場合に利用できるフレックスタイム制(10.7%)、介護に要する経費の援助措置(3.4%) の順で多くなっており、いずれの措置も平成20年度(それぞれ39.9%、20.7%、6.4%、 1.8%)と比較して導入割合が上昇している。厚生労働省平成26年版 労働経済の分析」より

*6:ここでは介護をしている有業者と介護をしていない有業者とを比較しているが、就業休止を希望する理由として、仕事と介護の両立が 困難であること以外の要因があり得ることに留意する必要がある。厚生労働省平成26年版 労働経済の分析」より

*7:60歳台の労働力率の推移をみると、60~64歳層では高年齢者雇用確保措置の実施義務化(2006年4月施行)を反映して、2007年及び2008年に上昇し、 その後は男性は75%を上回る水準で推移している。女性は上昇傾向が続いており、2013年は 47.4%となった。65~69歳層では、60~64歳層に比べて水準は低くなるが、団塊の世代が 65歳に到達した2012年以降の上昇が特徴となっており、2013年は男性は50.7%、女性は 29.8%となった。厚生労働省平成26年版 労働経済の分析」より

*8:定年後に就業継続するためには健康であることが重要である。健康を損なうと就業継続が困難となり、一時的な休暇や休職にとどまらない就業中断につながる可能性もある。厚生労働省「平成25年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」」によると、同年度の請求件数は脳・心臓疾患で784件と高い水準となっており、精神障害においては1,409件で過去最多となっている。また、支給決定件数も高い水準で推移しており、脳・心臓疾患は306件、精神障害は436件となっている。健康を理由とする離職者の中には精神的健康(メンタルヘルス)の不調が原因となっている事例もあると考えられ、不調に陥る前に対処する必要性が高まっている。

(過去記事)

90%の高精度で判定できる適性検査 メンタルトレンドって何 - 人と組織の活かし方の研究 労務カフェ

健康状態への復帰、治療と職業生活の両立を目指す者も多く、その支援が長時間労働の抑制とともに重要な課題となっている。厚生労働省平成26年版 労働経済の分析」より

*9:増加する職種ホームヘルパー、介護職員約108万人販売従事者約47万人技術者約45万人などとなっている。一方で、減少する職種生産工程従事者約187万人事務職約79万人などとなっている。厚生労働省「平成29年版 労働経済の分析」より

コーヒーブレークQ&A 定年再雇用の事務手続き2 目指せ社労士合格

 

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前回は、定年再雇用の基づく社会保険の資格の得喪関係について手続き上の留意事項を相談事例形式に沿って説明しましたが、説明内容が若干不十分であり、誤解を招くかもしれない事項について補足説明をさせていただきます。前回記事の2.資格喪失の箇所で、「例えば、私立学校の教師や講師等が、1カ月を超えるような夏季長期休暇中の出勤義務がなく給与の支払いもその間なされないようなケースにおいては、一旦資格喪失扱いの取扱いとされる場合もあり得ます。」と書いていましたが、留意事項としての特殊なケースとして事例を載せたような不適切な内容のように思えましたので、原則論から補足説明いたします。

原則:適用事業所に使用されるものは、「その事業所に使用されなくなった日」の翌日にその被保険者資格を喪失する。

行政解釈:行政解釈によると、「その事業所に使用されなくなった」とは、使用関係がなくなることをいい、休職中で無休であっても使用関係が存続しているとみられる場合には被保険者資格は存続する昭和6年2月4日保発59号)

例えば、就業規則の規定に基づく私傷病休職、育児・介護休業法に基づく育児休業や介護休業の場合などです。

実質論:但し、使用関係がなくなったというためには雇用契約関係の喪失まで必要となるわけではないと解されいて、たとえば、休職中に雇用契約関係が存続していても、給料がまったく支給されず、名義は休職でも実質的に使用関係の消滅とみる方が妥当な場合は、被保険者資格の喪失の取り扱いが妥当とされ、(昭和25年11月2日保発75号)公務に就任しこれに専従する場合の休職は、被保険者資格を喪失させるのが妥当とされています。(昭和28年3月9日保文発619号判例・通達からみる 労働・社会保険企業年金生活保護 弁護士 河本毅(著)日本法令

 以上の補足説明を、前回記事に当てはめると、一般的に私立学校の教師とかの通常勤務者に関しては、夏季休暇等に就労義務がなく無休であるからといって被保険者資格を喪失することは原則的にはないことになりますが、任用期間が短期の非常勤講師の1カ月を超えるような夏季休暇とか、常勤の教師であっても、その休暇期間が長期に及び実態として使用従属関係を喪失したと扱う方が妥当な場合は被保険者資格を喪失した扱いとされる場合があるというのが正しい説明になります。因みに、事実上の使用関係が消滅したと認めれるほどの長期に及ぶ出張の場合は、被保険者資格を喪失する場合があり得ることでは同様です。

さて、今回は、同様の継続雇用の手続きシリーズで、次のような質問を想定した記事にしてみました。

質問:有難うございました。今回初めて定年退職者を迎えるに当たって被保険者資格の同日得喪(同日付の資格取得と資格喪失手続きのこと)の手続きができるということを知り多少なりとも当社社会保険料が軽減できることを知り嬉しく思います。前回の貴事務所の記事を参考に早速、社会保険の被保険者資格の取得と喪失の手続き準備に入りましたが、新たな労働条件の給与締め日と賞与支払いの当社規定との関係上、どのような手続きになるのか新たな疑問が生じています。当社の定年再雇用後の給与規定によれば、給与日は10日締め翌10日払いとなっていて、再雇用後初めての給与に関しては、再雇用前の給与を支給することとなっています。また、賞与に関しては、定年退職月に一旦締月分の賞与を支払うこととしています。その場合、資格取得月の資格取得時報酬に記載する報酬は、従前の報酬になるのですか?それとも、新たな労働条件に基づく給与額を記入しておけばよいのでしょうか?また、賞与に関しては、どのように考えればよいのでしょうか?

 答:今回も、実務家の方には少々物足りないかもしれませんが、基本的なことからおさらいしていきましょう。

1.保険料の算定                                                                                                                 まず、健康保険の保険料の算定についての復習ですが、保険料は被保険者資格を取得した月から被保険者資格を喪失した月の前月分までが算定されるのが原則です。

従って、月末退職の場合を除いては、退職日の属する月の分の保険料は原則として徴収されません。賞与についても同様の扱いとなります。(5月10日退職の場合資格喪失は翌日の5月11日となり、退職月分の保険料はかかりませんが、5月末退職の場合、資格喪失日は翌日の6月1日となるため、5月分の保険料が徴収されます。その場合は保険料は翌月末までに前月分を支払うこととされているため、退職月は前月の4月分と5月分の2か月分の支払いが必要となります。)

原則は上記の通りですが、資格取得月の月末でない日に会社を退職した場合は、資格喪失月ではありますが、その月を1カ月としてカウントすることとされています。(その月に更に被保険者資格を取得する場合を除く)

保険料の計算は例え月の途中の資格喪失であっても、日割り計算ではなく月を単位として計算されるため1か月分の保険料の支払いが必要となります。

社会保険の一般的な保険料の計算式は、その者の標準報酬月額及び標準賞与額に保険料率を乗じて算出されますが、健康保険法と厚生年季保険法では、その標準報酬月額の等級区分数*1、細かな保険料率の決定の仕組み(詳しくは、協会けんぽ日本年金機構等それぞれの仕組みを説明しているサイトを参照ください。)健康保険では、介護保険料額がかかる者がある*2こと、などの相違があります。

2.標準報酬月額                                                                                                                  ご存知の通り、標準報酬月額というのは、被保険者の収入を健康保険、厚生年金保険の等級区分に当てはめて決定されます。(例えば、給与収入が33万円以上35万円未満の人は、健康保険では24等級の34万円、厚生年金保険では21等級で同じく34万円となる。)

3.標準賞与額                                                                                                                     標準賞与額に関しては、健康保険も厚生年金保険も、標準報酬月額とは違い等級区分などに当てはめはなく、支払われた月の賞与額に端数がある場合は千円未満を切り捨てて決定されます。ただし、標準賞与額に関しては、それぞれ上限が定められています。

健康保険法については、年度内に支払われた賞与の額の累計額573万円(第40条第2項の規定による標準報酬月額の等級区分の改定が行われたときは、政令で定める額。)を超えることとなる場合には、当該累計額が573万円となるようその月の標準賞与額を決定し、その年度においてその月の翌月以降に受ける賞与の標準賞与額はとするという決まりがあります。〈健康保険法第45条〉

一方、厚生年金保険法の場合は、健康保険法の様な年度での累計額の上限の仕組みはないのですが、1回の上限が定められており、当該標準賞与額が150万円(第20条第2項の規定による標準報酬月額の等級区分の改定が行われたときは、政令で定める額。)を超えるときは、150万円とするという決まりがあります。厚生年金保険法第24条の4〉

事業場で賞与の支給があった場合は、5日以内賞与支払届を提出が必要とされていますが、上記①の場合、つまり、年度の累計額が573万円を超える場合でも、届出が必要とされています。(同一の事業所で支給されている場合は、機械的に標準賞与額の訂正が行われる。)また、転職や転勤など、同一年度内で複数の被保険者期間があり、標準賞与額の年度累計額が573万円を超える場合は、被保険者の申し出により事業主を通じて、標準賞与額累計申出書の提出が必要になります。【年度中の被保険者期間が継続している(資格の取得・喪失がない)場合提出の必要はありませんが、継続していない場合は、賞与が支給されるその都度提出の必要があります。】

繰返しになりますが、保険料は被保険者資格を取得した月から被保険者資格を喪失した月の前月分までが算定されるのが原則で、賞与についても同様です。従って、資格取得日以降に支給された賞与については保険料の負荷対象となる一方、資格喪失日の属する月に支給された賞与については保険料の賦課対象とはなりません。しかしながら健康保険の上限の年度累計額に含まれるため、資格喪失日の前日までに支払われる賞与額についても賞与支払届の提出は必要です。*3

4.報酬の範囲(健康保険法第3条5項、6項 厚生年金保険法第3条3項、4項)

報酬及び賞与については、健康保険法第3条第5項及び第6項*4において「労働者が、労働の対象として受けるすべてのもの」と規定されているが、その解釈と実務上の運用においては「労働の対象として経常的かつ実質的に受けるもので、被保険者の通常の生計費に充てられるすべてのものを包含するもの」とされている。 「健康保険法の解釈と運用」

 上記のように、健康保険法上の報酬とは、①労働の対償であり、②経常的かつ実質的に受けるものであり、③通常の生計費に充てられるすべてのもの とされていますので、臨時に受ける給与や3カ月を超える期間ごとに受ける給与(賞与等)は原則報酬の対象とはなりません。

しかしながら、賞与に関しては、次のような留意すべきことが通達されています。

平成27年9月18日 保保発0918第1号、年管管発0918第5号 】(抜粋)

 1 報酬の範囲                                (1)毎年七月一日現在における賃金、給料、俸給、手当又は賞与及びこれに準ずべきもので毎月支給されるもの(以下「通常の報酬」という。)以外のものの支給実態がつぎのいずれかに該当する場合は、当該賞与は報酬に該当すること。                                    

  賞与の支給が、給与規定、賃金協約等の諸規定によって年間を通じ四回以上の支給につき客観的に定められているとき。                             

  賞与の支給が七月一日前の一年間を通じ四回以上行われているとき。 したがつて、賞与の支給回数が、当該年の七月二日以降新たに年間を通じ て四回以上又は四回未満に変更された場合においても、次期標準報酬月額の定時決定(七月、八月又は九月の随時改定を含む。)による標準報酬月額が適用されるまでの間は、報酬に係る当該賞与の取扱いは変らないものであること。                          

 

