緊急報告!注目の労働契約法20条初の最高裁判決

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2018年5月3日 (定年後再雇用(その2)何歳まで働く?)というタイトル記事の中で触れた、使用者側の提示する労働条件の相違が、労働契約法20条に違反するか否かの問題で、いずれも上告中であり、労働契約法第20条についての初の最高裁判決ということで、その判断の行方が注目されていた2件の運送会社の事件である、Ⓐ 長澤運輸事件(東京高判平成 28 年 11 月2日判決)Ⓑハマキョウレックス事件(大阪高平成28年7月26日判決)最高裁判決が6月1日に下されました。両事件はどちらも本年4月20日(Ⓐ)4月23日(Ⓑ)に最高裁での口頭弁論を終えており、同日付の本年6月1日に判決言い渡しが確定していました。

話の内容に入る前に、同記事の中で不適切な表現があったとの指摘を受けましたので、お詫びと訂正内容をお伝えして本題に入りたいと思います。

(訂正箇所)

トヨタ自動車事件の高裁判決が出されたのが、前述したハマキョウレックス事件高裁判決(大阪高平成28年7月26日判決)の2か月後というタイミングであったため、現場が混乱したといわれています。定年前後で職務内容が同一であれば、労働条件を相違させすぎても駄目、使用者が賃金節約や雇用調整の弾力性を図るために職務の内容を変更しすぎるのも駄目という様な碁石を置かれたような結論の事を言っているようです。

という部分ですが、正確には、ハマキョウレックス事件は正社員と契約社員の労働条件の相違が労働契約法20条に違反しないかどうかが争われている事件であり、定年後再雇用の定年前後の労働条件の差異が問題とされている長澤運輸事件とは違い、継続雇用の問題として扱われているわけではありません。同じ運送業のしかも労働契約法20条に違反しているかどうかが争われているため、よく対比して語られていますが、継続雇用の記事の中で扱っていたため多大な誤解を招いているという指摘です。

それと、現場が混乱しているという表現のところはそのハマキョウレックス事件とトヨタ事件との対比で語られているわけではなく、長澤運輸事件とトヨタ事件での対比として語られている内容です。以上のような不適切な表現があったことにより、まさに現場を混乱させてしまったことをこの場をお借りしてお詫びさせていただきたいとおもいます。

さて、本題についてですが、

記事の中で、近年相次いでいるのが、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止を定めた労働契約法第20条に関する判決で、多くのケースで基本給格差を容認する一方、諸手当では厳格な判断が下されているということを2018年4月10日付、労働新聞の電子版記事を引用して説明させていただきました。

労働契約法第20条は、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。という内容の条文です。

高年法は、企業の実情に応じた柔軟な措置を想定しているとされてはいますが、法の趣旨に反したり、公序良俗や他の労働関係法令に違反するような労働条件を許容するものではありません。上記二つの事件共に、①の内容が同様であるにもかかわらず、再雇用後の労働条件が相違することは、労働契約法20条の趣旨に反し違法であるということで争われていました。

ここで、2018年5月3日 (定年後再雇用(その2)何歳まで働く?)の記事のまとめを振り返っておきたいと思います。

⑴ 高年齢者雇用安定法が求めているのは、継続雇用制度の導入であるり、
事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではない。

⑵ 事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、高年齢者雇用安定法違反となるものではない。

⑶ 高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであれば、雇用に関するルールの範囲内で、フルタイム、パートタイムなどの労働時間、賃金、待遇などに関し、事業主と労働者間で継続雇用後の労働条件について決めることができる。

⑷ 期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

⑸ その他の事情として考慮すべきことについて、上記①及び②を提示するほかに特段の制限を設けていないから、労働条件の相違が不合理であるか否かについては、上記①及び②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきものと解される。

労働協約は労働者に有利な条項と不利な条項が一体として規定されることが多く一般論としては、労働協約は労働者に不利な事項についても規範的効力を有するといわざるを得ないが、賃金や退職金などの重要な労働条件についての不利益については一部労働者のみに被る不利益性の程度や内容次第では、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないと判断される場合がある。
(但し、労組と協約締結や協議と尽くしていることが望ましい事は言うまでもない。)

⑺ 社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては,当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ない。

⑻ 改正高年法の定める継続雇用制度を採用するにあたり,再雇用との文言を用いているが,その運用の適否を検討するにあたっては,上記の改正高年法の趣旨に従い,あくまで継続雇用の実質を有しているか否かという観点から考察すべきものであると判断されている。

