コーヒーブレークQ&A 定年再雇用の事務手続き 資格喪失?

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今回は、前回の記事の定年後の継続雇用に関連する手続きについての相談を想定しての記事にしました。実務家の方は、「何を今更」 とお思いかもしれませんが、事業者の方の中には、初めて定年を迎える方もいらっしゃるかもしれませんので、今回記事として取り上げることにしました。

質問. 当社は、創業して20年目を迎える中小企業です。今回初めて、60歳定年を迎える従業員が出てきます。先日、お宅様の事務所の継続雇用についての記事を見ていて、当社でも65歳までの安定した雇用の確保措置として、継続雇用制度の中の再雇用制度を導入することに決定しました。定年再雇用後の労働条件につていは、事業主の合理的な裁量の範囲の条件で相違させたいと思っており、先日、当社唯一の組合と協議手続きに入りました。現在、正社員との職務の内容や当該職務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲の相違に伴う合理的な賃金格差として、定年前の35%減で歩み寄りを図っていて合意できそうです。当社は今まで定年退職者がいなかったため、質問するのが非常にお恥ずかしいのですが、その場合、やはり月額変更届の手続きを踏まないと、社会保険料はそれまでは従前と同じ金額を支払わなければなりませんか?

答. まずは、社会保険ついての資格の得喪についての原則的な考えについて、おさらいしましょう。 社会保険に関しての資格の得喪については、厚生年金も健康保険も適用事業所での常用的使用関係に基づき判断されます。

1.資格取得
適用事業所での事実上の使用関係が生じたことをいい、法律上の雇用契約関係がなくても事実上の使用関係が認められれば被保険者となります。ここでいう、事実上の使用関係とは、適用事業所で働き報酬を受けている関係が常態であることをいい、以上の関係が実態として認められれば、得ている報酬の多寡、国籍を問わず被保険者となり、資格所得の届出をしなければなりません。被保険者該当性の判断基準である常用的雇用関係とは、就労者の労働日数、労働時間、就労形態、職務内容等を総合的に勘案し、個別具体的事例に即して判断されます。具体的に常用使用関係の確認が行われる際には、労務が提供されていること ②その労務の提供に対して報酬が支払われていること ③実際に支配従属関係にあることの以上3要件が常態であることの確認が行われ判断されることとなります。従って、臨時社員という社内区分の名称を有していても、上述の3要件を勘案し、使用関係の実態が常用的と認められれば、最初から一般の被保険者扱いすべきであり、採用内定者について、4月1日採用とされていても、名目的に辞令書が交付されているにすぎず、実際の就労とその対価の賃金の支払関係が1か月後である5月1日からであれば、5月1日が資格取得日になります。

【資格取得日】*1
①適用事業所(強制適用事業所又は任意適用事業所)に使用されるに至った日
②使用される事業所が適用事業所となった日
③適用除外に該当しなくなった日 
(※法が定める適用除外者を除く)

2.資格喪失厚生年金保険法第14条、健康保険法第36条)

被保険者と事業主との間の事実上の使用関係が消滅したことをいい、法律上の使用関係がなくなった時のことを言うのではありません。厚生年金も、健康保険も適用事業所に使用されなくなった時には、その翌日に資格を喪失しますが、資格喪失の効力は、厚生労働大臣の確認によって生じます。そしてこの厚生労働大臣の資格確認の権限に係る事務は、日本年金機構に行わせるものとさそれています。厚生年金保険法及び健康保険法が、「その事業所に使用されなくなったとき」を被保険者の資格喪失事由としたのは、その保険料については、被保険者及び被保険者を使用する事業主がそれぞれ保険料の半額を負担するが、保険者に対する保険料の納付義務は、被保険者の負担すべき保険料についても事業主が負担義務を負い(厚生年金保険法第82条1項、2項、健康保険法第161条1項、2項)*2、事業主は、被保険者の負担すべき保険料を被保険者に対して支払う報酬から控除することができることとされていて(厚生年金保険法第84条、健康保険法第167条)*3事業主と被保険者との使用関係が事実上消滅すれば、事業主から被保険者に対する報酬が支払われなくなり、その結果、事業主が被保険者の負担すべき保険料を納付することができなくなるからであるとされています。【被保険者資格確認処分取消請求事件(福岡地方裁判所平成25年9月18日判決)】従って、例えば、私立学校の教師や講師等が、1カ月を超えるような夏季長期休暇中の出勤義務がなく給与の支払いもその間なされないようなケースにおいては、一旦資格喪失扱いの取扱いとされる場合もあり得ます。

【資格喪失日】原則次に掲げる事実のあった日の翌日、下記➄⑧⑨の場合は、その日

①死亡(共通)
②その事業所又は船舶に使用されなくなった(厚年)
③任適用事業所の適用取消の認可があった(厚年)
④適用除外の規定に該当(厚年)
➄70歳到達(厚年)
⑥任意継続被保険者となった日から起算して2年を経過(健保)
⑦保険料(初めて納付すべき保険料を除く)を納付期日までに納付しなかった(健保)
⑧一般被保険者または船員保険の被保険者となった(健保)
後期高齢者医療の被保険者となった(健保)