(2)賞与の支給回数の算定は、次により行うこと。                 

名称は異なつても同一性質を有すると認められるもの毎に判別すること。                                

例外的に賞与が分割支給された場合は、分割分をまとめて一回として算定すること。                                   当該年に限り支給されたことが明らかな賞与については、支給回数に算入しないこと。

5.標準報酬月額の算定式                           標準報酬月額の決定方式には次のような種類があります。

①資格取得時決定(健康保険法第42条、厚生年金保険法22条)               標準報酬月額は、まず、被保険者の資格を取得した段階で決定することとされていて、「資格取得時決定」といいます。

                               

②定時決定(健康保険法第41条、厚生年金保険法21条)                  標準報酬月額は、実際の報酬月額とあまりかけ離れることのないよう、1年に1回、定期的に決定しなおすことになっており、「定時決定」といいます。

                               

③随時改定(健康保険法第43条、厚生年金保険法23条)                  標準報酬月額は、1年に1回、定時決定が行われますが、その中途に昇給などが行われ、大幅に報酬月額が変動した場合には、標準報酬月額を改定できることとされており、「随時改定」といいます。

                                    

育児休業終了時改定(健康保険法第43条2、厚生年金保険法23条2)            育児休業等を終了した被保険者が、同休業終了日において当該育児休業等に係る3歳未満の子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して保険者等に申し出たときは、育児休業等終了日の翌日から起算して2月を経過した日の属する月から標準報酬月額を改定することとしており、「育児休業終了時改定」という。*5

➄産前産後休業終了時改定(健康保険法第43条3、厚生年金保険法23条3)

産前産後休業を終了した被保険者が、産前産後休業終了日において当該産前産後休業に係る子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して保険者等に申し出たときは、産前産後休業終了日の翌日から起算して2月を経過した日の属する月から標準報酬月額を改定することとしており、「産前産後休業終了時改定」という。*6                                                   

⑥算定の特例(健康保険法第44条、厚生年金保険法24条)                     上記①②④➄の規定によって算定することが困難であるとき、又は上記①~➄の規定によって算定した額が著しく不当であると認めるときは、これらの規定にかかわらず、保険者の算定する額を当該被保険者の報酬月額とすることとされており、「保険者算定」という。*7                                                             

⑦養育期間標準報酬月額の特例厚生年金保険法26条)                    (省略)厚生年金保険の平均標準報酬額の計算の基礎となる標準報酬月額の計算の特例

 

以上、基礎的なことをざっとおさらいしてきましたが、今回の御社の定年再雇用に関しては、前回の記事でも述べたように、労働条件の変更を伴いますが、報酬比例部分の特別支給の老齢厚生年金の受給権者である被保険者であって、定年による退職後継続して雇用される者については、使用関係がいったん中断したものとみなし、事業主から被保険者資格喪失届および被保険者資格取得届を提出させる取扱いとして差し支えないこととされています。従って、原則は定年再雇用後の新給与から3カ月間の実績に基づく随時改定の必要はありませんということを述べました。

しかしながら、今回のご質問内容からは御社規定の定年年齢や定年再雇用対象者の再雇用月が不明ですのでなんともいえませんが、誕生日に定年退職する場合は各人再雇用月がバラバラとなるでしょうし、誕生日を迎える日の属する年度末ということであれば、4月1日が資格取得日になるでしょう。後者の場合ですと、随時改定は必要なくても、結局は上記「5.標準報酬月額の算定方式」②定時決定の手続きは必要になります。

ただ、3カ月を待たずに新たな報酬に基づく保険料の支払いでよいということです。

以上が原則なのですが、今回の御社のご相談内容によると、定年再雇用後の新たな労働条件についても考慮する必要があります。

御社ご相談の定年再雇用規定によると、給与日は10日締め翌10日払いとなっていて、再雇用後初めての給与に関しては、再雇用前の給与を支給することになっていて、賞与に関しては、定年退職月に一旦締月分の賞与を支払うこととしているということでした。

御社もご存知の通り、定年再雇用の手続きでも用いる資格取得届には、取得時報酬を記入する必要があります。ここで問題となるのが、御社の場合は、再雇用後最初の給与締め日には締め日前の従前の給与を支給するということで、従前の金額を記入すべきなのか、それとも新たな資格取得の届出である以上、再雇用後の35%減の給与を記入すれば良いのかという疑問が生じることです。

ここで一旦、資格取得時の報酬の決め方の原則ルールを確認しましょう。

〈健康保険法第42条、厚生年金保険法第22条〉

 保険者等は、被保険者の資格を取得した者があるときは、次に掲げる額を報酬月額として、標準報酬月額を決定する。
 月、週その他一定期間によって報酬が定められる場合には、被保険者の資格を取得した日の現在の報酬の額をその期間の総日数で除して得た額30倍に相当する額
 日、時間、出来高又は請負によって報酬が定められる場合には、被保険者の資格を取得した月前一月間に当該事業所で、同様の業務に従事し、かつ同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額
 前二号の規定によって算定することが困難であるものについては、被保険者の資格を取得した月前1月間に、その地方で、同様の業務に従事し、かつ同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額
 前三号のうち2以上に該当する報酬を受ける場合には、それぞれについて、前三号の規定によって算定した額の合算額

(1) さて、今回の御社の定年再雇用後の雇用形態が不明ですが、通常の完全月給者であると仮定すると、上記により決定することになります。青ゴシックにもあるように、通常の完全月給者の資格取得時報酬は、資格を取得した日の現在の報酬の額を、その期間の総日数で除して得た額の30倍に相当する額ですので、御社の給与締め日と支払日の関係上、資格を取得した日の現在の報酬の額はあくまで、従前の退職前の報酬額ということになりますので、その金額を資格取得届の取得時報酬の欄に記入する必要があります。

 

(2)ただし、御社の定年再雇用契約の内容で、雇用形態が複数存在し、給与規定の内容も、給与計算期間中に定年再雇用日を境に従前の報酬額と新たな報酬額とを日割りで計算する者がいる場合は、上記が適用され、事業所に同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者がすでにいる場合新たな報酬額 で決定することになります。

しかし、御社は今回初めて定年退職者を迎えるということですので、その場合、の規定によって算定することが困難である場合上記が適用されることになります。従って、被保険者の資格を取得した月前1月間に、その地方で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額で決定することになり、その金額を資格取得届の取得時報酬の欄に記入する必要がありますが、そのような雇用形態の従業員がいなければ、上記(1)のケースだけ考えれば問題ないということです。

以上により決定した資格取得時報酬を基に、再雇用対象者の標準報酬月額が決定されることになり、その者の資格取得日が1月1日〜5月31日の場合は、資格取得した月からその年の8月まで、その者の資格取得日が6月1日〜12月31日の場合は、翌年の8月までの各月の標準報酬月額となりますが、上記期間内に随時改定等に該当する場合は、その改定月の前月までとなります。

非常に残念ですが、社長さんが折角喜んでいた3カ月の実績に基づく随時改定を待たずに当初から安い保険料が適用になるケースには該当しないということになります。

対象者の定年再雇用による資格取得日が1月1日〜5月31日の場合は、その年の定時決定の対象となりますが、3月1日以降の取得の場合は、随時改定が7月以降の予定者となるため定時決定の対象外となります。(実際の給与支給日が翌月である例であるため)

次に、御社の退職時の賞与についてですが、先述した通り、資格取得日以降に支給された賞与については保険料の負荷対象となる一方、資格喪失日の属する月に支給された賞与については保険料の賦課対象とはなりません。しかしながら健康保険の上限の年度累計額に含まれるため、資格喪失日の前日までに支払われる賞与額についても賞与支払届の提出は必要です。また、御社の今回のケースは定年再雇用で、同一年度内で複数の被保険者期間がある場合に該当しますので、再雇用後に支給される賞与により、標準賞与額の年度累計額が573万円超える場合は、被保険者の申し出により事業主を通じて、標準賞与額累計申出書提出が必要になります。

因みに、被保険者期間中の労働の対償として支給予定の200万円の賞与を、資格喪失の月に150万円、再雇用後の一定支給日に50万円と分割支給する場合はどうなるのでしょうか?

上述したように健康保険法の場合は、資格喪失月であっても被保険者期間中に支払われる賞与に基づき決定される標準賞与額は、年度の累計額に算入することとされていますので、200万円に対して保険料の賦課がかかります。しかし、一方で厚生年金保険法にはそのような年度累計の規定(通達)がなく、再取得後に支給された賞与をもとに標準賞与額を決定することになります。従って、厚生年金保険法では、資格喪失月の150万円には保険料の賦課はなく、再雇用後に支給された50万円に対してのみ保険料の賦課がかかります。

今回の手続きのテーマは、以上で終了です。

今後、手続きテーマについては、読者の方々の反応により、継続の可否を決定しようと思いますので、次回の具体的内容は未定です。

 

 【参考図書】
・TAC ナンバーワン 社労士必修テキスト
社会保険の実務相談 全国社会保険労務士連合会(編) 中央経済社

社会保険の事務手続き 社会保険研究所(編)

・【裁判例・通達からみる 労働・社会保険企業年金生活保護 弁護士 河本毅(著)日本法令

 

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*1:健康保険第1級5万8千円〜第50級139万円(施行日:平成29年4月1日)、厚生年金保険第1級8万8千円〜第31級62万円(施行日:平成30年4月1日): 健康保険法第40条2 毎年3月31日における標準報酬月額等級の最高等級に該当する被保険者数の被保険者総数に占める割合が100分の1.5を超える場合において、その状態が継続すると認められるときは、その年の9月1日から、政令で、当該最高等級の上に更に等級を加える標準報酬月額の等級区分の改定を行うことができる。ただし、その年の3月31日において、改定後の標準報酬月額等級の最高等級に該当する被保険者数の同日における被保険者総数に占める割合が百分の0.5を下回ってはならない:厚生年金保険法第20条2 毎年3月31日における全被保険者の標準報酬月額を平均した額の100分の200百に相当する額が標準報酬月額等級の最高等級の標準報酬月額を超える場合において、その状態が継続すると認められるときは、その年の9月1日から、健康保険法(大正11年法律第70号)第四40条第1項に規定する標準報酬月額の等級区分を参酌して、政令で、当該最高等級の上に更に等級を加える標準報酬月額の等級区分の改定を行うことができる。

*2: 介護保険第2号被保険者の場合保険料額一般保険料額【(標準報酬月額+標準賞与額)×一般保険料率】+介護保険料額【(標準報酬月額+標準賞与額)×介護保険料率】 介護保険第2号被保険者以外の被保険者保険料額一般保険料額【(標準報酬月額+標準賞与額)×一般保険料率】〈健康保険法第156条1項〉
※健康保険の一般保険料は、基本保険料特定保険料を合算したものであるが、特定保険料は、高齢者医療を支えるために使われる費用に充てるための保険料であり、基本保険料はそれ以外の健康保険事業に要する費用に充てるための保険料である。一般保険料率は協会管掌も組合管掌も1000分の30〜1000分の130の範囲内で決定される。

*3:資格取得・喪失の同一月の賞与については、保険料賦課の対象となる。また、産前産後休業・育児休業等を開始した日の属する月から終了する日の翌日が属する月の前月までについては、事業主が申し出ることにより保険料の賦課が免除されます。賞与支払届や標準賞与額累計申出書の提出は必要。

*4:健康保険法第3条5 この法律において「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない同条6 この法律において「賞与」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもののうち、三月を超える期間ごとに受けるものをいう

*5:ただし、育児休業等終了日の翌日に次条第1項に規定する産前産後休業を開始している被保険者は、この限りではない。

*6:ただし、産前産後休業終了日の翌日育児休業等を開始している被保険者は、この限りでない。

*7:保険者が健康保険組合であるときは、同項の算定方法は、規約で定めなければならない健康保険法第44条第2項

コーヒーブレークQ&A 定年再雇用の事務手続き 資格喪失?

