え~愛?その退職勧奨!

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1月15日朝日新聞の朝刊31面にショッキングなニュースが載っていました。
記事の内容は、某大手企業を退職勧奨されたことによる若者による自殺を伝えるニュースで、精神疾患による労災認定が認定されなかった地裁判決の結果と簡単な事実関係を伝えるものでした。
私は、今月15日に同日付の記事の内容を知らずに前回労働契約の付随的義務のブログ記事を書いていたばかりだったので、本日17日に2日前の新聞をチェックしていて記事を見つけた時は大変ショックでした。
(ちなみに、当該事件自体は、2010年8月20日の出来事

 

こういう内容の事件を聞くたびに、仕事が人の命を奪うことの悲しさを感じざるを得ません。
そもそも仕事というのは、人間の人生を物心ともに豊かにしてくれるものと思っているからです。
大学院卒業後に当該大手企業に入社して6年ということなので年齢的には事件当時33歳と書いてありました。

ショッキングだったもう一つの理由は、その原因が人事部による(執拗な?)退職勧奨だったということです。

 

近年の不況下の中にあっては大手企業をはじめとして多くの日本企業が事業の再構築を迫られました。
退職勧奨というと聞こえが悪いのですが、もともと使用者は、退職勧奨の自由は勿論、解雇の自由をも有しているのです。
但し、解雇の自由に関しては、労使間で争いとなった場合、長期継続雇用を前提に期間の定めのない雇用契約を締結している正社員の場合には、客観的に合理的な理由社会通念上の相当性という基準を満たしているかどうか裁判所の厳しいチェックを受けます。
更に、その解雇が懲戒としてなされた場合には懲戒権の権利濫用判断のチェックも受けることになります。

 

企業の再構築が必要な場面にあっては、整理解雇に先立ち、一時帰休、業務の外注化、時間外労働の削減、新規採用の抑制等の経費削減策、更にそれでも人員削減の必要性がある場合に出向、転籍、退職勧奨や早期退職優遇制度の活用などを検討するという順番になります。
そして、この退職勧奨についてですが、使用者が自由に退職勧奨を成しえる反面、労働者もその退職意思の形成は強要されることがなく、本人の自由意思に任されていることになります。労働者側にも拒絶の自由があるということです。

つまりは、使用者の退職勧奨の自由も信義に従い誠実に行使しなければなりません。
では、どのような場合に問題になるかというと、労働者の自由意思の形成を阻害するような形での退職勧奨の場合に問題になりえます。
詐欺・脅迫は勿論のこと、その態様が強制的であったり、執拗なものであった場合には不法行為を構成し、使用者側に損害賠償義務が生じる可能性があるとされているので注意が必要です。
参考文献:【Q&A労働法実務シリーズ6 中町誠・中山慈夫(編)解雇・退職】(中央経済社 弁護士 加茂善仁著)

 

さて、今回の事件のケースがそのようなケースに当てはまるかどうかですが、新聞の記事自体は退職勧奨の正当性には直接触れずに労災の未認定の顛末についてだけしか記載がなかったため詳細はわかりませんが、事実関係を伝えた内容では、退職を促す人事面談を人事担当者と十数回行っていたとありますし、自殺という結果も招いていますので、自殺の予測可能性がなかったとしても労務管理上まったく問題がなかったとは言えない可能性はあると思います。

 

人事面談の必要性が昨今大いに議論されていますが、会社側には信義則上の一般原則としての安全配慮義務を満たしているかのチェックを含め、人事部側の対応としては、フィードバック面談の意義をもう一度再確認して労使間双方に誤解のないように一定期間毎に定期的に行っていき人材育成へとつなげていくことが重要だと思います。

次回は、精神疾患についての労災認定基準を予定します。