3.短時間正社員*4の取扱い
短時間正社員の資格取得の取り扱いについては、当該事業所の就業規則等における短時間正社員の位置付けを踏まえつつ、労働契約の期間や給与等の基準等の就労形態、職務内容等を基に判断されます。具体的には、次の要件を満たすと被保険者となります。

①労働契約、就業規則、及び給与規定等に短時間正社員に係る規定がある

期間の定めのない労働契約が締結されている。

給与規定等における、時間当たりの基本給及び賞与、退職金等の算定方法等同一事業所に雇用される同種フルタイムの正規型の労働者と同等である場合であって、かつ就労実態も当該諸規定に即したものとなっている

 

4.報酬の範囲
報酬には、基本給や家族手当、住宅手当などの諸手当のほか、非課税である通勤手当や毎月支給額が一定でない残業手当など名称は何であっても労働に対する対価であれば、対象となります。(臨時に支払われる賞与等は年4回以上支給されれば対象。)

5.定年再雇用者の取り扱い
今回のご質問の回答になりますが、上述したように、

一定の事業所に使用されるものが事業主との間に事実上の使用関係が消滅したと認められる場合には、その被保険者資格を喪失する者と解されていますので、同一の事業所において雇用契約上一旦退職した者が1日の空白もなく引き続き雇用された場合は、退職金の支払いの有無又は身分関係若しくは職務内容の変更の有無にかかわらず、その者の事実上の使用関係は中断なく存続していますから、被保険者の資格も存続し、資格の得喪の手続きは要しません。しかしながら、ご質問の御社の従業員のように、報酬比例部分の特別支給の老齢厚生年金の受給権者である被保険者であって、定年による退職後継続して雇用される者については、使用関係がいったん中断したものとみなし、事業主から被保険者資格喪失届および被保険者資格取得届提出させる取扱いとして差し支えないこととされています

(平成8年4月8日保文発第269号、庁文発第1431号)
社会保険の実務相談 全国社会保険労務士連合会(編) 中央経済社より】

従って御社の場合も、再雇用後の3カ月の給与支払い実績に基づく月額変更届の手続きではなく、被保険者資格の喪失と取得の手続きが必要となります。
具体的取扱いとして、上記通知で示されている定年再雇用に当たるか否かを判断するに当たっては、定年退職前に作成されている就業規則に従前から明記されている場合の他、退職辞令の写し、事業主の証明等の定年退職後に作成されたものであって、客観的に定年再雇用であることを明らかにすることができる書類により行うとされていますので、手続きに当たっては、その客観的に定年再雇用が証明できる書類が必須となりますので、就業規則退職辞令の写し定年退職したことを証明できる書類だけでなく、雇用契約事業主の証明等再雇用されたことが証明できる書類が必要です。
また、その場合の定年再雇用とは、正社員が定年退職し嘱託などにより再雇用された場合をいうものであり、その後に再退職し再雇用される場合は該当しないとされていますので注意が必要です。
因みに、役員の場合も対象となりますが、役員の場合は、役員規定取締役会議事録株主総会議事録等役員を退任したこと及び再雇用または再任されたことがわかる書類が必要です。
尚、上記書類により、退職年月日、再雇用年月日が適正であることの確認を行うとされており、資格取得年月日が同時に提出される資格喪失届の資格喪失年月日同日であることが必要です。但し、委託社労士からの届出の場合内容確認した旨を届出書に明示(電子申請の時は、提出代行者名欄にコピー確認済みと表示)することにより省略できます。

以上で今回の記事を終了します。

 

【参考図書】
・TAC ナンバーワン 社労士必修テキスト
社会保険の実務相談 全国社会保険労務士連合会(編) 中央経済社

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*1:(資格取得の時期)厚生年金保険法 第13条 第9条の規定による被保険者は、適用事業所に使用されるに至つた日若しくはその使用される事業所が適用事業所となつた日又は前条の規定に該当しなくなつた日に、被保険者の資格を取得こうする。健康保険法第35条 被保険者(任意継続被保険者を除く。)は、適用事業所に使用されるに至った日若しくはその使用される事業所が適用事業所となった日又は第3条第1項ただし書の規定に該当しなくなった日から、被保険者の資格を取得する。

*2:(保険料の負担及び納付義務)厚生年金保険法 第82条1項 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する。2.事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う。健康保険法第161条1項 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料額の二分の一を負担する。ただし、任意継続被保険者は、その全額を負担する。2.事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う。

*3:(保険料の源泉控除)厚生年金保険法第84条,健康保険法第167条 事業主は、被保険者に対して通貨をもつて報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所又は船舶(厚年のみ)に使用されなくなつた場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。

*4:他のフルタイムの正規型の労働者と比較し、その所定労働時間の短い正規型の労働者であって、①期間の定めのない労働契約を締結している者であり、かつ②時間当たりの基本給及び賞与、退職金等の算定方法等が同一事業所に雇用される同種フルタイムの正規型の労働者と同等である者を言う