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今回は、前回の記事の定年後の継続雇用に関連する手続きについての相談を想定しての記事にしました。実務家の方は、「何を今更」 とお思いかもしれませんが、事業者の方の中には、初めて定年を迎える方もいらっしゃるかもしれませんので、今回記事として取り上げることにしました。

質問. 当社は、創業して20年目を迎える中小企業です。今回初めて、60歳定年を迎える従業員が出てきます。先日、お宅様の事務所の継続雇用についての記事を見ていて、当社でも65歳までの安定した雇用の確保措置として、継続雇用制度の中の再雇用制度を導入することに決定しました。定年再雇用後の労働条件につていは、事業主の合理的な裁量の範囲の条件で相違させたいと思っており、先日、当社唯一の組合と協議手続きに入りました。現在、正社員との職務の内容や当該職務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲の相違に伴う合理的な賃金格差として、定年前の35%減で歩み寄りを図っていて合意できそうです。当社は今まで定年退職者がいなかったため、質問するのが非常にお恥ずかしいのですが、その場合、やはり月額変更届の手続きを踏まないと、社会保険料はそれまでは従前と同じ金額を支払わなければなりませんか?

答. まずは、社会保険ついての資格の得喪についての原則的な考えについて、おさらいしましょう。 社会保険に関しての資格の得喪については、厚生年金も健康保険も適用事業所での常用的使用関係に基づき判断されます。

1.資格取得
適用事業所での事実上の使用関係が生じたことをいい、法律上の雇用契約関係がなくても事実上の使用関係が認められれば被保険者となります。ここでいう、事実上の使用関係とは、適用事業所で働き報酬を受けている関係が常態であることをいい、以上の関係が実態として認められれば、得ている報酬の多寡、国籍を問わず被保険者となり、資格所得の届出をしなければなりません。被保険者該当性の判断基準である常用的雇用関係とは、就労者の労働日数、労働時間、就労形態、職務内容等を総合的に勘案し、個別具体的事例に即して判断されます。具体的に常用使用関係の確認が行われる際には、労務が提供されていること ②その労務の提供に対して報酬が支払われていること ③実際に支配従属関係にあることの以上3要件が常態であることの確認が行われ判断されることとなります。従って、臨時社員という社内区分の名称を有していても、上述の3要件を勘案し、使用関係の実態が常用的と認められれば、最初から一般の被保険者扱いすべきであり、採用内定者について、4月1日採用とされていても、名目的に辞令書が交付されているにすぎず、実際の就労とその対価の賃金の支払関係が1か月後である5月1日からであれば、5月1日が資格取得日になります。

【資格取得日】*1
①適用事業所(強制適用事業所又は任意適用事業所)に使用されるに至った日
②使用される事業所が適用事業所となった日
③適用除外に該当しなくなった日 
(※法が定める適用除外者を除く)

2.資格喪失厚生年金保険法第14条、健康保険法第36条)

被保険者と事業主との間の事実上の使用関係が消滅したことをいい、法律上の使用関係がなくなった時のことを言うのではありません。厚生年金も、健康保険も適用事業所に使用されなくなった時には、その翌日に資格を喪失しますが、資格喪失の効力は、厚生労働大臣の確認によって生じます。そしてこの厚生労働大臣の資格確認の権限に係る事務は、日本年金機構に行わせるものとさそれています。厚生年金保険法及び健康保険法が、「その事業所に使用されなくなったとき」を被保険者の資格喪失事由としたのは、その保険料については、被保険者及び被保険者を使用する事業主がそれぞれ保険料の半額を負担するが、保険者に対する保険料の納付義務は、被保険者の負担すべき保険料についても事業主が負担義務を負い(厚生年金保険法第82条1項、2項、健康保険法第161条1項、2項)*2、事業主は、被保険者の負担すべき保険料を被保険者に対して支払う報酬から控除することができることとされていて(厚生年金保険法第84条、健康保険法第167条)*3事業主と被保険者との使用関係が事実上消滅すれば、事業主から被保険者に対する報酬が支払われなくなり、その結果、事業主が被保険者の負担すべき保険料を納付することができなくなるからであるとされています。【被保険者資格確認処分取消請求事件(福岡地方裁判所平成25年9月18日判決)】従って、例えば、私立学校の教師や講師等が、1カ月を超えるような夏季長期休暇中の出勤義務がなく給与の支払いもその間なされないようなケースにおいては、一旦資格喪失扱いの取扱いとされる場合もあり得ます。

【資格喪失日】原則次に掲げる事実のあった日の翌日、下記➄⑧⑨の場合は、その日

①死亡(共通)
②その事業所又は船舶に使用されなくなった(厚年)
③任適用事業所の適用取消の認可があった(厚年)
④適用除外の規定に該当(厚年)
➄70歳到達(厚年)
⑥任意継続被保険者となった日から起算して2年を経過(健保)
⑦保険料(初めて納付すべき保険料を除く)を納付期日までに納付しなかった(健保)
⑧一般被保険者または船員保険の被保険者となった(健保)
後期高齢者医療の被保険者となった(健保)

3.短時間正社員*4の取扱い
短時間正社員の資格取得の取り扱いについては、当該事業所の就業規則等における短時間正社員の位置付けを踏まえつつ、労働契約の期間や給与等の基準等の就労形態、職務内容等を基に判断されます。具体的には、次の要件を満たすと被保険者となります。

①労働契約、就業規則、及び給与規定等に短時間正社員に係る規定がある

期間の定めのない労働契約が締結されている。

給与規定等における、時間当たりの基本給及び賞与、退職金等の算定方法等同一事業所に雇用される同種フルタイムの正規型の労働者と同等である場合であって、かつ就労実態も当該諸規定に即したものとなっている

 

4.報酬の範囲
報酬には、基本給や家族手当、住宅手当などの諸手当のほか、非課税である通勤手当や毎月支給額が一定でない残業手当など名称は何であっても労働に対する対価であれば、対象となります。(臨時に支払われる賞与等は年4回以上支給されれば対象。)

5.定年再雇用者の取り扱い
今回のご質問の回答になりますが、上述したように、

一定の事業所に使用されるものが事業主との間に事実上の使用関係が消滅したと認められる場合には、その被保険者資格を喪失する者と解されていますので、同一の事業所において雇用契約上一旦退職した者が1日の空白もなく引き続き雇用された場合は、退職金の支払いの有無又は身分関係若しくは職務内容の変更の有無にかかわらず、その者の事実上の使用関係は中断なく存続していますから、被保険者の資格も存続し、資格の得喪の手続きは要しません。しかしながら、ご質問の御社の従業員のように、報酬比例部分の特別支給の老齢厚生年金の受給権者である被保険者であって、定年による退職後継続して雇用される者については、使用関係がいったん中断したものとみなし、事業主から被保険者資格喪失届および被保険者資格取得届提出させる取扱いとして差し支えないこととされています

(平成8年4月8日保文発第269号、庁文発第1431号)
社会保険の実務相談 全国社会保険労務士連合会(編) 中央経済社より】

従って御社の場合も、再雇用後の3カ月の給与支払い実績に基づく月額変更届の手続きではなく、被保険者資格の喪失と取得の手続きが必要となります。
具体的取扱いとして、上記通知で示されている定年再雇用に当たるか否かを判断するに当たっては、定年退職前に作成されている就業規則に従前から明記されている場合の他、退職辞令の写し、事業主の証明等の定年退職後に作成されたものであって、客観的に定年再雇用であることを明らかにすることができる書類により行うとされていますので、手続きに当たっては、その客観的に定年再雇用が証明できる書類が必須となりますので、就業規則退職辞令の写し定年退職したことを証明できる書類だけでなく、雇用契約事業主の証明等再雇用されたことが証明できる書類が必要です。
また、その場合の定年再雇用とは、正社員が定年退職し嘱託などにより再雇用された場合をいうものであり、その後に再退職し再雇用される場合は該当しないとされていますので注意が必要です。
因みに、役員の場合も対象となりますが、役員の場合は、役員規定取締役会議事録株主総会議事録等役員を退任したこと及び再雇用または再任されたことがわかる書類が必要です。
尚、上記書類により、退職年月日、再雇用年月日が適正であることの確認を行うとされており、資格取得年月日が同時に提出される資格喪失届の資格喪失年月日同日であることが必要です。但し、委託社労士からの届出の場合内容確認した旨を届出書に明示(電子申請の時は、提出代行者名欄にコピー確認済みと表示)することにより省略できます。

以上で今回の記事を終了します。

 

【参考図書】
・TAC ナンバーワン 社労士必修テキスト
社会保険の実務相談 全国社会保険労務士連合会(編) 中央経済社

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*1:(資格取得の時期)厚生年金保険法 第13条 第9条の規定による被保険者は、適用事業所に使用されるに至つた日若しくはその使用される事業所が適用事業所となつた日又は前条の規定に該当しなくなつた日に、被保険者の資格を取得こうする。健康保険法第35条 被保険者(任意継続被保険者を除く。)は、適用事業所に使用されるに至った日若しくはその使用される事業所が適用事業所となった日又は第3条第1項ただし書の規定に該当しなくなった日から、被保険者の資格を取得する。

*2:(保険料の負担及び納付義務)厚生年金保険法 第82条1項 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する。2.事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う。健康保険法第161条1項 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料額の二分の一を負担する。ただし、任意継続被保険者は、その全額を負担する。2.事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う。

*3:(保険料の源泉控除)厚生年金保険法第84条,健康保険法第167条 事業主は、被保険者に対して通貨をもつて報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所又は船舶(厚年のみ)に使用されなくなつた場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。

*4:他のフルタイムの正規型の労働者と比較し、その所定労働時間の短い正規型の労働者であって、①期間の定めのない労働契約を締結している者であり、かつ②時間当たりの基本給及び賞与、退職金等の算定方法等が同一事業所に雇用される同種フルタイムの正規型の労働者と同等である者を言う

定年後再雇用(その2)何歳まで働く? 

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 今回は、退職後の継続雇用に対する問題の第2回目を取り上げたいと思います。第1回目では、2018年3月31日(土)の朝日新聞朝刊の記事をきっかけとして今回のテーマを取り上げ、高年齢者雇用安定法の概要、特に法第9条の継続雇用制度の問題について、モデル裁判例である津田電気計器事件を参考に継続雇用に係る基準を満たしている労働者に対する再雇用拒否の違法性について、高裁の解雇権濫用法理の考え、最高裁の合理的期待に対する考えについて簡単に説明させていただきました。

法は、企業の実情に応じた柔軟な措置を想定しながらも、高年齢者が年齢にかかわりなく働き続けることのできる環境を整備するという高年齢者雇用安定法の趣旨に鑑みれば、継続雇用に係る基準を満たしているにもかかわらず再雇用しないためには、客観的合理的理由を欠き社会通念上相当と認めらる必要があるとしました。

今回は、前回の記事で問題提起させていただいたもう一つの違法性の問題、企業側が新たに提示した雇用条件に、再雇用希望者が同意を拒み、結果として再雇用を拒否する結果となった場合の違法性の問題について考えてみたいと思います。

厚生労働省平成24年改正の際に出された、Q&Aは、その問題について次のような参考となる考えが示されています。

Q1-9: 本人と事業主の間で賃金と労働時間の条件が合意できず、継続雇用を拒否した場合も違反になるのですか。

A1-9: 高年齢者雇用安定法が求めているのは、継続雇用制度の導入であって、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、高年齢者雇用安定法違反となるものではありません。

 今回、企業側が新たに提示した雇用条件に、再雇用希望者が同意を拒み、結果として再雇用を拒否する結果となった場合の違法性の問題を取り上げようと思ったのは、新聞記事の事件の内容が、そのような問題に絡んだ事件であり、今後の企業実務にも影響することが予想されるとされていたからです。

新聞が伝える問題となる内容部分は次の通りです。

判決によると、原告は食品の加工・販売を手掛ける会社(北九州市)に2015年まで40年余り正社員として勤めた。60歳の定年時は経理を担当し、月給は約33万円だった。同社は、再雇用後は時給制のパート勤務とし、月給換算で定年前の25%相当まで給与を減額する条件を示したが、原告は拒んだ。