⑼ 使用者の提示した継続雇用後の労働条件が無効となった場合でも、法自体から直ちに従前の労働条件での雇用契約が成立したと解されないこともあるが、民事的責任(債務不履行不法行為に基づく損害賠償責任)は生じうる。

上記Ⓐ長澤運輸事件に関しては、1審判決では、考慮要素①②が同一である以上、賃金額に差を設けることは、その相違の程度にかかわらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り不合理であるとの評価を免れないと判断したのに対して、高裁判決では本件相違は、上記①②③に照らして不合理なものとはいえず、労働契約法 20 条に違反するとは認められないと判断しています。
更に、定年前と同一の職務に従事させながら、賃金額を 20~24%程度切り下げたことが社会的相当性を欠くとはいえず、労働契約法または公序(民法 90 条)に反し違法であるとは認められないとして、労働者側の主位的請求も予備的請求のいずれも理由がないという結論となっていました。

長澤運輸の高裁判決に関しては、後述のⒷハマキョウレックス事件の高裁判決とは異なり、賃金構成の各項目について、具体的中身を検討しながら不合理性を判断をしていませんが、そのことについて同高裁判決では、定年前後で上記①②が変わらないまま一定程度賃金が減額されることは一般的であり社会的に容認されていることのほか、正社員の「能率給」に対応する嘱託社員の「歩合給」につき上記「能率給」より支給割合を高くしていること、無事故手当を正社員より増額して支払ったことがあること、老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について調整給を支払ったことがあることなど、正社員との賃金の差額を縮める努力をしたことに照らすと、個別の諸手当の支給の趣旨を考慮しても、不合理であるとは認められないというような説明をしています。

前述した労働新聞の最近の労働契約法20条をめぐる裁判例の傾向からすると、その意味をどうとらえるか、同高裁判決が、定年前と同一の職務に従事させながら、賃金額を 20~24%程度切り下げたことが社会的相当性を欠くとはいえず・・と述べ、更に、(賃金構成の各項目について不合理性を判断せよとの被控訴人らの主張について)のところでは、定年前後で上記①②が変わらないまま一定程度賃金が減額されることは一般的であり社会的に容認されている・・・と述べていることからすると、定年前と同一の職務に従事させながら、賃金額を 20~24%程度切り下げたことに社会的相当性があるかどうかという観点に主眼があり、その社会的相当性について(正社員との賃金の差額を縮める努力)という表現を用い、企業側の労働者側への賃金減額という労働条件の不利益変更の代償措置的な考えに基づき全体評価しているように読めます。

個人的には、労働契約法20条に違反するかどうかということを控訴人が問うていることに関して、特に長澤運輸事件に関しては、考慮要素①②が同様であるにもかかわらず、賃金額を 20~24%程度切り下げたことに対して、労働契約法20条に違反ではない(合法である)ことの理由付けとして、我国における定年再雇用後の労働条件の社会的相当性を当てはめているようにも読めます。

その様に考えるならば、上記高裁判決は、我国における65歳までの安定した雇用の確保措置を講ずることにより全員参加型社会を実現するという国家政策課題があり、社会的に強く要請されているために企業の実情に応じた柔軟な措置を想定した高年齢者雇用安定法の趣旨を労働契約法20条に優先させたような結論ということができるかもしれません。

勿論、同高裁判決は控訴人の定年再雇用後の労働契約形態が有期雇用契約であるため、本件の有期労働契約には、労働契約法 20 条の規定が適用されることになると認定していますから、 考慮要素の①②が同様であるという前提からすると、個別具体的に踏み込んだ検討をした場合に明らかに契約法20条に反する内容である場合は、違法の判断が優先されていたと思いたいものですが、高年法の趣旨を総論と例えるなら「総論賛成各論反対」という程の不合理性はないというような判断の表現の仕方のようにも読め、個人的には、同高裁判決が「本件相違は、上記①②③に照らして不合理なものとはいえず、労働契約法 20 条に違反するとは認められない」という判断表現を使用しているだけに何となくすっきりしない感が残るのも事実です。

さて、以上を踏まえ同事件の一昨日の最高裁判断如何ということですが・・・・

まず、労働契約法20条の条文(期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては)との文言から、正社員と非正社員との待遇の差について定めた条文だと言えます。

