労働契約上の付随義務について

前回に引き続き今回も労働契約に関係するテーマについて説明(お話し)したいと思います。

前回の「労働契約について考える」のテーマの中では、労働者は、使用者に対して

使用者が要求する(つまり求める役務)を提供することに対して、使用者から報酬を支払われているのだということをお話ししました。

 

つまり、労働者も使用者も労働契約の中で、労働者は、使用者の求める役務提供義務を、使用者はその労働者の役務の提供に対して報酬支払い義務を各々が負担していることになります。(民法用語では、有償双務契約という。)

そのことは、民法の”雇用”や労働契約法の”労働契約の成立”の規定上も、
それぞれが契約の成立要件といしている事からも当然導かれる義務であることは、解りやすいと思います。

しかし、皆さんは、労働者も使用者もそれぞれその労働契約の本来的義務の他に、その労働契約から発生する付随的義務を負担しているという話を耳にしたことがありませんか?

 

我々分野の世界では、本来的義務から問題となるケースとして

  • 採用・試用期間と採用取り消しの問題
  • 解雇・退職等の労働契約終了時の問題
  • 人事権の行使としての配転・転籍・出向等業務命令権発令の範囲の問題
  • どこまでが労働時間かということに関連して賃金の不払いの問題

等が代表的な問題と言えると思います。
(賃金不払いの問題に関しては、たまに自分の処遇に見合った賃金が支払われていないということも問題になることがあります。)

でも、労働の現場では、これら本来的義務から発生する問題以外にも、色々と問題になるケースがあります。

その中の一つが、民法1条2項の信義誠実の原則から導かれる労働契約上の付随的義務違反と言われる問題です。

労働判例の中で「本件雇用契約の内容は権利濫用であるとか信義則に違反する」という言葉を聞かれたことがある人も多いと思いますが、
それは、この労働契約上の付随的義務違反であることを言っています。(権利乱用については同条3項の問題となる)

参考までに、現在問題となることの多い付随的義務の代表的なものを例示すると

 

使用者側の付随義務としては、
・職場環境配慮義務
安全配慮義務(正式には労働契約上の付随義務とは認められているわけではない)
・健康配慮義務

などがあり、

労働者側の付随義務としては、忠実義務(誠実義務)である
・競業避止義務
・使用者の名誉・社会的信用を害さない義務
・秘密保持義務
・兼職を控える義務

などがあります。

 

信義誠実の原則というのは、「法律用語がわかる辞典」(自由国民社尾崎哲夫著)によると、

一般に、社会生活上一定の状況下において、相手方の正当な期待に沿うように他方行為者が行動することを意味し、
法律的には、法律や契約条項に規定されている権利義務関係を、具体的事情に応じて創造したり調整する機能を果たしているため
何が信義誠実の原則に当たるかは、具体的事情に応じて決定しなければならない。

とされています。

具体的機能としては、
⑴法律行為の基準となること
⑵社会的接触関係にある者同士の規範関係を具体化する機能を有すること
⑶制定法の規定の存しない部分を補充したり、制定法の形式的適用による不都合を克服したりする機能を有すること

とされていて、以上お話ししてきたような付随義務は雇用契約が使用者と労働者との間の継続的な契約関係であり、
そのため、当事者双方には、相手方の利益に配慮し、誠実に行動することを要請されているとの理由から導かれることになると考えられている。

「労働関係ADRに必要な民法を学ぶ」(日本法令:弁護士 山中健児著)
とされています。

簡単に言ってしまうとですね、何が義務違反かは具体的には裁判所にしか判断できないということです

しかし、だからこそ、厚生労働省が様々な事業主が講ずべき指針を定めていますので、
各労働の現場では、早急にその指針に沿った体制の整備を整えることが重要であることは間違いありません。