結論は前回もお伝えした通り、原告被告側双方の上告不受理により、再雇用(継続雇用)の条件として、賃金を25%相当に減らす提案をしたのは不法行為に当たるとして会社に慰謝料100万円の支払いを命じた福岡高裁の判決が確定しています。

上述のQ&Aの考えによれば、事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、法違反となるものではないということになりますので、上記事件の内容である会社が示した労働条件は事業主の合理的裁量の範囲の条件ではないと判断されたということです。

そのことについては、新聞記事が伝える判決の内容では次のように述べられています。

高裁判決は、65歳までの雇用の確保を企業に義務付けた高年齢者雇用安定法の趣旨に沿えば、定年前と再雇用後の労働条件に「不合理な相違が生じることは許されない」と指摘。同社が示した再雇用の労働条件は「生活への影響が軽視できないほどで高年法の趣旨に反し、違法」と認めた。

個人的にも、客観的に判断して退職時より75%も給与が減額となるというのは、新たな労働契約の締結に限りなく近い状態であり、継続雇用という名目すら保っていない労働条件であると思わざるを得ないですので不合理であるというのは何となく理解できます。単純に月換算で計算してよいかの問題もありますが、33万円の25%とは、いくらかと計算してみると月平均82,500円ということですから、以前からの職場で働きやすい環境というメリットを除けば、他のパートの職を探しても問題ない金額ということになります。事件の原告の女性の場合、新たに提示された職務の内容は、以前と同様経理の仕事ということですから、正社員時の仕事とは当然異なる課業ということなのでしょう。会社側としては、高年齢雇用継続給付が最大15%で約5万円支給されることになりますので、給与と併せ13万円もあれば、福岡では十分生活できると判断したのかもしれませんね。皆さん福岡は住みやすい街ですね。老後は福岡に住みましょう。

話が脱線しましたが、それでは、定年退職後の65歳までの雇用確保義務としては、勤務形態をパートタイマーとすることは事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示したことにならないのでしょうか?

前述の厚生労働省改正法Q&Aでは次のように述べています。

継続雇用後の労働条件については、高年齢者の安定した雇用を確保するという高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであれば最低賃金などの雇用に関するルールの範囲内で、フルタイム、パートタイムなどの労働時間、賃金、待遇などに関し、事業主と労働者間で決めることができます
1年ごとに雇用契約を更新する形態については、高年齢者雇用安定法の趣旨にかんがみれば、年齢のみを理由として65歳前に雇用を終了させるような制度は適当ではないと考えられます。したがって、その場合は、
[1]65歳を下回る上限年齢が設定されていないこと
[2]65歳までは、原則として契約が更新されること(ただし、能力など年齢以外を理由として契約を更新しないことは認められます。
が必要であると考えられますが、個別の事例に応じて具体的に判断されることとなります。

 従って、新聞記事の事件の場合も正社員から定年退職後の労働条件の雇用形態をパートタイム勤務としたことだけで問題とされているわけではないということになります。であれば、当然正社員とパートタイマーとの雇用形態の区分の違いに応じて労働条件を合理的に相違させることは問題ないということでもあります。もともと、定年再雇用制度とはいっても、労使対等な立場による合意の原則という労働契約の性質から言っても、裁判所が、明文の規定がないまま、労働条件を補充することは、できる限り控えるべきであると述べており(ハマキョウレックス事件 大阪高平成28年7月26日判決)、改正法は企業の実情に応じた柔軟な措置を想定しているとされています。ですから問題となるのは、法の趣旨に反したり、他の労働関係法令や公序良俗に反するような措置ということになります。

例えば、継続雇用制度において定年前後で、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲に相違がないにもかかわらず労働条件を相違させることの問題があります。

そのことに関連する問題として、最近判例が相次いでいるとされるのが、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止を定めた労働契約法第20条に関する判決です。

<労働契約法>

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」とう。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 この労働契約法20条が争われた裁判例では、定年前後での労働条件の相違が同条違反に該当するかということと、法違反とされた場合の法20条の私法的効果が問題とされています。

代表的な参考判例としては、長澤運輸事件(東京高判平成 28 年 11 月2日判決)ハマキョウレックス事件(大阪高平成28年7月26日判決)があります。(但し、ハマキュウレックス事件は、定年再雇用の問題ではなく、定年後の嘱託契約社員と正社員との労働条件の相違が問題とされている事件です。)どちらも上告審の判決を待つ状態(長澤運輸事件に関しては本年6月1日判決予定。)ですが、参考までに高裁判決の内容をとりあげます。

長澤運輸事件(東京高判平成 28 年 11 月2日判決)

 【事案の概要】
本件は、控訴人を定年退職した後に期間1年の有期労働契約(本件有期労働契約)を締結して嘱託社員として再雇用された被控訴人らが、控訴人に対し、被控訴人らと無期労働契約の正社員との間の賃金格差(本件相違)が不合理であることを理由に、主位的には、本件有期労働契約による賃金の定めが労働契約法 20 条に違反し無効であると主張して、正社員用就業規則による賃金の定めが適用される労働契約上の地位確認及び差額賃金の支払を求め、予備的には、労働契約法 20 条及び公序良俗違反による不法行為に基づき、差額賃金相当額の損害賠償を求めた事案の控訴審です。 

 【争点】 については、次の4つとされていました。
(1)本件相違は労働契約法 20 条の「期間の定めがあることにより」生じたものであるといえるか。

(2)労働契約法 20 条にいう不合理性の判断基準

(3)本件相違が不合理と認められるか否か

(4)本件相違が労働契約法 20 条または公序良俗に反し違法といえるか否か 

本件の第1審判決においては、争点(1)について、被告会社における嘱託社員の労働条件が、再雇用者採用条件によるものとして運用されているという実態、正社員就業規則及び賃金規程が一律に適用されている無期契約労働者である正社員の労働条件の相違から両者間には、賃金の定めについて、その地位の区別に基づく定型的な労働条件の相違があることが認められるから本件相違が期間の定めの有無に関連して生じたことは明らかであるとしました。そして、争点(2)では、労働契約法 20 条にいう①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一であるにもかかわらず、賃金の額について有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度にかかわらずこれを正当と解すべき特段の事情がない限り不合理であるとの評価を免れない。という判断基準を示しながらも、争点(3)以降については、被告会社における嘱託社員の労働条件が、再雇用者採用条件によるものとして運用されているという実態について、本件定年再雇用の措置を労働条件の不利益変更の法理に準じた手法を用いたともとれるような内容で、不合理性と違法性を判断しています。結論としては、労働条件の不利益変更法理における考慮要素を、「特段の事情」と定義して考察しているともとれるような内容ということですが、我が国の企業一般においての定年退職後の継続雇用の状況、被告会社における賃金圧縮の必要性、労働組合との協議の経緯、定年後再雇用者を定年前と全く同じ立場で同じ業務に従事させつつ、その賃金水準を新規採用の正社員よりも低く設定することについての労働者の不利益性及び正当性につき考慮したうえで、上記「特段の事情」があると認めることはできないと判事し、労働者の主位的請求を全部認容したという結果となっています。(本件有期労働契約における賃金の定めは労働契約法 20 条に違反し無効となり、正社員就業規則の解釈によって原告らには同就業規則が適用される。

それに対して、同事件の控訴審判決(東京高判平成 28 年 11 月2日)では、原審と同様に労働条件の不利益変更の法理に準じた手法を用いたとも思われるような内容で、不合理性と違法性を判断していますが、その考慮要素については、労働契約法 20 条にいう①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一であるにもかかわらず、賃金の額について有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度にかかわらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れないとした第1審とは異なり、争点(2)について次のように述べています。

労働契約法 20 条は、有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が不合理と認められるか否かの考慮要素として、①職務の内容②当該職務の内容及び配置の変更の範囲のほか、③その他の事情を掲げており、その他の事情として考慮すべきことについて、上記①及び②を提示するほかに特段の制限を設けていないから、労働条件の相違が不合理であるか否かについては、上記①及び②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきものと解される。 

 争点(1)に関しては、控訴人が高年齢者雇用安定法が定める選択肢の1つとして被控訴人らと有期労働契約を締結したのは、賃金節約や雇用調整を弾力的に図る目的もあると認められるので、本件相違が「期間の定めの有無に関連して」生じたことは明らかであるとしました。そして契約法20条の考慮要素について、本件では被控訴人らと正社員との間で上記①②がほぼ同一でありであるその他の事情については、

 ア)控訴人が定年退職者に対する雇用確保措置として選択した継続雇用たる有期労働契約は、社会一般で広く行われている。

イ)従業員が定年退職後も引き続いて雇用されるに当たり、その賃金が引き下げられるのが通例であることは、公知の事実であるといって差し支えない。このことについては、a)高年齢者雇用安定法による高年齢者雇用確保措置の義務づけ、b)企業は定年到達者の雇用のみならず若年層を含めた労働者全体の安定的雇用実現の必要があること、c)定年到達者については、在職老齢年金制度及び高年齢雇用継続給付があること、d)定年後の継続雇用は法的には従前の雇用関係を消滅させて退職金を支給した上で新規雇用契約を締結するものであること、を考慮すると定年後継続雇用者の賃金を定年時より引き下げること自体が不合理であるとはいえない。

(略)

キ)控訴人は「定年退職者を再雇用して正社員と同じ業務に従事させる方
が、新規に正社員を雇用するよりも賃金コストを抑えることができるという意図」を有していたと認められるが、継続雇用制度導入の選択は高年齢者雇用安定法が認めており、定年前後で上記①②が変わらないまま一定程度賃金が減額されることは一般的であり社会的に容認されている。
平均2割強という減額率も不合理とはいえない。

 ク)控訴人と被控訴人加入の労働組合との間で嘱託社員の賃金水準等の労
働条件に関する一定程度の協議が行われ、控訴人が本件組合の主張や意見を聞いて一定の労働条件の改善を実施したことは考慮すべき事情である。
(4)上記(3)によれば、本件相違は、上記①②③に照らして不合理なものとはいえず、労働契約法 20 条に違反するとは認められない。
よって、控訴人らの主位的請求はいずれも理由がない。
(5)控訴人が被控訴人らと有期労働契約を締結し、定年前と同一の職務に従事させながら、賃金額を 20~24%程度切り下げたことが社会的相当性を欠くとはいえず、労働契約法または公序(民法 90 条)に反し違法であるとは認められない。

よって、被控訴人らの予備的請求はいずれも理由がない。

 以上の様に述べ、原判決を取り消し、被控訴人らの主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却しました。

 本件は労働契約法20条の違法性の判断に対する内容であり、労働契約法10条の就業規則の不利益変更についての判断(平成10年4月1日施行の改正高年法のもとで,就業規則上の定年延長についての合理性を判断した裁判例として協和出版販売事件〈東京高判 平19・10・30 労働判例963号54頁〉ではなく、本判決の内容と直接関係があるかどうかは解りませんが、55歳以降の賃金引下げを内容とす就業規則の不利益変更の違法性が争われた第四銀行事件(最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決)みちのく銀行事件(最高裁平成12年9月7日第1小法廷判決)の判断内容を連想させられました。

この両判決においては、就業規則の不利益変更に対する合理性の判断の際の考慮要素となる労働組合と締結された労働協約の位置付けについて、相反する判断がなされました。いずれも、賃金や退職金などの重要な労働条件についての不利益変更については、高度の必要性に基づく合理性が求められるという前提条件は変わらないのですが、第四銀行事件では、行員の90%で組織する労働組合との間で締結された労働協約について、労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであるとして考慮要素として評価されているのに対して、みちのく銀行事件では、行員の約73%で組織する労働組合が、第1次変更、第2次変更の2回の変更に合意しているにもかかわらず、最後まで不利益変更に反対していた一部高年層の行員の被る不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないとされています。