しかしながら、上述したように長澤運輸事件は、もともとがハマキョウレックス事件の様な正社員と非正社員との待遇差を問題としているわけではなく、定年後再雇用の定年前後の労働条件の差異が問題とされている事案であり、そのような定年再雇用後の労働条件の相違が、労働契約法 20 条の「期間の定めがあることにより」生じたも のであるといえるかも争点とされていました。

昨日2018年6月2日付け、朝日新聞2面の記事によれば、最高裁判決は定年後に再雇用された非正社員に、雇用期間の定めの有無で労働条件に不合理な格差をつけることを禁じる労働契約法20条が適用されると認定したことを伝えています。

更に、昨日早朝ヤフーニュースによると、同高裁判決とは違い、契約用20条の不合理性の判断について、賃金項目の各項目を個別に判断すべきとの判断について次のように伝えています。

非正規格差に関する最高裁の初判断をどう読むか~日本型雇用の終わりの始まり~(倉重公太朗) - 個人 - Yahoo!ニュース

使用者は,雇用及び人事に関する経営判断の観点から,労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して,労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができる。また,労働者の賃金に関する労働条件の在り方については,基本的には,団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということもできる

と判断し、労契法20条の「その他の事情」として、定年後再雇用という点も考慮すべきとしました

 その上で、定年後再雇用の特殊性については

使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また,定年退職後に再雇用される有期契約労働者は,定年退職するまでの間,無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている

として、定年前正社員との違いを述べた上で

有期契約労働者と無期契約労働者との賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,当該賃金項目の趣旨により,その考慮すべき事情や考慮の仕方も異なり得るというべきである。

として、各項目を個別に判断すべきとしました

上記ヤフーニュースの伝える内容の意味について、前述の同日付朝日新聞では次のように説明しています。

判決は、再雇用者については、定年までに正社員として賃金を受け取ってきた/通常は長期間雇用することが予定されていない/一定の要件を満たせば年金を受け取れる・・といった点に着目。こうした点を③の「その他の事情」として考慮すべきだと判断した。そのうえで、嘱託社員と正社員の具体的な賃金格差などを検討し、賃金格差の大半については「不合理とはいえない」と判断した。

定年再雇用後の有期労働契約に関しては労働契約法20条の考慮要素③の「その他の事情」として考慮され不合理性が判断されるとはいっても、定年再雇用という特殊事情のみをもって正社員との労働条件の相違の不合理性が否定されると安易に考えるべきでないと考えます。

上記引用した最高裁の考えの中で、

有期契約労働者と無期契約労働者との賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,当該賃金項目の趣旨により,その考慮すべき事情や考慮の仕方も異なり得るというべきであると述べていることには留意が必要です。

結論としては、「従業員に出勤を奨励する趣旨で支給されるもの」として精勤手当のみが労働者に認められています。

 

次にⒷハマキョウレックス事件の方ですが、こちらの事件に関しては、以前の記事でもほとんど内容的に触れていませんでしたので、最高裁の結論をお伝えする前に概要だけ説明させていただくと、

同1審判決(大津地彦根支判平成27年9月16日)

労契法20条の「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が、それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味する。

被告におけるこれら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等を考察すれば、少なくとも無事故手当作業手当給食手当住宅手当皆勤手当及び家族手当一時金の支給定期昇給並びに退職金の支給に関する正社員と契約社員との労働契約条件の相違は、被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえないから、労働契約法20条に反しない。しかし、通勤手当については、通勤手当が交通費の実費の補填であることからすると、公序良俗に反するとまではいえないが、被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものであり(被告は、正社員の場合は配置転換により長距離通勤が予定されていると主張するが,そうだとしても,正社員の下限の金額が,契約社員の上限の金額を上回っていることの説明にはならないはずである)、労働契約法20条の『不合理と認められるもの』に当たる。労働契約法20条に反する労働契約の条件は同条により無効となるが、同法12条のような特別の定めがないのに、無効とされた労働契約の条件が無期契約労働者の労働条件によって自動的に代替されることになるとの効果を同法20条の解釈によって導くことは困難であるから・・労働契約の条件が同条に違反する場合については,別途会社が不法行為責任を負う場合があるにとどまる。

 

高裁判決(大阪高平成28年7月26日)