上記、長澤運輸事件の高裁判決の内容に影響があったかどうかはさておき、平均2割強という減額率不合理とはいえないという判断*1のもと、労働組合との間で嘱託社員の賃金水準等の労働条件に関する一定程度の協議が行われ、控訴人が本件組合の主張や意見を聞いて一定の労働条件の改善を実施したことは考慮すべき事情であるとされています。ですから、もし、嘱託社員の減額率が大きければ、本件のように組合との合意に至っていない協議の状況が、どのように評価されるかはわからないということも言えるかもしれません。

  但し、①第四銀行事件では、昭和58年当時は60歳定年制の実現が、いわば国家的政策課題とされ、社会的に強く要請されていたという背景も考慮されています。

高年齢者雇用安定法においても、65歳までの安定した雇用の確保という国家政策課題があり、社会的に強く要請されているということでは、同様ですが、個人的には、法自体が、企業の実情に応じた柔軟な措置を想定して、企業運営にも配慮した内容として定められていることに鑑みれば、 同様に解すべきではないと思います。*2労働協約上の「労働者の待遇に関する基準」を定めた規定が労働者に不利な規定である場合には、そのような規定にも規範的効力*3が生じるかという問題があります。

菅野和夫(著)「労働法」弟八版 法律学口座双書】によると

一般的に言えば、団体交渉は相互譲歩の取引であり、その結果、労働協約は労働者に有利な条項と不利な条項が一体として規定されることが多い(例えば休日日数を増加しつつ変形労働時間制を導入するという協定)。また、継続的な労使関係では、労使の取引は不況時の譲歩と好況時の獲得など時期を異にした協約交渉間でも生じうる。要するに、労働組合としては、組合員の利益を全体的長期的に擁護しようとして、それ自体では不利益に見える協定をも締結するのである。そのような内容の交渉をし協約を締結する権限を労働組合が有していないとすることは、労働組合の任務の著しい縮減となり、憲法28条や労組法の本旨とする労使自治の理念に照らし適切な解釈とは考えられない。従って、一般論としては、労働協約は労働者に不利な事項についても規範的効力を有するといわざるを得ない。(556頁~557頁)

労働法の文言によれば規範的効力の生ずる範囲は「労働条件その他労働者の待遇に関する基準」である(16条)。このうち「労働条件その他労働者の待遇」とは、賃金、労働時間、休日、休暇、安全衛生、職場環境、災害補償、服務規律、懲戒、人事、休職、解雇、定年制、教育訓練、福利厚生など、企業における労働者の個別的または集団的な取扱いの殆ど全てを含みうる広い概念である。ただし、規範的効力は、労働契約成立後のその契約内容を規律する効力なので、「採用」についての協約規定は、規範的効力を持ちえない。(557頁)

 まったく同様のケースではありませんが、前述した、厚生労働省の改正高年法Q&Aが55歳以降の労働条件の変更を含む措置について述べた部分があるので抜粋します。

Q1-6: 例えば55歳の時点で、
[1]従前と同等の労働条件で60歳定年で退職
[2]55歳以降の雇用形態を、65歳を上限とする1年更新の有期労働契約に変更し、55歳以降の労働条件を変更した上で、最大65歳まで働き続ける。 のいずれかを労働者本人の自由意思により選択するという制度を導入した場合、継続雇用制度を導入したということでよいのでしょうか。

A1-6: 高年齢者が希望すれば、65歳まで安定した雇用が確保される仕組みであれば、継続雇用制度を導入していると解釈されるので差し支えありません。
 なお、1年ごとに雇用契約を更新する形態については、高年齢者雇用安定法の趣旨にかんがみれば、65歳までは、高年齢者が希望すれば、原則として契約が更新されることが必要です。個々のケースにおいて、高年齢者雇用安定法の趣旨に合致しているか否かは、更新条件がいかなる内容であるかなど個別の事例に応じて具体的に判断されることとなります。

 今回の記事の冒頭で紹介した2018年4月10日月、労働新聞の電子版記事によれば、近年相次ぐ労働契約法第20条に関する判決で、多くのケースで基本給格差を容認する一方、諸手当では厳格な判断が下されている事を伝えています。

その考えが定年再雇用のケースにもあてはまるのであれば:表現方法が不適切と思われたので後日加筆)基本給に関しては、定年前後の雇用形態の相違やその雇用形態の相違に基づく課業の内容の相違から認められやすいということになるのかもしれませんね。しかし、こと諸手当に関しては、そのような相違(期間の定めがあることにより)に基づき差異をもけることに合理性があるかどうか(正確には不合理なものではないかどうかです)厳格に吟味されなければならないということなのでしょう。特に定年前後で、前述した契約法第20条の考慮要素①②が同一である場合は、なおさらということになると理解してよいのではないでしょうか。その諸手当ごとに踏み込んで判断した裁判例として、上記長澤運輸事件と同じ運送業の事件であるであるハマキョウレックス事件(大阪高平成28年7月26日判決)があり、正社員のドライバーの業務内容と契約社員のドライバーの業務内容は大きな相違があるとは認められないが、しかし、正社員と契約社員との間には、職務遂行能力の評価や教育訓練等を通じた人材の育成等による等級・役職への格付け等を踏まえた広域移動や人材登用の可能性といった人材活用の仕組みの有無に基づく相違が存するしたがって、「不合理と認められるもの」に当たるか否かについて判断するに当たっては、労働契約法20条所定の考慮事情を踏まえて、個々の労働条件ごとに慎重に検討しなければならないとされています。

その考えを基にするならば、長澤運輸事件に関しては、考慮要素①②が同一とされていますので、尚更個々の労働条件ごとに慎重に検討しなければならないことになるはずです。前記1審判決では、考慮要素①②が同一である以上、賃金額に差を設けることは、その相違の程度にかかわらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れないと判断したのに対して、高裁判決では次のように述べました。

オ)賃金構成の各項目について不合理性を判断せよとの被控訴人らの主張については、定年前後で上記①②が変わらないまま一定程度賃金が減額されることは一般的であり社会的に容認されていることのほか控訴人が、e)正社員の「能率給」に対応する嘱託社員の「歩合給」につき上記「能率給」より支給割合を高くしていること、f)無事故手当を正社員より増額して支払ったことがあること、g)老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について調整給を支払ったことがあることなど、正社員との賃金の差額を縮める努力をしたことに照らすと、個別の諸手当の支給の趣旨を考慮しても、不合理であるとは認められない。

 

2016.11.17 【労働新聞】電子版より抜粋

現状追認判決だ」ーー注目された長澤運輸事件の控訴審判決直後の会見で、原告が所属する全日本建設運輸連帯労働組合の小谷野毅書記長は、判決に対し怒りを込めてこう語った。「社会問題化している格差や差別の不合理性を糺すのが労働契約法20条の理念。定年後再雇用だから仕方ないというのは到底承伏できない」とも述べ、最高裁で争う考えを示した。同席した宮里邦雄代理人弁護士は、同一労働同一賃金が議論されている社会的背景を考えても妥当性を欠く判決だと語った。…

ということで、本年6月1日の契約法第20条についての初の最高裁判決に注目したいと思います。

 今まで考察してきた、裁判所の労働契約法20条に基づく判断と厚生労働省の改正Q&Aの説明に基づく限り、企業側が賃金節約や雇用調整の弾力性を図るための対策としては、定年前後での職務内容を大幅に変えることが考えられ、その職務の相違に基づく労働条件(特に賃金)について相違させることは、65歳までの安定した雇用の確保が保証されている限り問題ないような気もします。勿論、改正高年法の趣旨に反するような労働条件の相違は認められないということになるのでしょうから、問題はどこまでなら許容されるのかという問題に尽きることになると思われます。

参考となる裁判例として、トヨタ自動車事件(名古屋高裁平成28年9月28日判決)があります。

 【事件の概要】

被告会社においては,平成24年法律第78号による改正後の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の定める継続雇用制度につき,社員就業規則上の規定を受けて,25年3月31日付で労使協定が締結されており、健康基準,職務遂行能力基準,勤務態度基準からなる選定基準を満たした者には定年後再雇用者就業規則に定める職務(「スキルドパートナー」と呼ばれる)を提示し当該基準を満たさない者にはパートタイマー就業規則に定める職務を提示することとされていた。

Xは,スキルドパートナーとしての再雇用の基準に達していないことを前提として、パートタイマーの職務を提示されたが、期間にして1対5,受給額にして1対10にもなる落差があること定年後再雇用になる場合の労働条件について,主な業務内容はシュレッダー機ごみ袋交換および清掃(シュレッダー作業は除く),再生紙管理,業務用車掃除,清掃(フロアー内窓際棚,ロッカー等),であったことから、「控訴人が隅っこの掃除やってたり,壁の拭き掃除やってて,見てて嬉しいかね。…これは,追い出し部屋だね。」などと述べ、再三の被告会社からのパートタイム勤務帳票の提出の催促にもかかわらず、あくまで「スキルパートナー」としての職務を希望する旨書面を提出していたが、結局再雇用されることなく60歳に達したことにより,被控訴人会社を定年退職となったため、

①「スキルドパートナー」としての再雇用契約に基づいてXが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認

②賃金および一時金ならびにこれらに対する遅延損害金の支払い

③Y1社の使用者としての安全配慮義務等の違反を理由として,債務不履行または不法行為に基づく損害賠償として慰謝料およびこれに対する遅延損害金の支払い

以上3つの内容とする請求を提訴。一審判決はXの請求を棄却したためXが控訴したという内容です。

その控訴審で、名古屋高裁は、改正高年法は,60歳の定年後,再雇用されない男性の一部に無年金・無収入の期間が生じるおそれがあることから,この空白期間を埋めて無年金・無収入の期間の発生を防ぐために,老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して,労使協定で定める基準を用いることができるとしたものと考えられると改正法の趣旨を述べ、従って、定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があるとしても,提示した労働条件が,無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり,社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては,当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ないとしました。

具体的には、

なお、控訴人会社は,改正高年法の定める継続雇用制度を採用するにあたり,再雇用との文言を用いているが,その運用の適否を検討するにあたっては,上記の改正高年法の趣旨に従い,あくまで継続雇用の実質を有しているか否かという観点から考察すべきものである。

(略)

上記の改正高年法の趣旨からすると,被控訴人会社は,控訴人に対し,その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが,両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には,もはや継続雇用の実質を欠いており,むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから,従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り,そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである。そして,被控訴人会社が控訴人に提示した業務内容は,上記のとおり,控訴人のそれまでの職種に属するものとは全く異なった単純労務職としてのものであり,地方公務員法がそれに従事した者の労働者関係につき一般行政職に従事する者とは全く異なった取扱いをしていることからも明らかなように,全く別個の職種に属する性質のものであると認められる。
したがって,控訴人会社の提示は控訴人がいかなる事務職の業務についてもそれに耐えられないなど通常解雇に相当するような事情が認められない限り,改正高年法の趣旨に反する違法なものといわざるを得ない。
したがって,控訴人の従前の行状に被控訴人らが指摘するような問題点があることを考慮しても,控訴人会社の提示した業務内容は,社会通念に照らし労働者にとって到底受け入れ難いようなものであり,実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められないのであって,改正高年法の趣旨に明らかに反する違法なものであり,被控訴人会社の上記一連の対応は雇用契約上の債務不履行に当たるとともに不法行為とも評価できる。(略)

 控訴人は逸失利益の賠償を求めておらず慰謝料の支払を求めており,本件事案の内容からすると,債務不履行に基づいて慰謝料の支払を求めるのは困難であるが,不法行為に基づく慰謝料請求については,控訴人が上記賃金等の給付見込額と同額の損害賠償金を得ることができれば,その精神的苦痛も慰謝されるものと認められる。

 この控訴審の判断では、被控訴人会社はが我が国有数の巨大企業であって事務職としての業務には多種多様なものがあると考えられるにもかかわらず,従前の業務を継続することや他の事務作業等を行うことなど,清掃業務等以外に提示できる事務職としての業務があるか否かについて十分な検討を行ったとは認め難いという事情も結論に影響を与えており、これらのことからすると,控訴人に対し清掃業務等の単純労働を提示したことは,あえて屈辱感を覚えるような業務を提示して,控訴人が定年退職せざるを得ないように仕向けたものとの疑いさえ生ずるところであると評価され、結果として、原告請求の内、③の「安全配慮義務違反」という表現を「雇用契約上の債務不履行又は不法行為責任」という表現に改めたうえで、一部認容しています。

 このトヨタ自動車事件の高裁判決が出されたのが、前述した長澤運輸事件の東京地裁判決の約4か月後であったため(後日訂正箇所)、現場が混乱したといわれています。定年前後で職務内容が同一であれば、労働条件を相違させすぎても駄目、使用者が賃金節約や雇用調整の弾力性を図るために職務の内容を変更しすぎるのも駄目という様な碁石を置かれたような結論の事を言っているようです。特にハマキュウレックス事件高裁判決においては、「裁判所が、明文の規定がないまま、労働条件を補充することは、できる限り控えるべきである」と述べていたという経緯もあります。

その一方で、高年法の趣旨に反するような労働条件を定めることの可否については、従来の裁判例においても、「賃金等の労働条件については、基本的に当事者の自治に委ねる趣旨であったと認められるが具体的状況に照らして極めて苛酷なもので、労働者に同法の定める定年までの勤務する意思を削がせ、現実には多数の者が退職する等高年齢者の雇用の確保の促進という同法の目的に反するものであってはならないことも、前記雇用関係についての私法秩序に含まれるというべきである。協和出版販売事件(東京高判 平19・10・30 労働判例963号54頁)」とされていました。

 では、企業側が講じる賃金節約や雇用調整の弾力性を図るための対策が正当と認められるためにはどうしたら良いのでしょうか?トヨタ自動車事件が平成24年改正法後の事件であること、前述の長澤運輸事件、ハマキュウレックス事件の両事件が上告されており、最高裁判決の結果を待つしかない状況ですから、やはり、改正法の指針の内容にできるだけ忠実な対策を講じておくほかないと思いますので、以降関連する改正法Q&A と関連する項目の指針内容を抜粋したいと思います。

(Q&A抜粋)

Q1-7: 継続雇用制度として、再雇用する制度を導入する場合、実際に再雇用する日について、定年退職日から1日の空白があってもだめなのでしょうか。

A1-7:継続雇用制度は、定年後も引き続き雇用する制度ですが、雇用管理の事務手続上等の必要性から、定年退職日の翌日から雇用する制度となっていないことをもって、直ちに法に違反するとまではいえないと考えており、このような制度も「継続雇用制度」として取り扱うことは差し支えありません。ただし、定年後相当期間をおいて再雇用する場合には、「継続雇用制度」といえない場合もあります。

(指針抜粋)

 4 賃金・人事処遇制度の見直し
高年齢者雇用確保措置を適切かつ有効に実施し、高年齢者の意欲及び能力に応じた雇用の確保を図るために、賃金・人事処遇制度の見直しが必要な場合には、次の⒧から⑺までの事項に留意する。

⒧ 年齢的要素を重視する賃金・人事処遇制度から、能力、職務等の要素を重視する制度に向けた見直しに努めること。
この場合においては、当該制度が、その雇用する高年齢者の雇用及び生活の安定にも配慮した、計画的かつ段階的なものとなるよう努めること。

⑵ 継続雇用制度を導入する場合における継続雇用後の賃金については、継続雇用されている高年齢者の就業の実態、生活の安定等を考慮し、適切なものとなるよう努めること。

⑶ 短時間勤務制度、隔日勤務制度など、高年齢者の希望に応じた勤務が可能となる制度の導入に努めること。

⑷ 継続雇用制度を導入する場合において、契約期間を定めるときには、高年齢者雇用確保措置が 65 歳までの雇用の確保を義務付ける制度であることに鑑み、65 歳前に契約期間が終了する契約とする場合には、65 歳までは契約更新ができる旨を周知すること
また、むやみに短い契約期間とすることがないように努めること。

職業能力を評価する仕組みの整備とその有効な活用を通じ、高年齢者の意欲及び能力に応じた適正な配置及び処遇の実現に努めること。

勤務形態や退職時期の選択を含めた人事処遇について、個々の高年齢者の意欲及び能力に応じた多様な選択が可能な制度となるよう努めること。
この場合においては、高年齢者の雇用の安定及び円滑なキャリア形成を図るとともに、企業における人事管理の効率性を確保する観点も踏まえつつ、就業生活の早い段階からの選択が可能となるよう勤務形態等の選択に関する制度の整備を行うこと。

⑺ 継続雇用制度を導入する場合において、継続雇用の希望者の割合が低い場合には、労働者のニーズや意識を分析し、制度の見直しを検討すること。

 今回は、朝日新聞の朝刊記事をきっかけに選んだテーマである高年齢者雇用安定法の2回目として、企業側が新たに提示した雇用条件に、再雇用希望者が同意を拒み、結果として再雇用を拒否する結果となった場合の違法性の問題を取り上げ、本年6月以降に最高裁の判決を控えた運送会社の2件の裁判例と平成24年改正後の裁判例を基に、平成24年改正法の厚生労働省指針とQ&A を交えながら考察してきました。

以上、今回の記事内容をまとめると、

⑴ 高年齢者雇用安定法が求めているのは、継続雇用制度の導入であるり、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではない。

⑵ 事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、高年齢者雇用安定法違反となるものではない。

⑶ 高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであれば、雇用に関するルールの範囲内で、フルタイム、パートタイムなどの労働時間、賃金、待遇などに関し、事業主と労働者間で継続雇用後の労働条件について決めることができる。

⑷ 期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

⑸ その他の事情として考慮すべきことについて、上記①及び②を提示するほかに特段の制限を設けていないから、労働条件の相違が不合理であるか否かについては、上記①及び②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきものと解される。

労働協約は労働者に有利な条項と不利な条項が一体として規定されることが多く一般論としては、労働協約は労働者に不利な事項についても規範的効力を有するといわざるを得ないが、賃金や退職金などの重要な労働条件についての不利益については一部労働者のみに被る不利益性の程度や内容次第では、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないと判断される場合がある。(但し、労組と協約締結や協議と尽くしていることが望ましい事は言うまでもない。)

⑺ 社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては,当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ない。

⑻ 改正高年法の定める継続雇用制度を採用するにあたり,再雇用との文言を用いているが,その運用の適否を検討するにあたっては,上記の改正高年法の趣旨に従い,あくまで継続雇用の実質を有しているか否かという観点から考察すべきものであると判断されている。

⑼ 使用者の提示した継続雇用後の労働条件が無効となった場合でも、法自体から直ちに従前の労働条件での雇用契約が成立したと解されないこともあるが、民事的責任(債務不履行不法行為に基づく損害賠償責任)は生じうる。

 

 今回の記事を書いていて、定年後の継続雇用に関しては本当に様々な問題をはらんでいて、正直非常に難しいなという感想を抱きました。微力ながら何かお手伝いをさせていただければ幸いに思います。事企業者様の皆様からのご相談をお待ちしております。

少々古いデータではありますが、最後に大手中堅の高齢者雇用確保措置の動きをつたえる労働新聞電子版の記事をご紹介します。今回のテーマも、長い説明となってしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございます。

2017.06.01【労働新聞】
【今週の視点】65歳定年は一様ならず

大手・中堅で移行増 減額ゼロや役職維持も  今年4月から少なくない企業が65歳定年制へ移行した。公的年金の支給開始年齢の引上げが折り返し地点に差し掛かるなか、大手・中堅規模で様ざまな仕組みが採られている。いずれ避けられない大量退職や法定定年年齢の引上げを思えば、企業としては外堀が埋まる前に手を付け、ソフトランディングを図りい。……

 

 【参考文献・資料】

 (文献)

・【菅野和夫(著)「労働法」弟八版 法律学口座双書】

 (裁判例

 ・2018年3月31日(土)朝日新聞朝刊

 ・「ハマキュウレックス事件」:「弁護士オフィシャルWEBサイト 竹村 淳」より

 ・「協和出版販売事件」: MEMORANDUM:協和出版販売事件より

 ・「長澤運輸事件」: 弁護士 木 野 綾 子のレポートより

 ・「トヨタ自動車事件他」: BUSINESS LAWYERSサイトより(伊東 亜矢子弁護士)

 

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*1:契約法10条就業規則の変更による労働条件の不利益変更の規定は、変更後の労働条件が就業規則の内容となるためには合理性を求めているのに対して、契約法20条では、労働条件の相違不合理なものであってはならないことを求めているという違いがあります。

*2:但し、北バス事件判例の説示からすると、新たな就業規則の作成または変更によって、既得の権利を奪い労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないという就業規則の作成変更による合理性の判断と、契約法20条の有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違が、同条所定の考慮事情を考慮しての不合理性判断とでは、労使協議の評価におのずと違いが生じることになるという判断基準があるのかもしれません。※本脚注は、同最高裁判決が出てから加筆したものであることを申し添えます。

*3:労働協約中の「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」に違反する労働契約の部分は無効となり、無効となった部分は労働協約上の基準の定めるところによる。労働契約に定めがない部分についても同様である。このように労働協約中の「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」はここの労働契約を直接規律する効力を与えらており「規範的効力」と呼ばれる。菅野和夫(著)「労働法」弟八版 法律学口座双書 より

コーヒーブレークQ&A 事業場外みなし(2)事務処理どこでしよう?

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今回は、前回のコーヒーブレイクの第2回目みなし労働時間制の続きです。前回は、不動産会社を営む経営者からの相談を想定しての内容で、自社の営業マンに適用している事業場外みなし労働時間制の適用について、連日の大手不動産会社の裁量労働制の不適切運用の報道に触発された社員から、実労働時間との差額賃金支払いの求めを受けて困っているという内容でした。その記事の中で、事業外労働のみなし労働時間制が適用されるための2つの要件を制度発出当時に出された1号通達と設定会社と同じ不動産会社のみなし労働時間制の裁判例であるレイズ事件を題材に簡単に説明してきました。

さらに「みなす」という言葉の法律上の効果について、参考文献の中から解説を抜粋しお伝えして終了しました。

 その前回の記事でお伝えした通り、企業(事業場)が就業規則で事業場外労働のみなし労働時間制を採用することを規定し、労働時間を「みなす」とした場合、労働者の意思とは関係なく、「その業務を行うのに通常必要とされる時間」は、その定めたところの時間となり、反証を挙げて覆すことができない効果が発生するということでした。

みなし労働時間制については、労働基準法の労働時間規制の積み上げ算定による実績原則の下で、実際の労働時間にできるだけ近づけた現実的な算定方法を定めるものであり、その限りで労基法上使用者に課されている労働時間の把握・算定義務を免除する制度ということができると考えられています。阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件(東京高裁平成23年9月14日・労判1036号14頁)】

 従って、事業場外のみなし労働時間制が適用できるための2つの要件、特に、2番目の要件である使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務であることの判定は厳格になされていると考えてよいと思います。

上述したように、通常は、労働基準法は積み上げ算定による実績原則の労働時間規制の考えなので、未払い賃金等が問題となる場面であっても、労働者の自己申告が実態あったものであれば労働時間として認定されるための証拠となりえる余地があるはずです。その場合であっても労働者の自己申告という信憑性の問題は残されていますが・・・

しかし、採用している事業場外のみなし労働時間制が前述の2つの要件を満たした場合は、上述した「みなし」効果が与えられ、通常であれば労働時間の算定の証拠たりえる余地のある自己申告の資料をもってしても「みなし時間」は覆らないということになるはずです。