正社員のドライバーの業務内容と契約社員のドライバーの業務内容は大きな相違があるとは認められない。
しかし、正社員と契約社員との間には、職務遂行能力の評価や教育訓練等を通じた人材の育成等による等級・役職への格付け等を踏まえた広域移動や人材登用の可能性といった人材活用の仕組みの有無に基づく相違が存する。
したがって、「不合理と認められるもの」に当たるか否かについて判断するに当たっては、労働契約法20条所定の考慮事情を踏まえて、個々の労働条件ごとに慎重に検討しなければならない。無事故手当作業手当給食手当通勤手当については、契約社員に対して同手当を支給しないことは、期間の定めがあることを理由とする相違というほかなく、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たる。住宅手当皆勤手当については、契約社員には同手当を支給しない扱いをすることが、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たると認めることまではできない。

労働契約法20条に違反する労働条件の定めは無効というべきであり、同条に違反する労働条件の定めを設けた労働契約を締結した場合は、民法709条の不法行為が成立する場合がありうる。

しかし、労働契約法は、同法20条に違反した場合の効果として、同法12条や労働基準法13条に相当する規定を設けていないこと、労働契約法20条により無効と判断された有期契約労働者の労働条件をどのように補充するかについては、労使間の個別的あるいは集団的な交渉に委ねられるべきものであることからすれば、裁判所が、明文の規定がないまま、労働条件を補充することは、できる限り控えるべきである。
したがって、関係する就業規則労働協約、労働契約等の規定の合理的な解釈の結果、有期労働契約者に対して、無期契約労働者の労働条件を定めた就業規則労働協約、労働契約等の規定を適用し得る場合はともかく、そうでない場合には、不法行為による損害賠償責任が生じ得るにとどまる。(以上、「弁護士オフィシャルWEBサイト 竹村 淳」より)

 以上のように、同事件においては1審判決では、契約法20条の不合理性の判断について、同条の各要素を考察し、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味するとして、通勤手当のみの支給不支給の相違を不合理と判断していたのに対し、同高裁判決においては、同条の考慮要素の①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度は同様でありながらも、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲に相違があるため、「不合理と認められるもの」に当たるか否かについて判断するに当たっては、労働契約法20条所定の考慮事情を踏まえて、個々の労働条件ごとに慎重に検討しなければならないとし、無事故手当作業手当給食手当通勤手当4つの手当てについて、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に該当するとしていました。

 同事件の最高裁判決についてですが、先述した早朝ヤフーニュースによると次のように伝えています。

労契法20条は、職務の内容等が異なる場合であっても,その違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることを求める規定であるところ,両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。

(略)

 【ハマキョウレックス事件の結論】 

今回の最高裁は、上記4つの手当については結論を維持しつつ、皆勤手当について、その支給の趣旨は運送業務を円滑に進めるために実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する点にあるとし、トラック運転という職務内容が異ならない以上は、出勤を確保する必要性については差異が生ずるものではないとして、皆勤手当を支給しないのは不合理としました。

 朝日新聞の朝刊では、正社員と非正社員の待遇の差はどのような場合に「不合理」となるのかについての最高裁の判断について次のようなことを説明しています。

1日の最高裁判決は「賃金の総額を比較するだけでなく、手当など項目の趣旨を個別に考慮すべきだ」との判断を示した。場合によっては、別の賃金項目の有無や内容も考慮して、正社員と非正社員との間の差について判断すべきだ、という立場だ。

【以上のように、6月1日付の二つの運送会社の労働契約法20条違反をめぐっての最高裁判断は、労働者にとって定年後の労働契約ということでは同一であっても、結果として、高年法の定める定年再雇用であるか、通常の嘱託の再雇用であるかによって明暗が分かれた結果となった形です。上告側からすれば、高裁判決から一歩前進した結果となったとはいえ、以上のような定年後の働き方としては同一内容であるにもかかわらず結論が二分したことに対して憤りをあらわにしていると同新聞記事では伝えています。】

(上記下線部分が、不適切な表現となっています。緊急報告ということで急いでの執筆で、筆者の確認不足からくるエラーとなってしまいました。新聞記事の内容としても、同じような働き方で結論が二分したことに対して、上告人が憤りを示しているというような表現になっていました。あくまでハマキョウレックスは正社員と契約社員間の労働条件の相違が問題となっているケースであり、定年後嘱託の労働条件ではありません。ご迷惑をおかけした関係者の方々にこの場を借りてお詫びさせていただきます。

 

 