ところが、その「みなし」に関連して、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務であるか否かの判断において、自己申告となる「添乗員が実際に行った旅程管理の状況について出発時刻、到着時刻等を詳細かつ正確に記載した添乗日報」を「補充的に用いる」ことによって「本件添乗業務についての添乗員の労働時間を把握するについて、その正確性と公正性を担保することが社会通念上困難であるとは認められないとし、みなし労働時間制の適用はないと判示する高裁判決阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1事件)(東京高裁平成23年9月14日)】が現れるとともに、その後、実質同様の判断を示した最高裁判決阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2事件)(最高裁第二小法廷平成26年1月24日】が現れるという阪急トラベルサポートの一連の事件の判例がでてきました。

この阪急トラベルサポートのみなし労働時間制の適用可否をめぐる事件は、第1事件~第3事件まで3つの事件があり、地裁では統一された結論とはなりませんでしたが、高裁では3事件すべてで、適用を認めない結論に至っています。

そして、上述した、事件は各々第1事件*1・第2事件*2で国内旅行添乗員と海外旅行添乗員と事件の内容となった旅行業務の種類を異にしますが、労働者からの自己申告に当たる「添乗日誌」使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務に該当するか否かの判定をする際の考慮に用いられています。ただ第1事件の高裁判決では、「補充的に用いることによって」という言葉を用いているのに対し、第2事件の最高裁判決では、そのような言葉を用いず、「業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等」に含まれて鑑みられているという違いがありますが、その正確性と公正性の担保という意味では同じ内容の事を述べています。

労働者からの労働時間に対する自己申告に信憑性の問題が残されていることは先述の通りですから、労働時間について「みなし」の強い効果がある事業場外のみなし労働時間制の適用判断要件である、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務について、そのような信憑性に問題が残されている労働者の自己申告をもとに判定することは、法の条文の趣旨に反することになるようにも思えます

 以上のような疑問については、被告会社においても第1事件の中で主張していたようで、その第1事件の高裁判決の中で裁判所は次のように述べています。

 確かに、使用者の指揮監督が及んでいなくとも、従業員の自己申告に依拠した労働時間の算定が可能な限りは「労働時間を算定し難いとき」に当たらないというのであれば、「労働時間を算定し難いとき」はほとんど想定することができず、事業場外みなし労働時間制が定められた趣旨に反するというべきである。しかし、本件で問題となっているのは、自己申告に全面的に依拠した労働時間の算定ではなく社会通念上、事業場外の業務遂行に使用者の指揮監督が及んでいると解される場合に補充的に従業員の自己申告を利用して労働時間が算定されるときであっても、従業員の自己申告が考慮される限り、「労働時間を算定し難いとき」に当たると解すべきかということであり、事業場外みなし労働時間制の趣旨に照らすと、使用者の指揮監督が及んでいるのであれば、労働時間を算定するために補充的に自己申告を利用する必要があったとしてもそれだけで直ちに「労働時間を算定し難いとき」に当たると解することはできず、当該自己申告の態様も含めて考慮し、「労働時間を算定し難いとき」に当たるか否かが判断されなければならない。

上記第1事件の高裁判決は、国内旅行業務の判断についてですが、単純に考えて、国内旅行より、海外旅行の添乗の方が使用者の指揮監督が及びづらく、その分労働時間の管理が困難であることは容易に想像ができます。従って、事業場外のみなし労働時間制に関しても、海外旅行の添乗員の方が認められやすいような気がしますね。参考までに、第2事件の最高裁の判断の内容に入る前に、その海外旅行の添乗業務についての地裁がどのように判断していたかを簡単に紹介したいと思います。

第3事件の第1審判決*3では、結論として事業場外のみなし労働時間制の適用自体、換言すれば、制度適用のための1番目の要件である事業場外での業務に従事という要件は満たしている前提で、2番目の要件である労働時間を算定しがたい場合に該当するかが検討され、原告の1号通達のみなしが適用されない状況例外(1)~(3)に該当するとの主張のいずれもが退けられ、原告の従事する業務が制度の適用を受ける業務に該当するとされていました。

そして、添乗員らの添乗日誌による自己申告がある以上、使用者が原告らの労働時間を客観的に把握できたことからみなしの適用はないとの主張に対しては、裁判所は次のように述べその客観性を否定していました。

(ウ) 原告らは,実際の旅程結果を添乗日報等に詳細に記入するように本件派遣先が指示し,ツアー終了後,添乗日報を提出させているから,実際の労働時間を把握することができる旨主張する。・・・
しかしながら,添乗日報の記載内容,程度には,相当のばらつきがあり添乗日報から始業時刻及び終業時刻が直ちに判定できない場合も少なくない。また,前記検討のとおり,添乗業務はツアー客に帯同するものではあるが,休憩自由行動時間において,添乗員が労働義務から解放されていると評価すべき時間も含まれていると解されるところ,原告らの添乗日報は,前述したとおり,記載の程度に相当の差異があり,休憩の取得を具体的に記載しているものから,全く記載していないものまで多種多様であって,これら非労働時間を添乗日報等から把握することは現実には困難である(そもそも,本件派遣先がこのような非労働時間の記載まで求めているとは認められない。)

結局,添乗日報の記載によっても実際の労働時間を把握(算定)することは相当困難であるといわざるを得ない。 なお,労働時間の自己申告が可能であること自体から直ちに「労働時間を算定し難いとき」に該当しないということはできないことは明らかである(このように解さなければ,本件みなし制度を適用する余地はないこととなってしう。)・・・・・・・ しかしながら,前述したとおり,添乗日報の記載には相当程度ばらつきがあり,その内容から具体的に労働時間を把握することも困難である以上,添乗日報を作成して提出している事実を勘案しても,原告らの添乗業務が「労働時間を算定し難いとき」に該当するといわざるを得ない。

一方、第2事件の1審判決でも、上記第3事件1審判決での裁判所の説示と同旨の事を次のように述べていました。

この労働時間を把握する方法として、平成13年4月6日労働基準局長通達第339号「労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関する基準」(以下「労働時間把握基準」という。)は「使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること」とされ、その方法として原則として「ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録することイ タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。」とし、例外として自己申告制を規定する(〈証拠略〉)。これらによれば、みなし労働時間制が適用される「労働時間を算定し難いとき」とは、労働時間把握基準が原則とする前記ア及びイの方法により労働時間を確認できない場合を指すと解される。なお、労働時間把握基準は、みなし労働時間制が適用される場合には適用がないものとされている。
 ここで、例外である自己申告制によって労働時間を算定することができる場合であっても、「労働時間を算定し難いとき」に該当する場合があると解される。なぜなら、もし、自己申告制により労働時間を算定できる場合を事業場外みなし労働時間制から排除するとすれば、事業場外労働であって、自己申告制により労働時間を算定できない場合は容易に想像できず、労基法が事業場外みなし労働時間制を許容した意味がほとんどなくなってしまうからである。〔中略〕

以上のように、第1審では、第1事件でみなし否定、第2事件、第3事件でみなし肯定というように結論が分かれていました。国内で否定、海外で肯定という結果です。

ところが、国内否定の第1事件の1審判決に対して、上述した高裁の「補充的に」という言葉を用いた論理が出てきたわけです。

あくまで自己申告は補助的な考慮要素であるということです。従って、労働時間を算定しがたい場合の判定の主な決め手は、社会通念上、事業場外の業務遂行に使用者の指揮監督が及んでいると解される場合ということになります。

では、この「補充的に」とは、どのような意味合いでとらえたらよいのでしょうか?言葉を素直に読めば、上述したように「補助的な考慮要素として」ということになると思います。言葉の背景にある考えについては、裁判官が前回の記事で紹介したレイズ事件(東京地裁平成22年10月27日・労判1021号39頁)と同様の事を述べています。

⑴ 使用者は,本来,労働時間を把握・算定すべき義務を負っているのである。

⑵ みなし制度が適用されるためには使用者が通常合理的に期待できる方法を尽くすこともせずに,労働時間を把握・算定できないと認識するだけでは足りず,具体的事情(当該業務の内容・性質,使用者の具体的な指揮命令の程度,労働者の裁量の程度等)において,社会通念上,労働時間を算定し難い場合であるといえることを要するというべきである。

⑶ 昭和63年1号通達*4は、発出当時の社会状況を踏まえた「労働時間を算定し難いとき」の例示である。

以上の考えを基に第1事件高裁判決の結論をまとめると、

⑴ 原告ら、派遣添乗員は被告会社の工程管理指示書(アイテナリー)に基づき、添乗業務を行っている。

⑵ 添乗員の行程管理がその裁量に任されている部分があるといえるとしても、添乗員の裁量は、緊急臨時的な限定的なものであり、阪急交通社の指揮監督を離脱しているということはできない。

⑶ 添乗日報は、指示書により指示された行程を実際に管理した際の状況を記載して報告した文書であり、その記載は詳細であって、事実と異なる記載がされ、あるいは事実に基づかないいい加減な記載がされているというような事実は認められない

社会通念上添乗業務は指示書による阪急交通社の指揮監督の下で行われるもので、Y社は、阪急交通社の指示による行程を記録した添乗日報の記載を補充的に利用して添乗員の労働時間を算定することが可能であると認められ、添乗業務は、その労働時間を算定し難い業務には当たらないと解するのが相当である。

事件の行程管理指示書に基づく添乗業務の態様が、 昭和63年通達の例外事例のどれにも、そのままは当てはまらない(例外の理由とするには弱い)が、通達はあくまで発出当時の社会的状況を踏まえた例示であり、みなし制度を適用するためには、使用者が通常合理的に期待できる方法を尽くすこともせずに,労働時間を把握・算定できないと認識するだけでは足りないという厳しい姿勢を貫いたような結論となっています。

事業場外のみなし労働時間制で最高裁の判断が出たということで注目された第2事件については、冒頭で第1事件と同様に事業場外のみなし労働時間制が否定されたという結論を述べましたが、どのような判断経緯だったのか、簡単に内容を見ていきたいと思います。

 この第2事件の最高裁判決は、添乗業務につき,労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に該当するかの検討につき、「補充的に」という言葉の背景にある考えのところで述べた

 ⑵ みなし制度が適用されるためには,使用者が通常合理的に期待できる方法を尽くすこともせずに,労働時間を把握・算定できないと認識するだけでは足りず具体的事情(当該業務の内容・性質,使用者の具体的な指揮命令の程度,労働者の裁量の程度等)において,社会通念上,労働時間を算定し難い場合であるといえることを要するというべきである。

 という考えにより上記青ゴシックの3つの要件に基づき検討されていると思われます。

従って、今回の記事では、敢て判決文の検討見出しを上記3要件の見出しとしました。

⑴当該業務の内容・性質

(出発前業務)出発日の2日前に,上告人の事業所に出社して,パンフレット,最終日程表,アイテナリー等を受取り,現地手配を行う会社の担当者との間で打合せをなど。

(出発日当日業務) 集合時刻の1時間前までに空港に到着し,主にツアー参加者の受付や出国手続及び搭乗手続の案内等、機内業務、現地到着後はホテルへのチェックイン等を完了するまで手続の代行や案内等の業務

(発帰国機内業務)航空機内においては搭乗後や到着前の時間帯を中心に案内等の業務

(現地業務) アイテナリーに沿って,原則として朝食時から観光等を経て夕食の終了まで,旅程の管理等の業務を行う。

(帰国日業務) ホテルの出発前から航空機への搭乗までの間に手続の代行や案内等の業務を行うほか,航空機内業務を行い到着した空港においてツアー参加者が税関を通過するのを見届けるなどして添乗業務を終了

(帰国後業務) 3日以内に上告人の事業所に出社して報告を行うとともに,本件会社に赴いて添乗日報やツアー参加者から回収したアンケート等を提出する。

⑵使用者の具体的な指揮命令の程度

会社は,添乗員に対し,国際電話用の携帯電話を貸与

(携帯電話)常に電源を入れておくものと指示

(添乗日報)作成し提出することを指示している。

添乗日報には,ツアー中の各日について,行程に沿って最初の出発地,運送機関の発着地,観光地等の目的地,最終の到着地及びそれらに係る出発時刻,到着時刻等を正確かつ詳細に記載し,各施設の状況や食事の内容等も記載するものとされており,添乗日報の記載内容は,添乗員の旅程の管理等の状況を具体的に把握することができるものとなっている。