最高裁は、契約法20条に違反していると判断され無効とされた労働条件についてですが、同条には直律効がなく、損害賠償請求が認められるのみであるという高裁と同様の判断を示したと伝えらえれています。(上述ヤフーニュースより)

従って、形式的には将来に向かっての労働条件についての労使対等の立場による合意の原則が実現できるのであれば、(違法性が阻却される限りにおいては)相違する手当に代わる何か経済上の利益を提示等することにより比較対象労働者と同一でない労働条件で雇用を継続させることができるということになるのでしょうが、裁判にまでなって争われた労働条件についてそのような合意を労働者から取り付けることは困難だと思います。

では企業側としては、どのような労働条件の相違ならば不合理と判断されないのかということになりますが、そのことにも関連する内容のことについて同朝日新聞の朝刊記事が次のような内容の事を説明しています。

非正社員の待遇改善を図る同一労働同一賃金は、政府が今国会に提出した働き方改革関連法案の柱の一つだ。労働契約法の改正案などが含まれており、今国会で成立すれば、大企業は2020年4月、中小企業は21年4月に適用される。非正社員と正社員の待遇差が不合理かどうか判断する際の基準を明確化した点が、大きな特徴だ。改正法の成立後に、どういう待遇差が不合理になるか、手当ごとになどに具体的に示すガイドライン(指針)が策定されることになる。政府が16年12月に公表した指針案では、「将来の役割や期待が異なる」といった抽象的な理由では、待遇格差を設ける根拠にならないとの考え方を示した。

更に、大企業の中には既に、働き方改革法案の動きを見据え、正社員と非正社員の手当ての格差を見直す明るい動きがある一方で、政府が想定する正社員の水準まで非正社員の待遇を引き上げることとは逆の動きも出てきていることを伝えています。

私たちの生活に影響を与えている給与項目の中に、終身雇用の申し子ともいえる生活関連手当というものがあります。家族手当、住宅手当、食事手当、地域手当、単身赴任手当、寒冷地手当、通勤手当などが該当しますが、特別な事情で生活費負担が大きくなるものについて、雇用確保の視点から優遇しようという趣旨のものです。この生活関連手当の多くは、成果主義時代の中で縮小・廃止傾向で進んでいるとされています。

また、今回の二つの最高裁事件の中でも問題とされていた精勤手当や皆勤手当てについては、業績奨励手当関連の種類に属し、この手当に関しても最近縮小傾向にあるとされています。これら諸手当、特に生活関連手当は、近年縮小・廃止の方向で給与制度改革を行っている企業が多くなってきているということであり、その諸手当の主な削減方法としては、①単純に削減・廃止 ②基本給に組み入れる ③賞与に組み入れる等の方法があるとされています。【賃金・給与制度の教科書 (株)日本能率協会コンサルティング 高原暢恭(著)労務行政出版より】 

 

前回の社会保障費の記事の中でも書いたように、現在の我が国の労働市場は売り手市場が続いており、特に中小企業ではどの様に自社に有用な人材を獲得・定着させていくかは極めて重要な課題となっています。従って、長澤運輸事件の高裁判決でも述べていた通り、法により義務化された定年再雇用後の労働条件に関しては、企業経営上や人事上の施策として正規雇用の人件費よりもコストを節約しようという意識が働きやすいとも言えますが、それでも中小の場合は大手のように資金が潤沢ではないのが通常ですので、売り手市場で新卒者獲得競争が激しさを増している昨今においては、育児や介護と仕事の両立支援が整備されていることをしっかりとアピールできることや、自社での仕事が社会でどのような貢献役割を果たしているのか、仕事を通じてどのような資格技術を身に着けていくことができるのかといった具体的魅力的なキャリアパスをしめせることも有能な人材を確保するための有効な手段となると思われますので長年自社で活躍してくれた有能な高齢継続労働者が活躍できる場としての環境づくりの中での実現が望まれているといえるでしょう。一方で、企業は昨今の急激な情報化やグローバル化の流れの中で自社の存続をかけ、様々なイノベーションを模索することが必要不可欠であり、自社の人件費を適正に管理することも使用者の重要な使命であり責務といえます。

従って、前述した有能な高齢継続労働者が活躍できる場としての環境づくりと自社に適正な人件費管理を両立できるような給与制度改定が今後の大きな課題になると思われますので、今国会で成立を目指している労働契約法の改正案の中の(指針)については、そのような両立に資する内容を期待して今回の記事を終えたいと思います。

 

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