⑶労働者の裁量の程度等

 添乗員は,参加者との間の契約に係る旅行業約款に定められた旅程保証に反することとなるような変更が生じないように旅程の管理をすることが義務付けられている
旅行の安全かつ円滑な実施を図るためやむを得ないときは,必要最小限の範囲において旅行日程を変更することがあり添乗員の判断でその変更の業務を行うこともある

目的地や宿泊施設の変更等のようにツアー参加者との間で変更補償金の支払など契約上の問題が生じ得る変更や,ツアー参加者からのクレームの対象となるおそれのある変更が必要となったときは,本件会社の営業担当者宛てに報告して指示を受けることが求められている。

 以上の事実関係を前提に、3つの要件について次のように述べて結論を導いています。

本件添乗業務は,ツアーの旅行日程に従い,ツアー参加者に対する案内や必要な手続の代行などといったサービスを提供するものであるところ,(要件1)ツアーの旅行日程は,本件会社とツアー参加者との間の契約内容としてその日時や目的地等を明らかにして定められており,その旅行日程につき,添乗員は,変更補償金の支払など契約上の問題が生じ得る変更が起こらないように,また,それには至らない場合でも変更が必要最小限のものとなるように旅程の管理等を行うことが求められている。
そうすると,(要件3)本件添乗業務は,旅行日程が上記のとおりその日時や目的地等を明らかにして定められることによって,業務の内容があらかじめ具体的に確定されており,添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られているものということができる。
また,ツアーの開始前には,(要件2)本件会社は,添乗員に対し,本件会社とツアー参加者との間の契約内容等を記載したパンフレットや最終日程表及びこれに沿った手配状況を示したアイテナリーにより具体的な目的地及びその場所において行うべき観光等の内容や手順等を示すとともに,添乗員用のマニュアルにより具体的な業務の内容を示し,これらに従った業務を行うことを命じている。

そして,ツアーの実施中においても,(要件2)本件会社は,添乗員に対し,携帯電話を所持して常時電源を入れておき,ツアー参加者との間で契約上の問題やクレームが生じ得る旅行日程の変更が必要となる場合には,本件会社に報告して指示を受けることを求めている。

さらに,ツアーの終了後においては,本件会社は,添乗員に対し,前記のとおり(要件2)旅程の管理等の状況を具体的に把握することができる添乗日報によって,業務の遂行の状況等の詳細かつ正確な報告を求めているところ,その報告の内容については,ツアー参加者のアンケートを参照することや関係者に問合せをすることによってその正確性を確認することができるものになっている。

これらによれば,本件添乗業務について,本件会社は,添乗員との間で,あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程の管理等の業務を行うべきことを具体的に指示した上で,予定された旅行日程に途中で相応の変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ,旅行日程の終了後は内容の正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされているということができる。
以上のような業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等に鑑みると,本件添乗業務については,これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く,労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと解するのが相当である。 

※上記(要件1)~(要件3)という用語はブログ記事内容の説明の便宜上、記事の著者が勝手に用いたものです。

 昭和63年1号通達は、今回紹介した事件の1審判決が述べるように、発出当初の社会状況を踏まえた例外例示ですから、現代では、みなしが適用されない例外の例示に該当しなくても、使用者が通常合理的に期待できる方法を尽くすこともせずに,労働時間を把握・算定できないと認識するだけでは足りないとされるケースが多くなる可能性が非常に高いと思われます。従って、過去から「事業場外みなし」を問題なく適用している会社でも、今一度、上記3つの要件に照らし自社の制度に問題がないか再確認しておくことをお勧めします。

 それにしても、情報技術の進歩がめざましい現代において、この事業場外のみなし労働時間制という制度は、人里離れた不便な場所での仕事や単発の出張以外では、仕事仲間内でもほとんど使えないのではないかと言われて久しい訳ですが、今回海外旅行の添乗員でも認められないという(勿論、ケース毎に判断されるべきですが)ことになってしまうと、その可能性が更に少なくなってしまったような感じが個人的にはしています。

 そこで、参考までにみなしが肯定された裁判例をご紹介して最後にしたいと思います。

【日本インシュアランスサービス(休日労働・第1)事件-東京地判 平21・2・16 労働判例983号51頁】という事件で、原告らの業務内容は、保険に関する調査及び報告書の作成業務に従事していました。その業務遂行の仕方は、被告会社の本支店には原則として出社することなく、自宅を本拠地として、自宅に被告会社から送付されてくる資料等を受領し、指定された確認項目に従い、自宅から確認先等(保険契約者宅、被保険者宅・病院・警察・事故現場等)を訪問し、事実関係の確認を実施し、その確認作業の結果を確認報告書にまとめて、本社ないし支社に郵送又はメール等でこれを送付する、というものでした。その原告らが被告会社に対して、休日労働をしたと主張して、休日労働手当について支払われた額との差額等の支払を求めたという内容です。

このように、Xらの業務執行の態様は、契約形態が雇用であるから従属労働であるとはいえ(実際、同じ業務を担当しているが、業務委託契約の職員もいる。〈証拠略〉。)、Yの管理下で行われるものではなく、本質的にXらの裁量に委ねられたものである。したがって、雇用契約においては、使用者は労働者の労働時間を管理する義務を有するのが原則であるが、本件における雇用契約では、使用者が労働時間を厳密に管理することは不可能であり、むしろ管理することになじみにくいといえる

(2) ・・・Yの就業規則において、・・・(略)平日においては、みなし労働時間制が採られており、就業時間は7時間(休憩時間は1時間で随時取る。)であるところ(5、6条)、「日常の確認活動については、通常の労働時間労働したものとみなす」(6条3項)とされている。前記(1)のXらの業務執行の態様からすれば、このみなし労働時間制は、その業務執行の態様に本質的に適っているということができる。

(3) 本件は、Xらが休日労働をしたと主張して、その時間外労働に関する手当を請求するものである。一般的に、少なくとも休日労働については、労働者は自己の意思で休日労働をするか否かを決定する裁量が本来なく使用者の休日労働の個別の命令を要すると解される。平日の時間外労働についても、変わるところはないといえるが、(略)包括的・黙示的な同命令があるものと認められ易いというにすぎない。これに対し、休日労働は、前日までの平日の労働と時間的に連続していないため、労働者に犠牲を強いる点も多く、それゆえに時間外手当の割増率も高くなっているもので、本来労働者の裁量では行えず、包括的・黙示的な同命令も容易に認められるものではないといえる。
 これを本件において見るに、本件の業務職員の業務執行の態様は、その労働のほとんど全部が使用者の管理下になく、労働者の裁量の下にその自宅等で行われているため、確認業務の必要上、休日労働を行わざるを得ない場合には、休日労働をした場合には振替えの休日をなるべく取るようにするとの前提の下に少なくともこれまでは、使用者の休日労働の個別の命令を要することなく、当該業務職員の裁量で休日労働を行うことがされてきた(略)このような業務執行の態様の下では、休日労働のあり方も、平日のそれと本質的な差異はないのであるから、休日労働の時間の算定も、平日同様、みなし労働時間制によることが、その業務執行の態様に本質的に適っているということもできる。しかしながら、休日は本来労働することを予定していない日であるため、「所定労働時間」や「通常所定労働時間」(労基法38条の2第1項)といったものが存在しないので、みなすべき労働時間が存在せず、これによることができないというにすぎない。平日の労働にみなし労働時間制が採用されている場合でも、休日労働は実労働時間によらねばならないという格別の要請が労基法上存在するとは解されない。

「Yの業務職員の業務執行の態様は、その労働のほとんど全部が使用者の管理下になく、労働者の裁量の下にその自宅等で行われているのであるから、休日における報告書作成時間等も、使用者において管理しているものではなく、作成に要した実時間を使用者において知ることができるものではない。業務職員もYに報告していないし、また実際にもYが把握してはいない。したがって、一定の算定方法に基づき、概括的に報告書作成時間等を算定することにも合理性が存するといえる。そして、そのような算定方法は、(略)・・司法審査をするに当たっては、社内の取決めを作成する者と同じ立場に立っていずれかが最適かといった見地から審査するのではなく、恣意にわたるような定め方や、時間外手当請求権を実質的に無意味としかねないような裁量権の逸脱が存するか否かの点に限って審査すべきである。」

「Yの算定方法では、平日も含め、かなり実際の労働時間よりも短くなるとXらが感じていることもうかがわれる。しかしながら、Yの算定方法は、基本的に、平日1日当たりの報告書作成時間等と同程度の時間の業務を行ったとの考えに基づくものであり、平日のみなし労働時間制は、・・・Xらの業務執行の態様に合致したもので、十分な合理性を有するということができる。また、このみなし労働時間制という労働条件は、Xらの採用時の交渉により決まったものであり、今になって否定できるものではないし、報告書の中には、相当短時間で仕上げられるものもあることが認められるから、Yの算定方法によることに、全体でならせば、ある程度実際の労働時間よりも短くなるとしても、裁量権の逸脱があるとまではいえないというべきである。

 以上のように、原告らの仕事の本拠は使用者の管理の及ばない自宅であり、会社から送られてくる確認書に基づき業務を行うにしても、確認事項のために具体的な訪問手順等が決まっているわけでもなく、その業務態様は労働者の自由裁量性が高く、従って、本件における雇用契約では、使用者が労働時間を厳密に管理することは不可能であり、むしろ管理することになじみにくいといえるとされています。

上記裁判例は、在宅勤務の例とは違いますが、いわゆるテレワーカー等の情報通信機器を用いて自宅で業務を行う在宅勤務者に対しても、一定の基準を満たすことにより、労働基準法第38条の2の事業場外のみなし労働時間制の適用があるとされていますが、次の通達により、一定の注意事項が示されています。

例えば、労働契約において、午前中の9時から12時までを勤務時間とした上で、労働者が起居寝食等私生活を営む自宅内で仕事を専用とする個室を確保する等、勤務時間帯と日常生活時間帯が混在することのないような措置を講ずる旨の在宅勤務に関する取決めがなされ、当該措置の下で随時使用者の具体的な指示に基づいて業務が行われる場合については、労働時間を算定し難いとは言えず、事業場外労働に関するみなし労働時間制は適用されないものである

 (1)  当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。
 (2)  当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
 (3)  当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。

(平成16年3月5日付け基発第0305001号「情報通信機器を活用した在宅勤務に関する労働基準法第38条の2の適用について」)

情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドラインの策定について

今回で、前回からのコーヒーブレイク「事業場外みなし労働時間制」は、終了します。

 

【参考資料】

阪急トラベルサポート判例資料  弁護士法人栗田勇法律事務所 サイトより

・同阪急トラベル第3事件東京地裁判決 第2事件最高裁判決 裁判所ホームページより

・同阪急トラベル第1第2事件概要 2010年(平成22年)労働判例・命令年間総索引 

・日本インシュアランスサービス事件資判例資料 MEMORANDUMブログサイトより

 

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*1:国内旅行添乗員Xの未払割増賃金請求につき,始業時刻から終業時刻までの間の時間は休憩時間(1時間)を除き,Y社(および派遣先Z社)の指揮命令下に置かれていると評価できる等として,X主張に沿った時間外労働時間等の算定がなされ,割増賃金合計56万余円と同額の付加金が認容された例

*2:登録型派遣添乗員として被告Y社に雇用された原告Xの海外旅行の添乗業務従事につき,みなし労働時間制の適用を認めたうえで,時間外・休日割増賃金合計12万0700円および同額の付加金請求が認容された例の最高裁

*3:裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面

*4:使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はないものであること。
[1] 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合 [2] 事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合 [3] 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場にもどる場合